政治・経済

エーザイと味の素が消化器疾患の医薬品専門会社を立ち上げる。味の素にとっては不採算部門の整理である一方、エーザイにとっては新薬の開発および、本体における認知症領域への経営資源集中の狙いがある。苦境に立つ製薬メーカーの必死の生き残り策が始まった。 文=ジャーナリスト/副島卓也

 

合併により不採算事業を切り離した味の素

 

 「体のよいリストラ。双方の利害が一致したのだろう」

 エーザイと味の素は10月15日、胃炎や胃潰瘍の治療薬を持つエーザイの消化器疾患治療業と、大腸検診のときに使う腸管洗浄剤など、消化器疾患に特化した味の素の子会社・味の素製薬を統合し、同社を承継会社として、来年4月に新会社「EAファーマ」を立ち上げると発表した。

 新会社の事業規模は800億円超。これは開業医市場を主体とする消化器疾患の医薬品を専門に扱う製薬企業としては国内最大級となる。

 しかし、EAファーマの株式はエーザイが6割を保有して連結子会社化するという、この新たな合弁事業に対し、総じて評価は芳しくない。この新会社の立ち位置は、冒頭の辛辣なコメントに代表されるような、投資家サイドから出たものだ。

 1981年以来、アミノ酸技術を核に成分栄養剤「エレンタール」などのロングセラーを手掛けてきた味の素の医薬品事業は、多額の研究開発費を費やしてきた割に、近年は縮小退行だけが続いている。2010年に社名変更した当時、5年後には売上高1千億円を目標にしていた味の素製薬だが、現状は397億円(14年3月期実績)と、その半分にも満たない。13年には不採算の輸液事業を合弁会社化するなど、合理化に舵を切っていた。医薬品事業本体の切り離しも、この頃には既に準備を進めていた模様だ。

 

エーザイと味の素それぞれの強みとは

 

 一方、新会社を主導することになったエーザイ側には、胃炎や胃潰瘍の治療薬である「パリエット」「セルベックス」という大型製品を生み出した実績がある。特に、最盛期にはグローバルで1千億円を超える売り上げを誇ったパリエットは、エーザイの名を世界に知らしめた認知症治療薬「アリセプト」とともに、同社の海外進出を支えた看板製品だ。

 しかし、そのパリエットも日本、そして最大の市場である米国でも特許保護期間が満了し、製品寿命を終えようとしている。内科開業医が主なターゲットである消化器疾患は、高血圧などと並んでライバルメーカーが多く、MR(医薬情報提供担当者)と呼ばれる営業要員を大量に動員しなければ市場競争ではまず勝てない分野だ。加えて、国は特許が切れた後に参入する安価なジェネリック医薬品の採用を、医療機関に奨励しているさなかでもある。

 解決策のひとつは、言うまでもなく新たな製品を生み出し、市場に投入すること。しかし、胃炎などの分野はひととおり治療薬が揃っており、医療ニーズはもうそれほど残っていないのが現状だ。その意味で、EAファーマの設立は理に適っている側面もある。味の素が保有する開発パイプラインに、いくつか目を引く新製品候補があることは確かだからだ。

 味の素製薬は、消化器疾患の「スペシャリティファーマ」を自認している。特に胃よりも下、つまり腸の病気にフォーカスを当てており、女性に多い便秘のほか、難病であるクローン病や、安倍晋三首相の持病として広く世に知られるようになった潰瘍性大腸炎などの新薬開発に取り組んでいる。これら炎症性腸疾患は、食事も満足に採れなくなる重い病気であることから、医療ニーズはなお根強い。

 だが、この青写真はあくまで中・長期的な展望だ。順調に臨床試験が進んだとして、18年頃に製品化される見込み。果たしてEAファーマは、それまで1200人を超える人員を抱えながら、新会社単独で数百億円単位の研究開発費を賄うことができるのか、という点が問題だ。

 

味の素子会社との合併を機に認知症新薬に集中したいエーザイ

 

 日本の製薬企業は現在、大きな岐路に立たされている。医療費の膨張に直面する国が、本格的に薬剤費のカットに動いているからだ。特にハイリスク・ハイリターンの新薬開発を志向する製薬企業は、多額の研究開発費の回収を終えてもなお、多大な利益をもたらしてきた特許切れ新薬が、ジェネリック医薬品にシェアを奪われる一方なのだ。今や、新薬がなければ生き残りは難しい時代に入っている。

 こうした流れは10年頃から本格化し、地域の診療所や薬局に対する影響力が強い基幹病院で国がジェネリック促進策を打った14年4月から、企業の損益計算書にも如実に反映されるようになった。既にジェネリック大手企業の営業利益率が、新薬系企業大手のそれを上回るという現象も起きている。

 製薬企業は大手から中小まで、各社各様の対策を講じている。その中でひとつの有力な将来モデルと目されているのが研究開発領域の絞り込みだ。EAファーマ設立が味の素にとって意味するところは医薬品事業からの事実上の撤退だが、エーザイはこれを機に、医療ニーズの高い抗がん剤と、アリセプトで培った認知症領域に資源を集中させる決断を下したことになる。

 エーザイは目下、社運を懸け、米バイオジェン社と共同で複数の新規アルツハイマー型認知症治療薬の製品化に取り組んでいる。来春には、2つの新薬候補で臨床試験の途中経過が明らかになる見通し。まずはここが、同社の未来を占う上での重要なポイントになるだろう。

 

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