経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

第2回 アイデアは大雑把でいい。「質より量」でいい -加藤昌治

加藤昌治

【連載】『考具』著者が教える、自ら企画し行動する社員の育て方

「経済界ウェブ」読者の皆さま、こんにちは。加藤昌治です。社員あるいは部下の方々から「アイデア入りの企画」を出しやすくする環境マネジメントを実践的に考える本連載。第2回の今回は、アイデアや企画出しの際によく出てくる「質より量」というハナシ。今回はその「量を出す」ためのマネジメント方法を探ります。(文=加藤昌治)

加藤昌治氏のプロフィール

加藤昌治
(かとう・まさはる)1994年広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』(CCCメディアハウス)、『発想法の使い方』(日経文庫)、ナビゲーターを務めた『アイデア・バイブル』(ダイヤモンド社)のほか、新著『仕事人生あんちょこ辞典』(共著:角田陽一郎。KKベストセラーズ)など。

まずは読者からのご質問と前回の復習

質問:そこそこの規模がある企業の営業課長をしています。部下は15人ほどおりますが、全員にアイデアを出させる方法はあるのでしょうか?

質問:社員5人、年齢も職歴もバラバラな零細企業の経営者です。アイデアを出せ、と言ってもそう簡単には出ない気がするのですが……。

質問:前回の記事(「『企画』と『アイデア』は同じモノではありません」)で「アイデアはたくさん出す」とありましたが、具体的にはいくつ必要でしょうか?

 はい。ご質問ありがとうございます。 今回のテーマ「アイデアの量を出す」に関しては、企業の規模や職種やキャリアの長短、基本的には関係ありません。経営者や管理職、いわゆる上司の立場で整えるべき環境デザインの基本は同じです。

 復習がてら、図「アイデアと企画とを分ける」で全体像を確認しておきましょう。「アイデアと企画とは別モノ」。そして「アイデアだけを考える時間、アイデアを選ぶだけの時間、アイデアを企画として整えるだけの時間に三分割」が基本的な構造でした。今回のご質問の領域は、図1の左側「アイデアという選択肢を出す」ってどうしたらいいの? ですね。

アイデアと企画とを分ける
筆者作成

 アイデアは、まだ企画ではありません。つまり、最終的に必要とされる要素をまだ全てを持っていない状態です。そんな不完全なモノ・コトを紙に描いて、人に見せる? なんて社員や部下の方々からすればハードルが高い、言い換えればとても怖い行動です。いきなり「やってみて?」と優しく言われても怖いものは怖い。依頼する側であろう読者の皆さんには、このマネジメントスキルが必要になるのです。

部下に「大雑把なアイデアでいいの?」と思わせたら成功

 まずは部下の方々にこの段階で作って欲しいアイデアとは、どんな「仕上がり」なのでしょうか? 図2がサンプルです。個人的には「アイデアスケッチ」と呼んでいます。スケッチなので大雑把、細かい記述は不要です。

加藤昌治著『発想法の使い方』
加藤昌治著『発想法の使い方』

※いずれも、加藤昌治著『発想法の使い方』(日経文庫)より

 え……こんなの?! という印象ですよね。「アイデアはまだ企画ではない」状態を見える化したものです。「アイデア入りの企画」と私が称しているように、アイデアってまだ途中、いわば「中間生産物」なのです。この段階をすっ飛ばしていきなり企画化作業に入ってしまうと、つまらない「アイデアなしの企画」になってしまう可能性が高まります。

 一方で「アイデアを考えてきて?」というのは、実はとっても抽象度の高い、イコール理解および対応が大変なオーダーです。部下の方々にとって「アイデアを描くとは、何を作業することなのか?」が明確になっていないからです。そんな時に役立つのが「事例」です。

 つまり、「え、こんなので良いの?」という描きっぷり(中身のクオリティではなく)、「仕上がり」(まだ途中ですけど)のスケッチのイメージを具体的に見せてください。「これくらいしか文字がないなら、いくつか描けるかも」と、数に対する心理的抵抗を下げられたら成功です。

 この時点では「1行だけドーン」もOK、補足も数行で十分です。整える時間は後でいくらでもありますから。アイデアの記述、スケッチは短くてOKです(ベテランが多い組織では特に。経験がアイデアスケッチにまだ描かれてないことを補ってくれたりしますし)。

 ここでアイデアスケッチのtips。アイデアスケッチは無記名をお勧めします。アイデアは、アイデアオリエンテッドに評価するべき。上司が考えた「から」採用されるとか、この職種の人が考えたアイデアだ「から」ダメだとか……時々お見かけしますが、まったくもって不要。数を出していくことで、自分らしい「わがまま」なアイデアが出やすくする効果はバカにできません。

 また、アイデアは「1枚1案」にしてください。100案なら100枚。無駄でしょ! という声も聞こえてきそうですが、反故紙をうまく活用するなりで環境配慮と両立させてください。デジタルであっても「1案1枚」の原則は同じです。これには理由がありまして、「アイデアは動かせる」環境に置いておくと、後ですごく便利なんです(詳しくは「アイデアを選ぶ」の段階でご説明します)。

 なお、デジタル化やリモートワーク化に対応する意味も含めて、アイデアスケッチは「紙に直接描く」もしくは「デジタルデータとして打つ」の2種類が可能でしょう。これも詳しくは「アイデアを選ぶ」段階での話になりますが、集まったアイデアスケッチは、できる限り一覧したい。紙なら壁や机に広げる。デジタルデータならクラウドにまとめて、スクロールすることで一覧が可能です。

 このアイデアスケッチ、上司の皆さんにもぜひ慣れて欲しい中間アウトプットです。企画立案に責任を負う立場として、「こ、こんなチャランポランな、メモみたいな……」で現時点のアイデア記載方法としては十分、にご自身が慣れてほしいのです。

 さてここで、このスケッチが音声だったらどうでしょう? 実際に「アイデアが生まれた会議」では、アイデア自体が語られた時間は短くても機能していたのではないでしょうか? 特に最初の一撃は。それだけで「おお~」と盛り上がり、そのアイデアの核心をつかみ、そのままじゃできないだろうけど、着地できそうな気はするな、と感じた経験はありませんか? この経験をお持ちの方は、すでに「アイデアと企画とは別である」をご体験済みなんですよね。それを「スケッチのカタチでやる」だけです。

数を集めるのは上司に必須のマネジメントスキル

 読者の皆さんの立場からすれば、アイデア自体は短くてもいい分、数はたくさん欲しい。だってまだ単なる選択肢です。「アイデア入りの企画」にたどり着きたい上司としては、「アイデアの段階」で数をたくさん集めるのも必須のマネジメントスキルです。

 シンプルなのは、出してもらうアイデア(スケッチ)の個数、もっといえば最低数を決めてしまうこと。なんちゃってノルマです。アイデアを考え始めて……よくあるのは、最初は一般的な差し障りないアイデアばかりが出てくるケース。この壁を苦し紛れに越えてもらうためのハードルとして数を求めるのです。これは効果的です。

 5つじゃ少ないですね。徐々に増やしていくにしても、10個や15個は当たり前。20個くらいは目指したい。当然ながら、20個あって、その全てがグッドアイデア! なんてことはまずありません。私自身の体験値では、20案のうち、まあ良いかもが1案(一応プロとして)。2つあったら調子いいな、3つあったら帰り道怖い……くらいの低確率です。このように、「量」にはダメなアイデアも大量に含まれていることになります。

 ではいつ、その20個を出すのか? は基本的には個人作業の時間でやり繰りしてもらうのがお勧めです。全員会議室に集合して一斉に……ではなく。アイデアが出やすい状況は人によって違います。朝型、ちょこっとした暇時間型、没頭型――。自分なりのパターンを探ってもらいつつ、上司としては「アイデアを考え、アイデアスケッチを描くための工数の確保」と「提出期限までのアイデア総数/全数」をマネジメントしてください。

 また、上司視点でやって欲しくない行動は、「部下が考えたアイデア(選択肢)を、部下自身がセレクトして、上司であるあなたに持参すること」です。なぜなら、社員・部下自身に選ばせると、その選択がズレていることがよくあるからです。

 アイデアの数が多いと、選択肢に全て目を通すのは大変で工数もかかります。が、本当の良案を見過ごす方が危険ですよね、上司としては。なので「どの段階のモノを、どの状態で持ってこさせるのか」をキチンと指示することが重要になります。

 あらためて、冒頭で書いた「質より量」を言い換えると、まずは「質は問わないから、量をたくさん出せる人になる」。そして、たくさん量を出せるようになると、その中に良質のアイデアが含有されるようになる。発見されやすいようになる、という順番。考えた1番目がすごいアイデアという人は少数派です。凡人の我々は、数をたくさん出す中で、愚策もいっぱいある中で、キラリと光るアイデアもある。それくらいの感覚で良いのではないでしょうか。

 さらに言えば、組織として1つ、キラリとしたアイデア入りの企画が誕生すれば塞翁が馬です。当然ボツ案はたくさんあります。それでOKです。

アイデアを出すことをためらわない積極的な部下が育つ

 一方、アイデアを出す部下・社員視点からの選択肢をたくさん出すことの効能は2つあります。まずは「たくさん出すと、(自分としてはくだらない、つまらない)アイデアが含まれざるを得ない。しかしそれで上司から怒られることはない」という態度を獲得できること。この態度があると、アイデア出しの打ち合わせが活発になります。正解探しや上司への忖度がない(ゼロではないにしても、相当少ない)集まりになるからです。

 もう1つは、数をたくさん出せることで「ちょっとどうかな?」と迷うアイデアも堂々と潜り込ませることができるようになります。迷うアイデア、結構あります。迷う理由はいくつかあるでしょうけれども、大きいのは「新しいから」、そして「わがまま」だから。苦し紛れに出てきたアイデアって、期せずして「自分濃度」が濃くなっています。すなわち「わがまま≒我が・まま」です。でも本来はそれでバッチリ。否定する必要はありません。

 ただ、自分としては出すかどうか、判断が付きにくいアイデア、選択肢であるのも確かです。で数を自分のレイヤーで絞らなければいけないとなると……捨てがちですよね? 経営者視点、上司視点から見れば「可能性を捨てる」になるわけです。新しい、まだ価値の定まってないアイデアを出すことを積極的に応援する、そういう人材を育成していくためにもアイデアという選択肢を数多く出してもらうことが役に立つ、と真剣に思っています。

まとめ ~アイデアの数を出させる段取りとご質問募集

 最後に、段取りを整理しておきましょう。

①お題に対して「まだ選択肢としての単なるアイデア」を数多く持ってくるように指示する

②アイデアスケッチのサンプルを提示し、アイデアを出す、描くことへのハードルを下げる

③振り出された各人は、自分の時間を使ってアイデアスケッチを何個以上、描く。※紙もしくはデジタルで。「1案1枚」が原則。

④アイデアスケッチは出した本人の選択を認めず、全て提出を基本とする。

 ここまでの段取りを上司と部下の皆さんで共有し、実践できるようになると組織としてのアイデア力の中央値が劇的に向上していきます。次回はより具体的に「量を出すための個人技」などに触れていく予定です。お楽しみに!

※本連載では読者の皆さまから加藤氏へのご質問もお待ちしております。質問は全て加藤氏にお届けします。その質問、送ってください!

質問送り先:企画編集担当・大澤osawa@keizaikai.co.jp

(タイトルに「加藤氏連載の質問」とご明記のうえ、本文に「質問内容」と、記事の感想なども頂けたら嬉しいです)