経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

「流されやすい日本社会。経済や社会発展のためもっと議論を深めよ」―武田邦彦(中部大学総合工学研究所特任教授)

「流されやすい日本社会では議論が少な過ぎる」と中部大学特任教授の武田邦彦さんは指摘します。今号ではプライベートでも親交の深い武田さんと、昨今の女性の社会進出や家庭の在り方を踏まえながら、これからの日本経済や社会に求められるものは何かについて語り合いました。

武田邦彦氏プロフィール

武田邦彦

たけだ・くにひこ 東京都生まれ。東京大学卒業。旭化成工業ウラン濃縮研究所所長。東京大学工学博士取得。芝浦工業大学教授、名古屋大学大学院教授を経て、中部大学教授。同大大学院工学研究科総合工学研究所副所長、2014年現職。

女性の社会進出で働き方は多様化の一方で弱さを自覚すべき

佐藤 最近、女性政治家の問題行動がよく話題になります。優秀な肩書を持つ方ばかりですが、「女性の時代」と騒がれ、立場を得て調子に乗ってしまっているのでしょうか。

武田 これは政治家に限った話ではありませんが、男性社会だった日本で女性がようやく台頭し始め、意気込んで背伸びしているところはあるでしょうね。誤解を恐れずに言えば、女性の社会進出で働き方は多様化した一方、社会の質を落としてしまっているのは事実です。家庭のことは詳しいものの、政治や経済についてはまだまだ。女性はこの弱い部分を自覚しなければなりません。

佐藤 それは私も同感です。数字に弱い女性経営者も多いですよね。

武田 多いね。もっとも、小池百合子・東京都知事が就任したときも、本来は「女性初の」なんて頭に付けなくていいんです。

佐藤 都知事が提唱するダイバーシティは性別や年齢、国籍を超えた価値観ですしね。社会の受け入れ態勢がまだ整っていないからでしょうか。

武田 論理的な議論が足りていないんですよ。産業界なら、「誰のための会社か」という議論がまず必要ですし、その上で年功序列や終身雇用といった日本の文化に照らして女性の働き方の論理を固めていかなければならない。それなしに、欧米に行った識者が、「海外ではこういうモデルがある」と言えば、みんな右へ倣えになってしまう。

佐藤 おっしゃるとおりですね。日本は少子高齢社会の現実なども踏まえて考えなければいけないのに。

武田 そう。特に経営者は議論なしに主張の強い人に迎合したり、集団の空気だけで物事を決めているようではダメ。少子化対策もいかにも少子化が悪いように聞こえますが、日本の国土面積等を考えたら人口は4千万人程度が適切なので、少子化はどんどん進めばいい。

高齢社会も、日本は「一億総活躍社会」と銘打ち、要は高齢者を解放しようとしていますが、その割に定年制の縛りがある。女性の活躍を推進すると言いながら、保育所をつくらないのと同じです。先進国の労働人口の平均年齢は、日本やドイツは45歳超、他の国は39〜42歳と差があります。

すると若い働き手に困っていないイギリスと違って、ドイツや日本は産業の活性化のために移民の力などを借りる必要が出てくる。こういう現状を踏まえて、みんなで議論しないから、何でも欧米のまね事になるんです。

佐藤 最近の若者たちの間では、物おじせずに主張したり、議論は増えているように感じます。

武田 議論は増えていますが、基本的な知識などのインプットが弱いから、アウトプットも弱い。若者も女性も高齢者も日本社会を背負って立つには、より一層の勉強が必要です。

反対や圧力に屈せず社会の状況に応じた変革を

佐藤 近頃の家族関係と学校教育についてもお話を伺いたいと思います。今は専業主婦が減り、働きながら育児をする女性が増えています。そこで私が危惧しているのは、若くて元気な女性が子育てだけに力を注いでいると、社会に目が向かず、視野が狭まってしまうことです。せっかくの能力を社会で生かさないのはもったいない。さらに家庭の中で一番偉いのは、お父さんではなく子どもという序列ができています。

武田 明治時代までの日本は形式的には男尊女卑でしたが、家庭で実権を握っていたのは女性で、社会的に優遇されていました。人口を増やさないと国が成り立たないので、女性は徴兵されず、子育てに全力を注げる状況としていたのです。男性は兵役で戦死するから威張っていても文句はなかった。しかし戦争がなくなった今、家族関係をどう築くか。子どもも、親も、社会も幸福に発展していくのが理想ですが、社会状況は大きく変わったのだから、これもきちんと議論されるべきです。

佐藤 学校教育もガタガタで、10年以上前にモンスターペアレンツが騒がれ始めたり、いじめがあっても「学校のせい。先生のせい」と親たちが責任を押し付けています。

武田 悪いのは文部科学省ですね。文科省認可基準で、学習指導要領に則った教育しかできないのだから、教育改革も何もありませんよ。そもそも親はモンペアでいいんです。それに対して、先生が毅然とした態度で教育理念を語れればいい。モンペアに負ける教師にいい教育はできません。私もウラン濃縮研究所所長を務めましたが、反対派にも懐柔派にも屈しませんでしたよ。

佐藤 経営も同じですよね。時代は新しくなっているのに、古いよろいを脱げない経営者は取り残されますし、武田先生のように新しい視点で提案や主張をしたときに、長いものに巻かれたり、反対派に屈するようでは、何もできませんよね。

佐藤有美と武田邦彦

武田 できません。だから、自力で稼がずに受信料で食べているNHKのような古い組織はみんな潰してしまえばいい。残したいなら、借金してでも新しい事業や自己変革に取り組むようにする。ところが、今は小学校でも節約が美徳で借金はダメだと教えているし、経営者の会合でもそう。投資や消費なくして発展はあり得ません。ガッカリしますよ。

佐藤 日本人は美徳という言葉に弱いんですよね。節約ばかりでは経済は発展しません。だからこそ今、議論が必要なんですね。

武田 そのとおり。経済や社会はそこから発展していくものですよ。

似顔絵=佐藤有美 構成=大澤義幸 photo=佐藤元樹

経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界ウェブトップへ戻る