文字の心理学1.筆跡は心の状態を表す
PCやスマホの普及によって、自らの手で文字を書く機会は随分と減った。久しぶりに文字を書こうとして、ごく簡単な漢字が思い出せずに愕然とした経験のあるビジネスパーソンも多いのではないだろうか。
とはいえ、デジタル全盛の時代だからこそ、手書きのお礼状などを貰えばグッと心に刺さるもの。特に経営者クラスになれば、書類に自筆のサインを求められる場面も多いだろう。ここぞというときに恥をかかないためにも、しっかりとした文字を書きたいところだ。
「筆跡にはその人の心の健全度が表れます。」
こう語るのは筆跡診断士として、さまざまな筆跡を分析してきた林香都恵氏。林氏によれば、成功者の筆跡には共通の特徴があるという。筆跡を整えることでマインドを整えたり、勢いをもたらしたりできると語る。
特に有効なのは自分の名前を書くことで、「上手い下手ではなく、堂々と大きく書くことが大事」だという。文字の大きさや勢いは、そのまま書き手の勢いを表すからだ。
その例として、林氏は安倍晋三首相の筆跡の変遷を挙げる。
首相が初めて自民党の総裁選に出馬した時の文字(安倍総理の筆跡1)を見てみよう。特に自身の名前の部分に注目すると「収まりは良いものの凡庸な感じ」(林氏)だという。
小泉純一郎、田中角栄、橋本龍太郎など、歴代の首相と比べると勢いに乏しい。その後、安倍首相が体調を崩して辞任したのは周知のとおり。
その後、自民党が下野し、再び政権を奪還する前の文字(安倍首相の筆跡2)と比べてみると違いは一目瞭然だ。字が上手くなったというより、全体的に勢いが出ているのが見て取れる。
企業経営者の中では、特徴的なサンプルとしてよく使われるのが、松下幸之助氏のサインだ。松下氏のサインはそれぞれの文字が大きくなったり小さくなったりする「大字小字混合型」である点が特徴で、これは平凡なことが嫌いで、物事にアクセントをつけたくなる人に見られる傾向だという。
このほか、気力体力が充実しているときには後ろの文字になるほど大きくなる傾向があり、名前を書く場合は、全体的に三角形のシルエットになるのが良いとされる。
松下氏の場合は「助」の字を大きく、かつ、つくりの部分が大きな器をつくるように書くことが多かったが、これは「仕事やチャンスが数多く入ってくることを示しています」と、林氏は解説する。
文字の心理学2.豊田章男社長の筆跡の特徴は?
これらを踏まえて、日本を代表する企業、トヨタ自動車のホームページにアップされていたサインから、豊田章男社長の人物像を林氏に診断してもらった。
豊田氏も松下幸之助氏と同じ大字小字混合型で、平凡なことが嫌いな気質が表れている。「章」の字は丸みを帯びており、これはクリエイティヴなセンスがあって、明るい性格であることを示している。
一方、「田」の字が角張っているのは、ルールや伝統を重んじる気質の表れだという。「角張りと丸みが混在していて、両方のセンスを持ったバランスの良い人」(林氏)というのは、まさに、現在の豊田氏のポジションに合致した筆跡と言えそうだ。
トップの文字には社風が表れる。勢いが求められる創業経営者は躍動感のある文字、調整役としての役割が重視されるサラリーマン経営者であれば、整った文字を書いていれば、組織は安泰かもしれない。
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