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ローソン上場廃止で変わるコンビニ大手3社の新・戦国時代

7月末、コンビニ大手ローソンが上場を廃止した。日本のコンビニ市場は、セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートの3強が続くが、首位セブン以外はいずれも商社などの子会社となった。ここから日本のコンビニはどこに向かうのか。ジャーナリスト=下田健司(雑誌『経済界』2024年10月号より)

企業価値向上よりも三菱商事の資本政策

ローソン

 コンビニエンスストア大手のローソンが7月24日、東証プライム市場で上場廃止となった。2024年2月6日、三菱商事、KDDI、ローソンの3社は資本業務提携契約を結び、KDDIが約5千億円を投じてローソンに対するTOB(株式公開買い付け)を実施し、三菱商事とKDDIがローソンの株式を50%ずつ保有する「共同経営」にあたることを発表していた。4月にTOBが成立し、少数株主から株式を買い取る手続きを経てローソンは非上場化された。

 3社の資本業務提携の発表資料によると、この提携によって三菱商事とKDDIはローソンのリアルとデジタル、そしてグリーンの3つの領域で次のような取り組みを検討するという。

 リアルでは、ローソン(約1万4600店舗)とKDDI(約2200店舗)を合わせた約1万6800店舗のネットワークを構築。ローソン店舗でKDDIの商品・サービスを扱ったり、KDDI店舗(au Style/auショップ)でローソンの商品・サービスを扱ったりするほか、ローソン店舗でリモート接客の導入を検討する。

 デジタルでは、KDDIとローソンが持つ会員情報(顧客属性・購買情報)の連携による国内最大級の顧客データ基盤を活用。ローソンでの買い物に利用できる、KDDIとローソンの利用者向けサービスを開発し、ローソン店舗への送客を拡大する。またKDDIのDX(デジタルトランスフォーメーション)の知見・技術を提供しローソン店舗運営の最適化を図る。

 グリーンでは、ローソンへの太陽光パネルの設置や発電によるCO2排出量削減、ローソンで生じる廃食油を原料としたバイオディーゼルの製造などサーキュラーエコノミー事業を推進するほか、プラスチック容器やペットボトル素材をバイオ系素材に置き換えることでプラスチック使用量を削減する。

 だが、これらの検討している取り組みを見ると分かるように、めぼしいものは見当たらないし、ローソンにおける新しい戦略がうかがえるものもない。

 KDDIは19年12月にローソンと資本業務提携し、ローソンに2・1%出資している。この提携では両社の顧客基盤を生かしたデータマーケティングの推進やKDDIの先端テクノロジーとローソンの店舗網を組み合わせ、データや金融サービスを絡めた次世代型コンビニサービスを展開するとしていた。だが、その後のローソンを見ると成果に乏しい。KDDIは今回のTOBにより、持分法投資利益としてローソンの純利益の5割を取り込めるようになるが、ローソンとの提携による事業における収益効果は見通せない。

 三菱商事・KDDI・ローソン提携のねらいは、ローソンの企業価値向上とは別のところにある。

 00年1月にローソンの株式20%をダイエーから取得し、翌01年2月に出資比率を29・8%に高め筆頭株主となった三菱商事は、17年にTOBによってローソンへの出資比率を33・4%から50・1%に引き上げ連結子会社としていた。三菱商事はKDDIによる今回のTOBを通じて出資比率を50%に引き下げ、ローソンを連結から外し、持分法適用会社化することで資産効率の改善を図るのが狙いなのである。連結会計では子会社の資産を取り込む必要があるが、持分法適用会社の場合にその必要はなく利益を持分比率分だけ取り込むことになる。

 ローソンの総資産は24年2月期末2兆2974億円。23年、国際会計基準の任意適用の結果、適用前の1兆3372億円から大きく膨らんでいる。三菱商事は連結会計でこれを外す結果、資産効率を改善できる。

 三菱商事の流通分野での事業投資の見直しは他にもある。24年5月、外食チェーン「ケンタッキーフライドチキン」を展開する日本KFCホールディングスの全保有株式(約35%)を米投資ファンドのカーライル・グループに売却すると発表した。日本KFCは1970年に米KFC社との合弁で設立。2007年には親会社となったが、15年に株式を売却し、保有比率は低下した。全保有株式の売却は9月に完了する予定だ。

 日本KFCとは違って、ローソンについては50%の株式を保有し続ける。ローソンの24年2月期の純利益は521億円(76%増)で10期ぶりに過去最高を更新した。三菱商事はローソン純利益の50%分を取り込み、さらに25年3月期に1233億円の再評価益を計上するという。

親会社が戦略を転換。合弁相手と関係悪化

ファミマ

 ファミリーマートも4年前に伊藤忠商事の完全子会社となり非上場化された。ローソンと同じ総合商社系列コンビニの非上場化だが、ローソンの場合とは背景が異なる。

 ファミリーマートは伊藤忠が50・1%を保有する連結子会社だったが、20年に伊藤忠の約5800億円を投じたTOBによって完全子会社化された。

 伊藤忠とファミリーマートの関係は古い。 1998年に伊藤忠はファミリーマートの約30%を取得し持分法適用会社とした。2010年代に入ると、ファミリーマートは、伊藤忠と提携関係にあった総合スーパー、ユニーと傘下のコンビニ中堅サークルKサンクスと経営統合し、規模を拡大。ユニーの取り込みと切り離しを行う過程で、伊藤忠はファミリーマートの保有比率を50・1%に引き上げ、連結子会社化していた。

 伊藤忠はファミリーマート完全子会社化のねらいを伊藤忠の経営資源の一体活用による、店舗運営の省力化や物流合理化、新たなビジネスモデルの創出、そして海外事業の強化としていたが、完全子会社化の背景にあったのは中国問題だ。

 04年、ファミリーマートは台湾系食品大手の頂新グループと合弁会社チャイナ・シーブイエス・ホールディング(CCH)を英領ケイマン諸島に設立(ファミリーマート約4割、頂新が約6割を出資)。中国本土の上海や広州、蘇州などで店舗を展開し、約2500店舗に達していた。

 ところが18年、ファミリーマートが頂新に利益相反取引に関する情報未開示や、長期のロイヤルティ支払遅延に起因した回復し難い信頼関係の破壊があったとして、CCHの強制解散命令、その代替手段として頂新が保有するCCH株式のファミマ側への売却を求める訴えをケイマンの裁判所に起こしたのである。

 合弁相手との関係悪化を招いた要因とされるのが伊藤忠の中国戦略の転換だ。伊藤忠は09年、頂新に20%出資した。しかし、14年にタイの華僑系財閥チャロン・ポカパン(CP)グループと株式を持ち合い、15年に中国最大の政府系企業CITICの株式20%をCPと折半出資で取得。CITIC、CPと生活消費分野で中国事業の展開に乗り出した。これを境に、伊藤忠を介して頂新と組んだ日系メーカーは合弁を相次いで解消。15年に頂新株式の一部を売却していた伊藤忠は18年2月、全株を売却した。ファミリーマートの中国進出の絵を描いた伊藤忠としては、ファミリーマートを非上場化して問題解決にあたる必要があったと見られている。

 ただ、この中国問題もここへきてようやく解決に向けて動き出している。ファミリーマートが24年3月、頂新と中国事業の再編で合意したと発表したのである。発表では、中国で展開している4エリア(華東、華南、華北、西南)での競争が激化するなかで、持続的な事業拡大実現には早急な対応が必要との認識が一致。エリアごとに事業主体者をそれぞれファミリーマートと頂新に分けて経営責任を明確化し意思決定スピードを上げ、事業拡大を図るとしている。

 こうして見ると、ファミリーマート、ローソンの非上場化は、親会社である総合商社自身の戦略変更によるところが大きい。

1Qでの減収減益はセブン-イレブンのみ

セブン

 ファミリーマートに続いてローソンも非上場化されたコンビニ業界だが、セブン-イレブン・ジャパンを含めた大手3社の24年2月期決算は、新型コロナウイルス禍の収束による人流回復が追い風となり、揃って好業績を残している。

 出店については、ファミリーマートが店舗数を大きく減少させており調整局面にあるが、セブン-イレブンが持ち直しの兆しも見えてきている。セブン-イレブンは出店556、閉店445、期末店舗数は2万1363店舗。ファミリーマート(単体)は出店258、閉店521、期末店舗数は1万5343店舗。ローソン(単体のローソン、ナチュラルローソンのみ)は出店261、閉店240、期末店舗数は1万3394店舗だ。

 セブン-イレブンは、24年1月に公表した出店戦略で26年2月期から出店を再加速するとした。従来、セブン-イレブンはドミナント戦略に基づく積極出店・拡大戦略、KPI(重要業績評価指標)として営業利益の量的成長を重視してきたが、コロナ収束後の人流回復、高齢化に伴う商圏の変化も成長の機会と捉え、これまでの出店抑制から積極出店へ転換するという。

 コロナ禍では新規出店に慎重だったが、24年2月期には投資効率を重視した出店基準の見直しをしたうえで、エリアに応じた出店戦略(12県の重点出店強化エリア)を設定し出店。25年2月期については、出店630、閉店480を計画している。26年2月期は300店舗規模の純増が目標だ。店舗数の拡大に伴う量的成長と併せて、資本効率を意識した出店戦略による閉店に伴う特損の減少により純利益の改善にもつながっていくと自信を見せる。

 ただ、セブン-イレブンは25年2月期第1四半期(24年3〜5月)に減収減益となった。再成長へ向けて動き出すセブン-イレブンだが、スタートでつまずいている。

 ファミリーマート、ローソンについては、セブン-イレブンとの格差が歴然としている。株式市場の目を気にせずに改革に取り組めるメリットを生かし経営体質を強化するだけでなく、長期的な成長に向けた国内外の出店、サプライチェーン改革などで総合商社ならではの戦略支援や投資案件も必要となりそうだ。