
景気判断次第で解散総選挙の可能性も
安倍晋三首相は年末年始、“お決まり”のゴルフを3回楽しんだ。とりわけ、12月30日に千葉県袖ケ浦での友人らとのラウンドでは、「首相就任以来、一番良いスコアが出ました」と上機嫌だったという。安倍首相は、番記者たちには具体的な数字は秘密にしていたが、関係者によると89だったそうだ。アマチュアゴルファーが胸を張る「80台」に乗せたのだから、さぞかしご満悦だったことだろう。
自民党関係者からはこんな声も聞こえてくる。
「12月28日に行われた日韓外相会談で、慰安婦問題での最終決着となる妥結で合意した。日韓国交正常化50年の節目に間に合い、長年喉につかえていた骨が取り除けた。すっきりした気分で臨めたのが、好スコアにつながったんじゃないか」
そして迎えた“参院選イヤー”。しかも、国会は異例の1月4日からスタートを切った。これまでの慣例や常識を覆す安倍政権らしい幕開けと言えるだろう。昨年末からは、衆院も解散して衆参ダブル選もあるのではないかとの見方が盛んに囁かれ始めた。しかし、筆者はそうは思わない。
以前、当コラムで書いたとおり、安倍首相の健康問題が気になっているからだ。昨秋の外遊ラッシュ、冒頭に記した年末年始のゴルフ三昧を見れば、「安倍首相は元気じゃないか」との声も聞こえてくるが、それは医療チームの万全なバックアップ体制があるからこそ。一般的な健康体の人ではない、ということを何より念頭に置いておかなければ見誤る可能性が高いのだ。
もちろん、参院選で与党勢力を3分の2以上にし、一気に憲法改正の土台づくりに着手しているのではないか、との論は否定しない。また、党の規約を変更して2020年の東京五輪まで首相を継続させる“野望”もあるとの話も伝わっている。
しかし、だからといって、心身ともに相当なプレッシャーで半端ではないストレスとなる衆参ダブル選を選択するより、高支持率のまま3分の2に届かなくても安定多数を得て、降板後も院政を敷ける権力基盤をつくっておいたほうが得策であるのは自明の理。ましてや、党内でいまだにポスト安倍はいないのだ。
ところが、衆参ダブル選については、このような考え方もあるという。
「一番可能性があるのは、“時間差ダブル”と呼ばれるものです。秋以降、景気が伸び悩んだ場合、来春の消費税増税を見送るといった判断をして信を問う形を考えているようだ」
自民党幹部の1人はこう明かす。14年の年末解散総選挙の“再来の可能性”があるというのだ。この言葉を裏付けるように、「大発会」となった1月4日の東京証券取引所では波乱の幕開け。日経平均株価の終値は昨年最後の取引日(12月30日)と比べ582円73銭安の1万8450円98銭と、約2カ月半ぶりの安値で取引を終えた。「1億総活躍」で景気浮揚を掲げる安倍首相にとっては、出鼻をくじかれた格好なのだ。だからこそ、最終的な景気判断によって解散総選挙のカードはあり得るとの指摘である。
衆参ダブル選でも与党圧勝は厳しい?
とはいえ、解散権は首相の専権事項。常在戦場の永田町に、どんな突風が吹き荒れるか、分かるすべもない。
「週刊誌などでさまざまな予測が出ているけど、参考にはならないよ。参院選は予定されたスケジュールの中で、じっくり戦略を立てるもの。既に大勢は判明している。後は、ムダな取りこぼしがないよう、チェックするだけだ」
こう語るのは、自民党関係者。野党の体たらくぶりを憐れむほどの余裕があるということに他ならない。しかし、本当にそうなのか。元自民党関係者は、こう警鐘を鳴らす。

イラスト/のり
「確かに、与党優位は揺らがないだろう。しかし、安倍首相が改憲を目論んでいることから参院でも3分の2を占めたい、そのためには衆参ダブル選を仕掛けるかもしれないという話はない。そもそも、参院選だけで臨もうが、衆参ダブルにしようが、そんなに勝てるわけがない。浮かれていたら足元をすくわれるだけだ」
国民のバランス感覚をなめていると、手痛いしっぺ返しを食らうと、警告するのだ。
野党からすれば衆参ダブル選もあり得るとした上で、1日も早い選挙協力態勢をはじめ、合併までも含めた“統合”が必要だろう。細事にこだわって、いつまでも議論して進まないと、またしても国民から「だから野党はダメなんだ」と言われてしまう。巨大与党のままでいいとは思わないという国民の潜在的な声を顕在化させるためにも、ここは野党の踏ん張りどころだ。
好評連載
深読み経済ニュース
一覧へ増刷率9割の出版プロデューサーが明かす「本が売れない時代に売れる本をつくる」秘訣
[Leaders' Profile]

[連載] 深読み経済ニュース解説
2015年の経済見通し
[連載] 深読み経済ニュース解説
再デフレ化に突入し始めた日本経済
[連載] 深読み経済ニュース解説
消費税率引き上げ見送りの評価と影響
[連載] 深読み経済ニュース解説
安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由
霞が関番記者レポート
一覧へ財務省が仮想通貨の規制に二の足を踏む本当の理由――財務省
[霞が関番記者レポート]

[霞が関番記者レポート]
加熱式たばこ増税に最後まで反対した1社――財務省
[霞が関番記者レポート]
下水道に紙おむつを流す仕組みを検討――国土交通省
[霞が関番記者レポート]
NEMの大量流出で異例のスピード対応 批判をかわす狙いも――金融庁
[霞が関番記者レポート]
バイオ技術活用提言 遺伝子の組み換えで新素材や医薬品開発――経済産業省
永田町ウォッチング
一覧へ流行語大賞に見る2017年の政界
[永田町ウォッチング]

永田町ウォッチング
支持率低下で堅実路線にシフトした安倍改造内閣の落とし穴
[永田町ウォッチング]
政治評論家、浅川博忠さんの「しなやかな反骨心」で切り開いた政治評論家への道
[永田町ウォッチング]
無党派層がカギを握る東京都議選の行方
[永田町ウォッチング]
東京都議選は“小池時代”到来の分岐点か
地域が変えるニッポン
一覧へ科学を目玉に集客合戦 恐竜博物館に70万人超(福井県勝山市、福井県立恐竜博物館)
[連載] 地域が変えるニッポン(第20回)

[連載] 地域が変えるニッポン(第19回)
コウノトリで豊かな里山 自然と共生する町づくり(福井県越前市、里地里山推進室)
[連載] 地域が変えるニッポン(第17回)
植物工場、震災地で威力 雇用創出や活性化に効果(岩手県陸前高田市、グランパ)
[連載] 地域が変えるニッポン(第16回)
道の駅を拠点に村づくり(群馬県川場村、川場田園プラザ)
[連載] 地域が変えるニッポン(第15回)
好評ぐんぐん、高糖度トマト「アメーラ」が地域に活気、雇用を創出(静岡市、サンファーマーズ)
実録! 関西の勇士たち
一覧へ稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは
[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)
三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生
[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)
住友の天皇・堀田庄三の人生
[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)
商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助
[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)
関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権
ビジネストレンド新着記事
注目企業
一覧へ次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)
1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

新社長登場
一覧へ地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)
中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

イノベーターズ
一覧へペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり
家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

大学の挑戦
一覧へ専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長
2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…
