【連載】『考具』著者が教える、自ら企画し行動する社員の育て方
「経済界ウェブ」読者の皆さま、こんにちは。加藤昌治です。広告会社で仕事をしながら、アイデアを出す、企画にまとめることをテーマに何冊か書籍を書き、ワークショップを実施していたりします。今回、ご縁がありまして、経済界ウェブでの連載を始めることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。(文=加藤昌治)
加藤昌治氏のプロフィール
社長が社員に落胆した「企画出し」のエピソード
さて、第1回は「考えるって何をすること?」「アイデアって、企画って何?」。そして「アイデアを社員や部下、あるいはチームメンバーに考えてもらうために、経営者や上司は何をするべきなの?」といった、「そもそも論」からスタートします。
まず次のエピソードをご一読ください。
【社長が社員に落胆したエピソード】
社業拡張を目指して、新規事業を立ち上げよう! と決めたとある社長さん。10人ほどの社員さんたちに「新規事業の企画を持ってきて欲しい」と依頼(実際は指示です)をしました。締め切りがやってきて、社長の机には10本の企画書。それぞれに事業企画が書かれています。「10本もあるのか!」と驚きながら各企画書のページをめくった後、社長が発したのは「うーん、全部つまらないな……」。同じようなご経験、経営者や管理職の皆さんにもありませんか?
このエピソードに対する私の返事は、「社長! それ、社長の指示が間違ってます!」です。間違っているのはどこでしょう?
企画には「アイデア入り・なし」の2種類がある
「企画には2種類ある」とワークショップで、常に、必ずお伝えしています。世の中にあふれる企画には、「アイデア入りの企画」と「アイデアなしの企画」があります。
え、アイデアと企画って違うの? はい。アイデアと企画とは別モノです。アイデアは企画のパーツ、要素です。もっとも、パーツではあるのですが、とっても大事なパーツです。アイデアとは、「その企画の魅力の源泉」。だからアイデアって、その企画の中に入っていたり、なかったり、という分類ができるわけで、言い方を換えると「魅力のある企画」と「魅力のない企画」でもあるわけです。
魅力のない企画を実施するなんて、バカバカしい上に予算に時間に人財、つまりはリソースの無駄遣い。上司として採用するわけにはいきません。経営者や上司・管理職の立場の皆さんとしては、魅力のある企画、すなわち「アイデア入りの企画」を立ててもらうのがお仕事であるはずです。
注)アイデア、企画という単語に込める意味は人によって違います。本稿では、加藤なりの定義になります。
では、どうしたら「アイデア入りの企画」が生まれるのか? 残念ながら、100%の確率で絶対うまくいく必殺法則はありません。
ただし、ベースの確率を上げる方法、段取りはあります。それは「考える順番」です。「アイデア入りの企画」をつくる(ないしは生まれやすい)順番は、「先にアイデア、その後で企画(作業)」です。ところが、多くの企業や職場では、この段取りを意識して社員・部下に指示しているケースを私はあまり見かけません。
3ステップでアイデアと企画とを分ける
ここまでの話を図解にしてみます。「アイデア入りの企画」が誕生するステップは、大きく3つに分かれます。
・わがまま……お題に対して「個人」が考えるアイデア。時には妄想を含む。数はたくさん欲しい。まだ企画化されていないので、そのままでは実現不可能な前提(でも、出す!)。
・思いやり……アイデアを「整える」こと。予算や納期など、さまざまな制約に応対させることで、アイデアを実現可能な状態に移行させるプロセス。
第1ステップ:アイデア「だけ」を考える
第1ステップでは、「アイデア『だけ』を考える」。最初から全体像を考えると、失敗する確率が上がってしまいます。アイデアって企画のパーツ、しかし魅力の源泉パーツ。ビジネスっぽく言い直せば、価値の源泉です。ここをまず考える、つまりアイデアを出すことが順番として肝要です。
もう1点、図に「アイデア(選択肢)」と記しました。ですので、アイデアはたくさん出します(皆さんの立場からすると、出してもらいます)。たくさん、っていくつ? 2つや3つじゃありません。時間的制約など各種制限の中で、できるだけ数多く出してもらう。このステップがあるかないかで、その後が大きく変わってきてしまいます。
第2ステップ:価値があるアイデアを「選ぶ」
第2ステップは、たくさん出た(アイデアという)選択肢の中から、「これイケるな!」と魅力がある、価値があるアイデアを「選ぶ」。なお、この時点では、まだ企画にはなっていません。上司の目から見ると、穴だらけ。ツッコミどころ満載です。でもそれでOKです。なぜならば、続く第3ステップで、「選んだアイデアを企画として整える」からです。
第3ステップ:選んだアイデアを企画として「整える」
企画として整える? これわざと極端な言い方をしましたが、強いて言えば、考えるというよりは整える。まだフワフワしてツッコミどころだらけの、だけど魅力を感じる価値の源泉であるアイデアを、実施できるレベルまで整えていく。これがアイデアを企画として整える、と称している次第です。
この企画として整える段階では、これまでの経験が大きくモノを言います。予算これくらいかかるな、工数はこれくらいだな、あるいは誰それにお願いしたらイケるな、と経験豊かなベテランの方(経営者や上司である皆さんのことです)には、「アタリ」が付くはずです。
この「整える」は、別の言い方をすれば「丸める」とも言えます。ビジネスの現場は本当に制限だらけ。予算に納期にナントカに……いろいろ我慢しなければいけないことだらけ。当然それはやらなければ実施もできません。利益も出ません。だから整える≒丸めること自体は悪いことではありません。
しかし、そこでやってしまいがちなのが「丸めすぎ」問題です。そして経験あるベテランは「丸め上手」なんですよね。放っておいたら、ツルッツルのまるっまる、になってしまいます。ご経験ありませんか?
一方で、ベテランの皆さんが、まだ荒々しいアイデアを見た瞬間に思うことは「んー、そのままじゃできないけど、80%ぐらいならできるな?」です。経験豊かな人は、そのアイデアの整え方、がすでにある程度見えているはず。ところが、アイデアを企画として見てしまうと、そりゃ全部NG。ほとんど全てのアイデアは整っていませんから。
アイデアは企画ではない、と申し上げる理由がここにもあります。アイデアって、100%そのままは実現できません。必ずどこかを丸くする必要があります。なので、ギザギザと尖った、しかしそのままでは実行厳しい「アイデアを出す時間」と、実現に向けて「企画として整える時間」を一緒くたに、同時に行うことは本来やってはいけないことなのです。
大事なのは、「アイデアと企画」と「考える順番」。この2つを物理的に、時間軸的に分けて行うことが「アイデア入りの企画」を手にするための秘訣です。
さて、企画を考えよ、と命じられた社員・部下の立場に立ってみると「う、企画を出さなきゃ」というプレッシャーを当然ながら感じます。するとどうなるか。企画として整えることに、与えられた時間の大半を割いてしまいがちです。
図で示した、魅力の源泉であるはずのアイデアを考えることはすっ飛ばして、企画として「成立」させることにリソースを割いてしまう。その結果は言うまでもなく「アイデアなしの企画」ばかりが書類になってくる、さみしい未来があるだけです。
作業を分割し、状況を把握し、指示を出すのが社長の仕事
冒頭のエピソードに戻りましょう。社長さんは「企画持ってこい」と指示を出しました。社員さんは「整える」に重心を割いてしまいがちです。そして企画書を見た社長コメントが「つまらないな」でした。でも実のところ、社長さんが本当に見たかったのは「アイデア」だったのではないでしょうか? しかし「企画持ってこい」だと出てくるモノはズレてしまう。
私が「指示が間違ってますよ」と言うのはココ。社長や経験豊かな上司の方にとってまず必要なのは、欲しいのは「価値あるアイデア」のはずです。そのアイデアを(多少は丸めつつ)企画として整えるのは、ある意味簡単だからです。最終的に実施したい企画は1つだとしたら、「アイデアなしの企画(書)」が10本あるより、まだ企画に整ってないアイデア(という選択肢)がたくさんの方が嬉しいのではないでしょうか?
だって、ダメなアイデアを企画に整えてもらった、その時間がもったいないじゃないですか。それよりも「素敵アイデア」を1つだけ企画として整える方が工数全体を考えても「お得」なんじゃないだろうか。常々そう思っています。
各プロセス「アイデアをたくさん出すだけ」「選ぶだけ」「選んだアイデアを整えるだけ」に作業を分割し、プロセスの途中途中で状況を把握し、指示を出していくことが、アイデア・企画を出してもらう立場の人の仕事です。
このプロセスを全部一緒にやってこい、は実は相当乱暴な話。また実はあったかもしれない「良いアイデア」が自分の目に触れることなく社員・部下レイヤーで葬り去られてしまうのも、よくある失敗です。
この一連のプロセスを部下任せにせず、経営者・上司としてマネジメントしていくことができれば、「アイデア入りの企画」が誕生する確率はぐっと上がります。とはいえ、「じゃあどうするの?」なご質問がたくさん沸いてきたのも想像がつきます。
第2回以降は、皆さんからの疑問・質問にお答えしていくかたちで、「アイデア入りの企画が生まれやすい環境マネジメント」へのヒントを具体的に見える化していきます。ではまた次回!