人材確保が困難を極める中、「レンタル移籍」という新たな人材交流が注目を集めている。株式会社ローンディールは、同社が展開する企業間レンタル移籍プラットフォーム「ローンディール」を、西日本電信電話株式会社(以下「NTT西日本」)、トレンドマイクロ株式会社、富士ゼロックス株式会社の大手3社が導入したことを発表した。主に大手企業の社員を中小企業へと「レンタル移籍」させる仕組みであるが、「貸出側」企業は自社では得がたい仕事の経験を積ませることによって、人材育成や新規事業創出を行うことが狙いだ。[提供:経営プロ]
大企業からベンチャー企業へのレンタル累積
レンタル移籍とは、出向等の企業間契約に基づいて、人材が元の企業に籍を置いたまま期間を定めて他社で働く仕組みだ。プロサッカー選手について期限付き移籍の制度があるが、これを一般企業に応用し事業化したのがローンディール社のサービスである。
転職や中途採用ではなく、あくまで出向という形態をとる、人材交流であり、目的は貸出企業の人材育成と受入企業の人材増強だ。
現在ローンディール社が提供するサービスでは、今回導入を決めた3社のような大企業からベンチャー企業へのレンタル移籍が中心となっている。大企業は、将来会社の中で重要なポジションを担わせたいコア人材に、自社では得がたい経験を積ませるため、期間限定で「留学」させるのである。
出向する人材にとっては、独立のリスクを負ったり、せっかく入った大企業でのキャリア設計を捨てたりすることなくベンチャービジネスにチャレンジできる、新たな機会となる。
人材をレンタル移籍するメリットとは
全ての企業において、人材の確保は重要な課題だ。ただし、ベンチャーなどの中小企業と大企業では悩みの質が異なる。
大企業では人材自体の数は足りているものの、セクションごとの専門性を高めた分業化が進んでいる為、得られる経験が限定的になりがちだ。また、業務が仕組化・ルーティーン化されている場合も多く、新しいプロジェクトに参加できる機会が少なかったり、仕事にやりがいを感じることが難しい状況にも陥りがちだ。結果として人材の成長機会の乏しい環境が発生してしまう。
一方、ベンチャーをはじめとした中小企業では慢性的な人材不足に悩まされている。特に、知名度の低いベンチャーでは、コストをかけて採用活動を行ったとしても優秀な人材の目に留まりづらいため、創業メンバー以外で有能な人材を獲得するのが困難な状況だ。当然、新卒採用で教育をする余裕などない。
レンタル移籍のサービスは、このような大小企業のマッチングを行い、双方の強みを交換し弱点を補い合うものである。
レンタル移籍の成功の鍵
レンタル移籍の仕組みを使えば、人材の「貸出側」となる大手企業は、将来の幹部候補となる社員に成長の機会を与えられる。自社とは全く異なる世界で責任重大な仕事に取り組むことができれば、スキル面でもマインド面でも大きな成長が期待できる。
特に、会社が新たな方向性を模索したり、新規事業の立ち上げの検討したりする局面では、自社について熟知し愛着もある社員が、出向先で得た経験から大きな推進力をもたらすだろう。
受入側となるベンチャーにとっては、大企業の幹部候補になるような優秀な人材は、喉から手が出るほど欲しい存在だ。通常では採用困難な即戦力となる人物を、たとえ一時的にでも労せず獲得できるのは大きなメリットである。
出向する本人にとっても、手にしている大企業の籍を捨てることなく、新卒入社した会社以外の世界を経験できるのは貴重な機会となる。実際の出向経験者によれば、大企業の中にいては味わえないような責任感の中で多面的な業務を行うことで、スキル獲得のみならずマインド面で刺激を受け、モチベーション向上に繋がることが多いようだ。
貸出側企業は出向した社員が移籍先で培った知見や情熱を活かせる場を与えられるか。また、受入側企業は、移籍社員が抜けてしまった後の穴をどう埋めるか。それらが、レンタル移籍を真の意味で成功させる鍵となりそうだが、フィットすれば当事者となる社員も含め、三者がWinになるシステムと言えそうだ。
人材育成・補強のためのレンタル移籍は時代に合った流れ
人々の生活が多様化する中、大手企業とはいえども消費者の心を掴むのは容易ではなく、広い視野や豊かな発想力を駆使する必要が生じている。新卒社員の弱点である「自社しか知らない」を克服するべく、既に自社の提携先に中堅若手社員を勉強目的で出向させるケースも増加しているが、その幅を広げるのがローンディールのレンタル移籍システムだ。
株式会社ローンディール創設者の原田未来氏は、「企業の枠を超えて人を育てる世界の実現」を同社のミッションとして掲げている。今後は、異なる地域や業界など、より多様な企業の掛け合わせによる成長機会の創出を目指している。
愛社精神のある優秀な社員が、全く違う会社で経験を積み、広い視野と強い責任感を持てば会社の未来は明るい。ベンチャー側も、大手企業のノウハウに触れることで安定経営のヒントにできることもあるだろう。
国際化する社会において、日本企業の競争力を上げていくためにも企業の枠を超えて人材を育成する新たな時代が始まっているのである。
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