経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

実は逆進性緩和効果の低い消費税の軽減税率

「軽減税率、企業の反応注視、品目で与党素案、まず食料品、導入時期も焦点に」

自民、公明両党は5日、生活必需品の消費税率を低くする軽減税率制度の素案を発表した。対象品目の検討作業は「まずは飲食料品分野とする」とし、8案を示した。年末にまとめる与党税制改正大綱に向け、対象品目を飲食料品以外にも広げるか、消費税率を10%に引き上げたときに導入するかなど、制度の詳細を検討する。(中略)

今回示した対象品目の案は飲食料品をすべて対象にするものから、精米だけに絞ったものまでの8案。消費税率1%あたりの減収額は200億〜6600億円と幅がある。

(日本経済新聞2014年6月6日)

消費税率2%引き上げによる年収別負担増

軽減税率は分かりやすい逆進性対策に見えるが….

結論としては、2015年10月の消費増税に対して何らかの形での逆進性への配慮が必要な場合、軽減税率の導入は適切ではないと考える。

そもそも、可処分所得対比で見れば、それほど逆進性は大きくない。非消費支出の項目を見ると、所得税や住民税が累進課税となっているためだ。

総務省「家計調査」を用いて、年収階層別にどれだけ消費税率2%引き上げに伴い負担が生じるかを試算した。いわゆる額面である実収入対比と、そこから直接税や社会保険料を除いた可処分所得対比のそれぞれについて試算すると、実収入対比では確かに逆進性が検出される。

一方、可処分所得対比では、消費税に逆進性があっても直接税の累進性で調整され、実収入対比ほどの明確な逆進性は検出されない。

こうした中で、軽減税率は最も必需性が高い食料品等の税率を優遇するため、一見分かりやすい逆進性対策に映る。

しかし、所得の低い世帯では、食料品等に支出する金額が少なく、軽減税率に伴う実質的な還付額も小さくなってしまう。逆に、それだけ軽減税率の対象を広げれば、支出額の高い高所得世帯に実質的な還付額が増えてしまう。

問題点としては、まず、軽減税率の適応範囲を合理的に設定することが困難であるため、業界を挙げての議論となり収拾がつかなくなる可能性がある。

また、軽減税率に伴い事業者の事務負担が増加するという問題がある。実際に、食料品は軽減税率であっても、食料品を生産するためのエネルギーや設備等は標準課税となるため、取引により税率が異なり、事業者や当局の事務コストが増加する状況に陥る。加工食品等については、食材軽減税率でもその他の部分は標準税率となるため、価格は上がらざるを得ない。

こうした問題点がある中で、絶対額で見れば高所得者ほど実質的な還付額が大きくなり、軽減税率の目的である逆進性緩和の効果が限定的となる。EU諸国で既に導入されているからと言って、必ずしも日本で軽減税率を導入すべきとは言い切れない。つまり、消費税の逆進性対策を施す場合には最大限の公平性やコストへの配慮が必要なのである。

逆進性対策がなければ後の消費増税が困難に

一般的な試算では、酒類と外食を除く食品全般と新聞・書籍等を対象品目とすると、1%当たり4900億円程度の減収になるため、15年10月の2%引き上げ時には1兆円近い減収になるが、代替財源は示されていない。これは、社会保障財源を毀損するため、他分野で負担増が必要となることを示唆している。

一方、消費税の逆進性対策として給付付き税額控除が効果的という議論があるが、これは次回の消費増税時には導入できない。

わが国では所得把握のためのマイナンバー制度導入が16年となっているため、15年10月の消費税引き上げには間に合わないからだ。どの程度を低所得とみなして給付するかの線引きが難しく、所得の補足もれや貯蓄が把握できない。このため、所得は少なくても貯蓄の多い世帯まで優遇してしまう可能性がある。

なお、今年4月からの消費増税における逆進性対策として低所得者給付が打ち出されている。しかし、これは住民税非課税世帯が対象となっているため、低所得でも貯蓄の多い世帯にまで給付してしまう可能性がある。

結局、内閣府が公表している経済財政の中長期試算を考えると、消費税率を10%まで上げてもプライマリーバランスの20年度黒字化は困難で、さらなる消費増税は不可避な状況だ。消費増税を実施してもコストが低く公平性の高い逆進性対策を併用すれば、その後の消費増税も実施しやすくなるが、逆に逆進性対策をせずに国民の不満を高めてしまうとその後の消費増税が政治的に困難になる。

その意味でも、消費増税時の逆進性対策には慎重な対応が必要だ。

 
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