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社員の3分の1を異動したWOWOWと田中晃社長の危機感

WOWOW社長 田中晃氏

日本初の民間有料衛星放送のWOWOW。過去には倒産危機に陥りながらも、最近は12年連続で加入者を増やしている。しかし事業環境は厳しくなるばかりで、ネット動画配信が足元を脅かす。そこでWOWOWは7月に社員の3分の1を異動に踏み切った。その狙いは――。文=関 慎夫

WOWOWにとっての脅威はネット動画配信

DAZN襲来でWOWOWのライバルスカパー!は加入者減

 「競合・競争のステージが変わった。この中で生き残るには、今こそコンテンツに力を入れ、クリエーターに魅力的な場を提供していく」と語るのはWOWOWの田中晃社長。足元の業績は堅調で、12年連続で加入者を増やし続け、前3月期には売上高、経常利益とも過去最高を記録した。しかし実際には厳しい戦いが続いている。

 ネットフリックスにhulu、アマゾンプライムビデオにDAZN等々、定額制のネット動画配信は、今ではすっかりおなじみのものとなった。それだけではない、dTVや楽天TVなど、国産勢も加入者を増やしている。

 定額制動画配信が本格化したのは2015年のこと。アメリカで急激に加入者を伸ばしていたネットフリックスが上陸したことがきっかけだった。数万ものコンテンツが最安プランなら月額650円で好きな時にデバイスを問わずに見られるというサービスは、既存のコンテンツ提供会社からは「黒船襲来」と恐れられた。

 中でも大きな影響を受けると思われるのがWOWOWだった。WOWOWの月額料金は2300円。映画に加え、スポーツや音楽、ドラマなどのオリジナルコンテンツが人気を集めていたが、放送であるため決まった時間に決まった番組しか見ることができない。となると、料金でもコンテンツでも、ネットフリックスに代表される動画配信には太刀打ちできないのではないのか、とみられていた。実際、WOWOWの株価は、15年3月の4225円をピークに下落を続け、1年後には2182円と半値になった。

 しかしWOWOWは津波に耐えた。前述のように毎年加入者を増やし続け、今年6月末現在で288万人に達した。黒船襲来の中でのこの数字は、健闘といっていい。

 田中社長も「精いっぱい頑張っている」と自らを評価する。しかし同時に「外資の攻勢がボディブローのように効いている」と本音を漏らす。

 動画配信会社が、映画やドラマなどの豊富なコンテンツを定額、オンデマンドで配信するだけならWOWOWにはいくらでも戦いようがある。映画はWOWOWも動画配信も力を入れている。コンテンツ数では配信に軍配が上がるが、話題の映画をいち早く定額の範囲内で見られるという意味ではWOWOWに優位性がある。このほか、今年で言えば安室奈美恵などのライブ放送や、錦織圭の出場するテニス・グランドスラムの中継などはWOWOWのオリジナルコンテンツであり、視聴者を引き付ける。最近では「ドラマW」と銘打たれたオリジナルドラマも高い評価を受けている。

 しかし「競争環境はさらに激化している」と田中社長は危機感を募らせる。

 競争激化の象徴とも言えるのが、16年のDAZNの進出だった。DAZNは年間7500試合以上のスポーツコンテンツを配信するスポーツ専門サイトで、プロ野球、Jリーグなどを筆頭に数多くのスポーツを配信している。中でも衝撃的だったのが、昨年、Jリーグの全試合の完全中継に踏み切ったことだ。それまでJリーグはスカパー!のキラーコンテンツだったが、DAZNは10年間2100億円で独占放映権を手に入れた。これによりスカパー!ではJリーグを放映できなくなり、15年度末には348万人だった加入者は、17年度には326万人と大きく落ち込んだ。

危機に直面するWOWOWが生き残る条件とは?

金額だけで測れない価値を提供できるか

 これをWOWOWに置き換えてみれば、テニス・グランドスラムを動画配信会社に奪われるということだ。テニスはこれまで、WOWOWが手塩にかけて育ててきたコンテンツだ。かつては加入者増につながらず、しかも試合時間が読めないため、社内から「録画中継にすべし」との声も出ていた。それでも生中継にこだわり続けていたところ、錦織圭の活躍によって一気にブレークした。しかしこのコンテンツも、外資が資金力を背景に、奪いにくる可能性がある。

 スポーツに限ったことではない。昨年7月、アマゾンジャパンは毎日放送の人気アニメ枠「アニメイズム」の独占配信権を獲得した。また多くの動画配信会社によるクリエーターの囲い込みが加速している。

 動画配信会社、中でも外資には圧倒的資金力がある。ネットフリックスは世界で1億3千万人の加入者がいる。アマゾンの時価総額はアップルに次ぐ世界第2位。彼らが資金力にものを言わせてコンテンツやクリエーターを手に入れようとすれば、WOWOWに勝ち目はない。どうやって戦っていこうというのか。

 「すべてのコンテンツを守ることはできなくても、重要なコンテンツに資金を投下する。そう簡単には引き下がらない。それと大事なのは、競争相手より金額が安くても、選んでもらえるようになる。そのスポーツにとって、WOWOWで中継することが、ほかよりも競技にとってプラスになることを分かってもらう。実際、そういう例も出ています」(田中社長)

 テニスの例でも分かるように、WOWOWは中継するスポーツが日本で根付き、成長するための努力をしてきた。こうしたお金では買えない価値を提供していけば、放映権を持ち続けられるというのだ。

 これはクリエーターに対しても同様だ。WOWOWのドラマの評価が高いのは、スポンサーなどの制約がないため、クリエーターが自由に創作できるためだった。動画配信でもCMは入らないため、条件は同じに見える。しかしそれは違うと田中社長は言う。

 「より良い作品をつくるには、クリエーターと当社のプロデューサーが何を実現するのか目的を共有することが必要です。これに関しては、WOWOWにはテレビ局としてのDNAが流れており、一日の長があると信じている」

 クリエーターに対して「自由につくっていい」というだけではなく、作家と編集者のように、二人三脚で制作することが重要なのだという。

局長9人中7人、部長28人中17人を新たに任命

 そのためには、WOWOW自体がクリエーティブな会社になる必要がある。これは田中社長が3年前に就任した時から言い続けていることだ。それを徹底するために7月1日付で大幅な組織改革と人事異動を行った。

 WOWOWには約300人の社員がいるが、3分の1の100人を異動。局長ポスト9のうち7人、部長ポスト28のうち17人が入れ替わった。

 「WOWOWが放送を開始してからまだ27年。それなのにスタートアップのマインドが薄れ、規模は小さいのに大企業病的なところやお役所的なところ、縦割りの弊害がみられるようになった。これでは守ることはできても成長できない。成長の一番の敵は前例踏襲。これを打破するために人事異動を行った」

 多少の混乱は覚悟の上。それよりも人事を一新することで新しい発想が生まれるほうがはるかに重要だと判断した。しかもこうした異動を来年以降も続けていくという。

 もちろん人事だけではなく、コンテンツ制作にも力を入れる。今期は例年以上にコンテンツ制作費を掛けることで減益決算を予定している。さらに下期にはネット同時配信を開始するほか、海外へのコンテンツ提供を強化する。生き残るためにはありとあらゆることをやっていかなければならないためだ。

 世界では、日本以上に環境が激変している。AT&Tがタイム・ワーナーを、ディズニーが21世紀フォックスを買収するなど、世界のコンテンツ界では大再編が起きているのだ。この動きが日本でも起きれば、その時の衝撃は、黒船襲来の比ではない。WOWOWも、その波に飲み込まれない保証はない。

 それでも優良なコンテンツを生み出す力を持ち続ければ、WOWOWの企業価値は高まり、存在感を発揮し続けることができる。それが生き残るための絶対条件だ。

田中晃・WOWOW社長インタビュー「組織改正・人事異動の目的は事業の発想を変えるため」

田中晃・WOWOW社長

―― 加入者が増え続けています。中期経営計画の2020年度300万人の目標に向け順調に進んでいます。

田中 中計を立てた時は、これほど環境が変化するとは思っていませんでした。当時は外資の動画配信がこれほど莫大な予算を掛けて攻勢には出ていなかったし、クリエーターの抱え込みもなかった。

―― その中でどうやって加入者を増やしてきたのですか。

田中 精いっぱい頑張っています。とはいえ個人の増加率は鈍化しています。例えばサッカー中継が期待したほど伸びていない。人気のあった海外ドラマも勢いがつかない。お客さまがライフスタイルに応じた形で見られるようになり、動画配信がボディブローのように効いています。

―― その中で生き残っていくには何が必要ですか。

田中 WOWOWは優良なコンテンツで感動を与えてきました。競争が激しくなった今こそ、コンテンツに力を入れていきます。クリエーターに対して魅力的な場を提供し、守るべきコンテンツには資本を投下する。そのためにも、動画配信にも踏み切り、海外にも出ていく。それで稼いだ分を投資に回していく。

―― 外資の資本力には太刀打ちできません。

田中 たとえ放映権料が安くても、選んでもらえるようにすることが重要です。そのスポーツにとって、本当にプラスになるのか。WOWOWがそのスポーツにどう寄与できるかが問われます。

―― 7月に大幅な人事異動がありました。

田中 社員に向かって言ったのは、自分たちの事業の発想、スケールを変えないと戦えないということと、組織風土を変えようということです。部署が変われば新しい発想も生まれてきます。

―― トップダウンで改革を進めています。

田中 クリエーティブな集団になるにはボトムアップでなければなりません。そのためのトップダウンです。先日、社員にイノベーションレポートを提出させました。よりクリエーティブな会社になるために「ここから変えたい」「これを始めたい」というレポートを書いてもらったところ700項目の提案が上がってきました。今後これを実現していきますが、社員が答えを出し、社員が実行する。そういう組織を目指していきます。

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