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クリエーティブの力でeスポーツカルチャーをかっこよく 西原大輔 GANYMEDE

西原大輔 GANYMEDE

累計大会優勝回数95回を誇り、日本eスポーツアワード2024でも所属プレーヤーを含めて7部門で受賞した、国内トップチームZETA DIVISION。その実力もさることながら、コンテンツや公式HP、SNSなどの制作力で多くの若者を惹きつける一面も。元デザイナーでオーナーの西原大輔氏に話を聞いた。聞き手=小林千華 Photo=@GANYMEDE(雑誌『経済界』2025年4月号「『ゲーム』を超えるeスポーツ」特集より)

西原大輔 GANYMEDE代表のプロフィール

西原大輔 GANYMEDE
西原大輔 GANYMEDE代表
にしはら・だいすけ 岡山県出身。eスポーツチーム「ZETA DIVISION」のオーナー。20代よりグラフィックデザイナー、アートディレクターとして広告や音楽アーティストのアートワークなどのクリエーティブシーンでキャリアを重ね、2018年よりeスポーツチーム運営に携わる。

「ニッチで地味」変えるためチームオーナーの道に

―― 2021年7月、eスポーツチーム「JUPITER」から「ZETA DIVISION」に名称を変更。ロゴや公式サイトのデザインも刷新するなど大きなリブランディングを図り、話題になりました。

西原 リブランディングのきっかけになったのは、従来の「JUPITER」というチーム名では商標登録ができなかったことです。僕らは18年に比較的後発チームとして発足し、当時影響力の大きかったチームに追いつけ追い越せの勢いで頑張ってきました。その手段のひとつとして、チームをIPとしてきちんと成長させていくことも必要だろうと。しかしチーム名が商標登録できないと分かり、チーム名の変更をいかにポジティブなニュースとして受け止めてもらうか、人々の記憶に残るものにするかと考えてリブランディングを図りました。

 チーム名やロゴなどの変化以外にも、人気ストリーマー(配信者)の電撃加入、日清食品さんなど大企業がスポンサーとして新たに入るというニュースもありました。それらをばらばらに発表するのではなく、連動させてチームの一大変化として発表したこと。また、ニュースの見せ方も、クリエーティブ面を重視する僕ららしく、SNSやライブ配信などを組み合わせながら趣向を凝らしたことで、リブランディングの成功事例として評価いただきました。

 あれから3年半たち、現在では90人を超えるプレーヤー、ストリーマーを抱える、日本で最も大規模なeスポーツチームに成長できました。

―― 西原さんはもともとデザイナーだったそうですが、どうしてeスポーツチームの運営に携わったのでしょうか。

西原 若い頃からストリートカルチャーが好きで、グラフィックデザインを仕事にしていました。具体的にはミュージシャンのアートディレクションや、企業の広告施策などです。

 仕事の傍ら、趣味でゲームの大会を見るようになったとき、あるアマチュアチームのファンになって、勝手にそのチームにクリエーティブを提供するようになったんです。そこからゲーム業界の運営側の人々とも知り合う機会が増えて、創業につながりました。

 僕が初めてeスポーツに触れた時、海外では既に熱狂的なカルチャーができていた一方で、日本ではまだまだニッチで地味な印象があって。率直に言うと「もっとかっこよく見せてあげたいな」と思っちゃったんです。そこで仕事柄、特にチームの見せ方の部分で「俺だったらこうするのに」と思ったことを、今形にしているところもありますね、振り返ってみればですけど。

 強さを追求することに加え、日本のeスポーツをもっとかっこいいカルチャーにしたい思いで業界に入り、21年のリブランディングでもその意思を体現できたと思っています。

―― GANYMEDEのビジネスモデルについて教えてください。

西原 僕らは手元の資金をベースに、売り上げを立てて利益をつくって、また次の年も事業の中で利益をつくって……の地道な繰り返しです。外部から先に資金を調達して回しているチームや、大手企業の一事業として運営されているチームとはお財布事情が異なりますね。

 収入としては一般的なスポーツチームと同じく、スポンサーフィー、グッズやアパレルといったマーチャンダイズの売り上げなどがあります。最近ではイベント事業にも力を入れていて、1万人以上を動員する大規模なゲームイベントを年に数回開催できています。それでも僕らの事業ポートフォリオはどれか一種類の割合が飛び抜けて大きいということはなく、均等なバランスを保ちつつ成長を続けています。

実力と魅力を兼ね備えた「応援される」チームへ

―― 22年に人気FPSタイトル「VALORANT」世界大会で3位を獲得し、一気に話題になりました。当時は地上波ニュースでも多く取り上げられたことと思います。

西原 そこからぐっとファンが増え、大手企業やマスメディアからのお声がけも増えました。例えばJCBさんと、コラボデザインのクレジットカード発行など、若年層へ向けた取り組みをご一緒するようになりましたし、女性向けファッション雑誌でもカラー特集を組んでいただいて。従来のeスポーツチームの枠組みを超えた存在になる大きなきっかけになりました。

 もともと僕らは「VALORANT」がリリースされた当時から強くて、年間で出場する大会でほぼ負けなしの状況だったんです。加えてその大会時のチームは、キャラクター的にもそれぞれに魅力的なメンバーが集まっていて、応援してくれる方がたくさんいた。それに「VALORANT」は、世界的にも日本国内でもすごく流行っているタイトルだったので、余計国内でも話題にしてもらえた部分はあったと思います。

その時の盛り上がりは今でも続いていますね。現在僕らの「VALORANT」チームは、日本代表として韓国での国際リーグに参戦しているのですが、日本から現地まで応援に来てくださるファンの方も多いです。

―― 強いプレーヤーと応援されるプレーヤーは違うのでしょうか。

西原 ニアリーイコールではあります。応援されることがチームの目標だとしたら、その手段の中に強くなることはもちろん入ってくる。その上で他にもかっこいい、おもしろいなど、応援されるための要素はいろいろありますね。今はいわゆる「推し活」のような形で応援してくれるファンの方も増えていて、プレーヤーのファンミーティングを行ったりもします。

 強いことはもちろん重要ですが、それ以外の部分にも僕らはフォーカスしていきたいです。

―― フォーカスというのはマネジメント上のことでしょうか。

西原 そうですね。プレーヤーのマネジメントに関して、僕らはやれることは全部やっています。競技面で強くなるための協力はもちろんするし、タレント的な仕事の受注もする。プレーヤーは個人事業主なので、税務関係などバックオフィス的なサポートもします。またコンプライアンス教育や、誹謗中傷への対応など、プレーヤーやチームの価値を守るための取り組みには、地道にではありますが力を入れています。

 その一方で、僕らが重視しているのはチームビルディングです。才能溢れるスタープレーヤーたちを集めたとしても、時にはぶつかり合うことも出てきます。プレーヤー同士の性格などを見極めて、大会までにどういうコミュニケーションをとってもらうか、どう後押しするか考える。それで歯車がうまくかみ合えば、一人一人の能力以上の相乗効果を発揮するのがチームプレーのすごさです。

 そうしたマネジメント体制やコンテンツ制作力を含めて僕らが、日本のeスポーツ業界のリーディングカンパニーとして文化をつくっていく。プレーヤーもスタッフも、そういう視座でやっています。