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物流ドライバー不足の切り札「自動物流道路」はいつできる?

物流2024年問題が本格化してから間もなく半年。人口減少の続く日本では人手不足の抜本的解消策は難しい。その解決の一助になるかもしれないのが、高速道路の地下などを使い、自動で荷物を運ぶ専用輸送路をつくろうという試みだ。果たして実現できるのか。文=ロジビズ・オンライン編集長/藤原秀行(雑誌『経済界』2024年10月号より)

2030年には3分の1の荷物が運べない

 トラックドライバー不足などの深刻な課題を抱える物流業界の窮状を打開するため、国土交通省は既存の高速道路の空いているスペースを有効活用し、自動走行するカートに荷物を載せ、無人で運搬する「自動物流道路」の開発に乗り出している。国交省が設置した官民の検討会は7月に策定した議論の中間取りまとめで、東京~大阪間を念頭に設置することなどを提言。岸田文雄首相は関係閣僚らに対し、今後10年で自動物流道路を実現するよう指示した。

 ドライバーら物流を担う人手はますます不足していくことが見込まれ、物流の持続可能性にも懸念が広がっているだけに、国交省はゼネコンや輸送機器メーカーなどと組み、先端技術を駆使して「次世代の物流大動脈」を構築したい考えだ。

 ただ、同様の構想はスイスや英国でも進められているが、実用化には至っていない。巨額に上る建設費を誰が負担するのかをはじめ、クリアすべき課題は山積しており、国交省には迅速かつ丁寧な議論と積極的な情報の公開が強く求められる。

 「東京~大阪間で構想する自動物流道路における2027年度までの実験実施と、30年代半ばまでの第1期区間での運用開始、こうした革新的取組に官民連携で体系的に取り組む」。岸田首相は7月25日、首相官邸で開いた「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」で、こう言及した。

 同会議は今年4月に始まったトラックドライバーの長時間労働規制の強化に伴い物流現場の混乱が懸念される「2024年問題」など、物流が抱える課題への対応を協議・確認する場だ。岸田首相はドローン航空路の敷設や高速道路での自動運転などの先進的な技術活用の中に自動物流道路を位置付け、「国交相を中心に政府一丸となって対処し、来年度予算および秋に予定する経済対策を含め、長期ビジョンに立った対策を迅速に講じてもらいたい」と関係閣僚に指示した。

 国交省が自動物流道路の構想を進めていく意向を明確に打ち出したのは、昨年10月に社会資本整備審議会(国交相の諮問機関)道路分科会国土幹線道路部会が策定した「高規格道路ネットワークのあり方」の中間取りまとめだ。今後、高速道路をどう変革させていくかに関する意見の中で、2024年問題など物流の構造的な課題克服と温室効果ガス排出削減を図るため、先進技術を駆使して自動化・省人化を実現する「自動物流道路(オートフロー・ロード)」を整備するよう提唱している。

 今年2月には、「2030年度に向けた政府の中長期計画」で、「10年での実現を目指し、具体化に向けて検討する」ことが政府の方針として正式に掲げられた。

 政府内でこうした構想が浮上してきた背景にあるのが、深刻さを増しているトラックドライバー不足だ。業界団体の日本ロジスティクスシステム協会(JILS)が20年に公表した調査結果では、道路貨物運送業の運転従事者(ドライバー)数は1995年の980万人から2015年は767万人と20年間で約2割減った。そこから30年までの15年間でさらに24・8万人減少し519万人まで落ち込むと見積もっており、35年間で見ると実に4割強も人員数が縮小する可能性があるとみている。

 NIPPON EXPRESSホールディングス系のシンクタンク、NX総合研究所が22年に公表した試算では、30年度の時点で営業用トラックの輸送能力が需要に対して19・5%(5・4億トン)不足すると推計。さらに、2024年問題の影響と合わせると34・1%(9・4億トン)に拡大するとの見方を示した。

 野村総合研究所が23年1月に公表した予測によれば、2024年問題の影響もあり、30年には全国でドライバーが足りず、約35%の荷物を運べなくなる恐れがあると指摘。特に東北など地方エリアで厳しい状況に陥ると解説。危機的な予想が相次いで出されている。

 ドライバー不足への抜本的な対策を講じなければ、物流の持続可能性に赤信号が灯りかねない状況だ。そこで、自動物流道路を実現し、大都市間などの幹線物流を自動化・省力化することでドライバー不足をカバーしようというのが狙いだ。

建設中の新東名高速で無人レーンを想定

 国交省が自動物流道路を検討する上で参考にしているのが、スイスや英国の事例だ。スイスは主要都市間を結ぶため、地下に総延長約500キロメートルもの輸送専用トンネルを造り、自動運転のカートを24時間体制で走らせる物流システムを計画している。31年までに最初の区間で運用を始め、45年までに全線で開通を目指している。

 一方、英国はロンドンで既存の鉄道敷地内に全長16キロメートルに及ぶ低コストのリニアモーターを使った完全自動運転による物流システムを敷設する計画が進められている。この物流システムを使い、大手物流事業者の物流施設から小売事業者の物流施設や店舗などへ直接商品を届けることを検討している。

 国土幹線道路部会の中間取りまとめは、この2つのプロジェクトを参考にして、道路空間を最大限活用し、徹底した省人化を図る自動物流のシステムを構築する必要があると主張。「逼迫する物流需要を踏まえれば、こうした発想を実現していくスピード感が重要であり、通常であれば 30~50年とかかるパラダイムシフトを10年で実現する気概を持って当たることが重要である」と強調しており、国交省の意向を汲んだ内容となっている。

 国交省は今年2月、自動物流道路の方向性などを議論する検討会の初会合を開催、検討をスタートさせた。メンバーは大学教授ら有識者と経団連、全日本トラック協会、高速道路運営会社などが名を連ねている。

 検討会が7月に決定した議論の中間取りまとめは、物流量が最も多い東京~大阪間を念頭に、今後自動物流道路のルート設定などの議論を進めていくよう提案。まず先行ルートで運用を開始し、徐々に延長するよう言及している。また、実用化の前提として、実験線を早期に整備し、技術やオペレーションの検証を進めるよう要請。新東名高速道路の建設中区間(新秦野~新御殿場)を活用することなどの検討も提唱している。

 機能の面では24時間稼働させるとともに、輸送と保管の両機能を統合し、荷物を一定程度ためておいて需要に応じ順次荷物を送り出せる「バッファリング機能」を備えるよう要請。鉄道など他の物流モードと円滑に接続、連結できるようにすることも必要と説明している。今後は検討会で、具体的なルートや荷物を搬送する技術の在り方、道路の地下や中央分離帯などどの部分を活用するかといった詳細を詰めていく予定だ。

 国交省は東京~大阪間で自動物流道路を運営した場合、1日にトラック約1・2万~3・5万台の輸送を代替し、ドライバーに換算すれば約1万~2・5万人を省力化できると効果をアピールしている。物流業界からは「実現すれば画期的」などと期待する声が上がる一方、「中央分離帯に自動物流道路を設けるのは安全面で大丈夫なのか」といった懸念も聞かれる。国交省が参考にしているスイスや英国も計画の詳細を詰めている段階で実用化には至っておらず、計画通り順調に進むかどうかは予断を許さない。

 また、巨額の建設費用をどのように捻出するかも大きな課題だ。国交省が検討会で提示した資料によれば、自動物流道路を地上に整備する場合の工事費は10キロメートル当たりで254億円、施工期間は13年を要すると試算。地下に整備する場合は同じ距離で70億~800億円、施工期間は2・3~4・8年と計算している。仮に東京~大阪間の約500キロメートルで建設する場合、この試算に基づいて単純計算すると地上案で約1兆2700億円、地下案で3500億~4兆円となる。スイスのプロジェクトも建設費用として約5・7兆円を見込んでおり、財源をどう確保するのかが重要なポイントとなる。

 運用主体は国が関わるのか、民間がベースとなるのかや、どのように採算を取っていくのかといった基本かつ重要なポイントについても検討はこれからだ。国交省の前のめりな姿勢が目立つが、前例のない巨大な物流変革プロジェクトは冷静な議論が欠かせない。