経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

第1回 「企画」と「アイデア」は同じモノではありません -加藤昌治

加藤昌治

【連載】『考具』著者が教える、自ら企画し行動する社員の育て方

「経済界ウェブ」読者の皆さま、こんにちは。加藤昌治です。広告会社で仕事をしながら、アイデアを出す、企画にまとめることをテーマに何冊か書籍を書き、ワークショップを実施していたりします。今回、ご縁がありまして、経済界ウェブでの連載を始めることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。(文=加藤昌治)

加藤昌治氏のプロフィール

加藤昌治
(かとう・まさはる)1994年広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』(CCCメディアハウス)、『発想法の使い方』(日経文庫)、ナビゲーターを務めた『アイデア・バイブル』(ダイヤモンド社)のほか、新著『仕事人生あんちょこ辞典』(共著:角田陽一郎。KKベストセラーズ)など。

社長が社員に落胆した「企画出し」のエピソード

 さて、第1回は「考えるって何をすること?」「アイデアって、企画って何?」。そして「アイデアを社員や部下、あるいはチームメンバーに考えてもらうために、経営者や上司は何をするべきなの?」といった、「そもそも論」からスタートします。

 まず次のエピソードをご一読ください。

【社長が社員に落胆したエピソード】

 社業拡張を目指して、新規事業を立ち上げよう! と決めたとある社長さん。10人ほどの社員さんたちに「新規事業の企画を持ってきて欲しい」と依頼(実際は指示です)をしました。締め切りがやってきて、社長の机には10本の企画書。それぞれに事業企画が書かれています。「10本もあるのか!」と驚きながら各企画書のページをめくった後、社長が発したのは「うーん、全部つまらないな……」。同じようなご経験、経営者や管理職の皆さんにもありませんか?

 このエピソードに対する私の返事は、「社長! それ、社長の指示が間違ってます!」です。間違っているのはどこでしょう?

企画には「アイデア入り・なし」の2種類がある

 「企画には2種類ある」とワークショップで、常に、必ずお伝えしています。世の中にあふれる企画には、「アイデア入りの企画」と「アイデアなしの企画」があります。

 え、アイデアと企画って違うの? はい。アイデアと企画とは別モノです。アイデアは企画のパーツ、要素です。もっとも、パーツではあるのですが、とっても大事なパーツです。アイデアとは、「その企画の魅力の源泉」。だからアイデアって、その企画の中に入っていたり、なかったり、という分類ができるわけで、言い方を換えると「魅力のある企画」と「魅力のない企画」でもあるわけです。

 魅力のない企画を実施するなんて、バカバカしい上に予算に時間に人財、つまりはリソースの無駄遣い。上司として採用するわけにはいきません。経営者や上司・管理職の立場の皆さんとしては、魅力のある企画、すなわち「アイデア入りの企画」を立ててもらうのがお仕事であるはずです。

 注)アイデア、企画という単語に込める意味は人によって違います。本稿では、加藤なりの定義になります。

 では、どうしたら「アイデア入りの企画」が生まれるのか? 残念ながら、100%の確率で絶対うまくいく必殺法則はありません。

 ただし、ベースの確率を上げる方法、段取りはあります。それは「考える順番」です。「アイデア入りの企画」をつくる(ないしは生まれやすい)順番は、「先にアイデア、その後で企画(作業)」です。ところが、多くの企業や職場では、この段取りを意識して社員・部下に指示しているケースを私はあまり見かけません。

3ステップでアイデアと企画とを分ける

 ここまでの話を図解にしてみます。「アイデア入りの企画」が誕生するステップは、大きく3つに分かれます。

アイデアと企画とを分ける
筆者作成

 ・わがまま……お題に対して「個人」が考えるアイデア。時には妄想を含む。数はたくさん欲しい。まだ企画化されていないので、そのままでは実現不可能な前提(でも、出す!)。

 ・思いやり……アイデアを「整える」こと。予算や納期など、さまざまな制約に応対させることで、アイデアを実現可能な状態に移行させるプロセス。

第1ステップ:アイデア「だけ」を考える

 第1ステップでは、「アイデア『だけ』を考える」。最初から全体像を考えると、失敗する確率が上がってしまいます。アイデアって企画のパーツ、しかし魅力の源泉パーツ。ビジネスっぽく言い直せば、価値の源泉です。ここをまず考える、つまりアイデアを出すことが順番として肝要です。

 もう1点、図に「アイデア(選択肢)」と記しました。ですので、アイデアはたくさん出します(皆さんの立場からすると、出してもらいます)。たくさん、っていくつ? 2つや3つじゃありません。時間的制約など各種制限の中で、できるだけ数多く出してもらう。このステップがあるかないかで、その後が大きく変わってきてしまいます。

第2ステップ:価値があるアイデアを「選ぶ」

 第2ステップは、たくさん出た(アイデアという)選択肢の中から、「これイケるな!」と魅力がある、価値があるアイデアを「選ぶ」。なお、この時点では、まだ企画にはなっていません。上司の目から見ると、穴だらけ。ツッコミどころ満載です。でもそれでOKです。なぜならば、続く第3ステップで、「選んだアイデアを企画として整える」からです。

第3ステップ:選んだアイデアを企画として「整える」

 企画として整える? これわざと極端な言い方をしましたが、強いて言えば、考えるというよりは整える。まだフワフワしてツッコミどころだらけの、だけど魅力を感じる価値の源泉であるアイデアを、実施できるレベルまで整えていく。これがアイデアを企画として整える、と称している次第です。

 この企画として整える段階では、これまでの経験が大きくモノを言います。予算これくらいかかるな、工数はこれくらいだな、あるいは誰それにお願いしたらイケるな、と経験豊かなベテランの方(経営者や上司である皆さんのことです)には、「アタリ」が付くはずです。

 この「整える」は、別の言い方をすれば「丸める」とも言えます。ビジネスの現場は本当に制限だらけ。予算に納期にナントカに……いろいろ我慢しなければいけないことだらけ。当然それはやらなければ実施もできません。利益も出ません。だから整える≒丸めること自体は悪いことではありません。

 しかし、そこでやってしまいがちなのが「丸めすぎ」問題です。そして経験あるベテランは「丸め上手」なんですよね。放っておいたら、ツルッツルのまるっまる、になってしまいます。ご経験ありませんか?

 一方で、ベテランの皆さんが、まだ荒々しいアイデアを見た瞬間に思うことは「んー、そのままじゃできないけど、80%ぐらいならできるな?」です。経験豊かな人は、そのアイデアの整え方、がすでにある程度見えているはず。ところが、アイデアを企画として見てしまうと、そりゃ全部NG。ほとんど全てのアイデアは整っていませんから。

 アイデアは企画ではない、と申し上げる理由がここにもあります。アイデアって、100%そのままは実現できません。必ずどこかを丸くする必要があります。なので、ギザギザと尖った、しかしそのままでは実行厳しい「アイデアを出す時間」と、実現に向けて「企画として整える時間」を一緒くたに、同時に行うことは本来やってはいけないことなのです。

 大事なのは、「アイデアと企画」と「考える順番」。この2つを物理的に、時間軸的に分けて行うことが「アイデア入りの企画」を手にするための秘訣です。

 さて、企画を考えよ、と命じられた社員・部下の立場に立ってみると「う、企画を出さなきゃ」というプレッシャーを当然ながら感じます。するとどうなるか。企画として整えることに、与えられた時間の大半を割いてしまいがちです。

 図で示した、魅力の源泉であるはずのアイデアを考えることはすっ飛ばして、企画として「成立」させることにリソースを割いてしまう。その結果は言うまでもなく「アイデアなしの企画」ばかりが書類になってくる、さみしい未来があるだけです。

作業を分割し、状況を把握し、指示を出すのが社長の仕事

 冒頭のエピソードに戻りましょう。社長さんは「企画持ってこい」と指示を出しました。社員さんは「整える」に重心を割いてしまいがちです。そして企画書を見た社長コメントが「つまらないな」でした。でも実のところ、社長さんが本当に見たかったのは「アイデア」だったのではないでしょうか? しかし「企画持ってこい」だと出てくるモノはズレてしまう。

 私が「指示が間違ってますよ」と言うのはココ。社長や経験豊かな上司の方にとってまず必要なのは、欲しいのは「価値あるアイデア」のはずです。そのアイデアを(多少は丸めつつ)企画として整えるのは、ある意味簡単だからです。最終的に実施したい企画は1つだとしたら、「アイデアなしの企画(書)」が10本あるより、まだ企画に整ってないアイデア(という選択肢)がたくさんの方が嬉しいのではないでしょうか?

 だって、ダメなアイデアを企画に整えてもらった、その時間がもったいないじゃないですか。それよりも「素敵アイデア」を1つだけ企画として整える方が工数全体を考えても「お得」なんじゃないだろうか。常々そう思っています。

 各プロセス「アイデアをたくさん出すだけ」「選ぶだけ」「選んだアイデアを整えるだけ」に作業を分割し、プロセスの途中途中で状況を把握し、指示を出していくことが、アイデア・企画を出してもらう立場の人の仕事です。

 このプロセスを全部一緒にやってこい、は実は相当乱暴な話。また実はあったかもしれない「良いアイデア」が自分の目に触れることなく社員・部下レイヤーで葬り去られてしまうのも、よくある失敗です。

 この一連のプロセスを部下任せにせず、経営者・上司としてマネジメントしていくことができれば、「アイデア入りの企画」が誕生する確率はぐっと上がります。とはいえ、「じゃあどうするの?」なご質問がたくさん沸いてきたのも想像がつきます。

 第2回以降は、皆さんからの疑問・質問にお答えしていくかたちで、「アイデア入りの企画が生まれやすい環境マネジメント」へのヒントを具体的に見える化していきます。ではまた次回!