2021年に東証マザーズ(現グロース)市場へ上場を果たしたユミルリンク。月間70億通を超える、高度なセキュリティと信頼性が求められる企業向け大規模メール配信とSMS配信を中心に手掛けている。組織改革に加え、AIなどの最新技術を活用し、時代に即応するサービスを構築する。(雑誌『経済界』2023年5月号「注目企業2023」特集より)
ユミルリンク 社長 清水 亘氏
大量メール配信サービスとSMS配信が会社の強み
上場企業の導入実績は現在261社。メール配信サービス「Cuenote(キューノート)」は、企業がプロモーションなどに活用し、ユミルリンクの売り上げの80%を占める主力事業だ。2001年以降、インターネット上でアプリケーションサービスを提供するSaaS事業を中心に展開してきた。「メール配信」には古いイメージがあるが、SNS時代でもマーケティングやインフラとして多岐にわたって活用されており、重要度が増している。
「キューノートは企業プロモーションのほか、航空チケットの予約確認や、金融・保険商品の約定通知など、多くの業界・業種で活用いただいています。配信間違いや遅延が許されない大量のメール配信を担っており、当社はインフラを支える役割を果たしていると自負しています」と清水社長は述べる。
同社のサービスは1時間当たり最大1千万通、月間最大70億通送信という大規模通信を担っている。総人口数と同程度のメールを1カ月で送っていることになり、業界トップクラスの通信量だ。顧客は大手航空会社や大手メーカー、メガベンチャーなど有名企業が居並び、有効契約数は2千を超える。
加えて19年からは、宅配便の通知などで活用されているショートメッセージサービスを開始。現在は売り上げの15%を占め、開始当初より200%の伸び率を誇る。運輸業の配達通知や電気・ガス会社の料金案内、本人認証などに使われている。ショートメッセージはスマホ画面にポップアップ表示されるため、開封率は90%と高いのが特徴だ。
また、携帯電話の番号と紐付いており、ネット限定販売商品の転売防止策として相性も良い。通常のメールアドレスの場合、複数のアドレスで応募が可能だが、電話番号と紐付いたショートメッセージであれば、応募は1回しかできないからだ。
他にも安否確認サービスや防災・防犯通知サービスなどを通じて自治体や警察、学校などでも活用されている。
エンジニアに重要なのは新しさへの探究心
毎年10人ほど採用しているユミルリンクは、今後も事業規模の拡大に合わせて積極的に採用を増やしていくという。
「当社のエンジニアの割合は50%ほど。その比率を維持しながら、事業を伸ばしていきます。企業と消費者とのコミュニケーションの手段は一層増えており、当社のサービスもまだ伸びていくと考えています」
期待する人物像は「探究心のある人」だ。
「インターネットの世界は日進月歩で進化していきますから、サービスや機能をより良いものへと最適化するには探究心が必要です。特にエンジニアは、新しい開発言語を探求できる人を常に求めています」
同社は全てのサーバーを自社保有し、内部完結でクラウド基盤を構築している点が強みとなっている。一般的にはクラウドなどネットワーク・サーバーシステムは、AWSなど外部のサービスを活用し運用されていることが多いからだ。
「大規模かつ膨大なトラフィックを取り扱うため、社外・社内でサーバーを構築する場合を比較すると、社内で構築した方がスケールメリットを得られます。ただし、個人情報を預かっていますから、責任は重大です。セキュリティ面でも信頼を寄せていただいています。既にノウハウが蓄積されていますから、興味がある方にとっては面白い会社です」
システムを自社完結させることで必然的にエンジニアの手掛ける範囲が広がり、成長志向の人にとっては魅力的な環境となっている。
プラットフォームを構築し日本を代表するSaaSベンダーへ
今後はAIツールと連携し、サービスを一層強化していく。
「保守業務を中心にAIを活用していますが、AIサービスを新たに展開していくというよりも、AIを活用して既存のサービスをより強力なものに進化させています」
サービス面では、メールやSMS、LINEなどさまざまなメッセージングチャネルを統合管理できるプラットフォームの提供を計画中だ。煩雑な顧客の業務を簡素化し、マーケティング効果の向上に寄与できるという。しかし一方で、「本質は変わらない」と清水代表は話す。
「SNSやメタバースなどが発達して新しい手段が生まれても本質は変わりませんし、メールやショートメッセージは企業の情報伝達手段として長く使われると考えています。たとえ代替手段が出てきても、マーケティングを支援する、コミュニケーション効率の高い手段を企業に提供する本質は変わりません」
さらに一昨年の東証グロース市場上場に当たり組織改革を進めた。営業やマーケティング、技術、管理系の役員に権限委譲することで、現場の意思決定がしやすく、スピード感のある柔軟な体制を整えた。「役員室もなくて風通しがよく、フラットにコミュニケーションが取りやすい会社です」と語る。
「当社は日本を代表するSaaSベンダーを目指しています。共にサービスを広げ、創っていける人にぜひ集まってきてほしいです」
会社概要 設立 1999年7月 資本金 2億7,385万円 本社 東京都渋谷区 従業員数 112人(2022年12月現在) 事業内容 メッセージング ソリューション事業 https://www.ymir.co.jp/ |