経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

世界の英知を結集することで水問題は必ず克服できる 上川陽子

上川陽子 衆議院議員


超党派で水問題を考える「水制度改革議員連盟」代表を務める上川陽子氏は、初当選以来水問題に取り組んできた。今年4月に熊本で開かれたアジア・太平洋水サミットでは、共同議長も務めた。世界の安全保障を揺るがしかねない水の課題をいかにして克服していくのか。上川議員に聞いた。聞き手=関 慎夫 Photo=横溝 敦(雑誌『経済界』2022年12月号より)

上川陽子 衆議院議員
上川陽子 衆議院議員、水制度改革議員連盟代表
かみかわ・ようこ 1953年静岡市生まれ。東京大学教養学部卒。三菱総合研究所研究員を経てハーバード大学大学院へ留学(政治行政学修士)。帰国後、政策コンサルティング会社設立。2000年総選挙で静岡1区から出馬、初当選。07年内閣府特命担当大臣(少子化対策、男女共同参画、食育、青少年育成)として初入閣。14年安倍内閣で法務大臣に就任して以来5代務めた。

「水の憲法」誕生以来薄れてきた縦割り行政

―― 今年は日本だけでなく世界で洪水や渇水など、水を巡る問題が次々と起きた年になりました。

上川 私の地元・静岡県でも9月の台風15号で大きな被害が出ました。台風が去ったあとも静岡市清水区などで断水が長期間続き被災地から切実な声が寄せられました。

―― 今年、水制度改革議員連盟の代表に就任しましたが、2000年の初当選以来、一貫して水問題に取り組んでいるそうですね。

上川 私は静岡市内を流れる安倍川、藁科川の豊かな水の恩恵を受けて育ってきたこともあり、水問題には特別な思いを持って関わってきました。代表を務める水制度改革議員連盟は、私が01年に立ち上げた「おいしい水推進議員連盟」の理念が発展・拡大したものです。水制度改革議員連盟の大きな成果としては、14年7月に水循環基本法が制定されました。飲料水の確保や水質の保全、利用した水の処理に関する法律は20以上もあり、それぞれ所管官庁も異なります。

 それを包括するのが水循環基本法で、いわば水の憲法と言えます。これにより水に関する施策を一体的に推進することができるようになりました。

 ただし制定したからそれで終わりというわけにはいきません。地球温暖化などの影響もあり、降雨の状況も20年前と比べて大きく変化し、自然災害が増えています。あるいは都市部の人口集中などにより、水のバランスも変わってきています。このような環境変化が、私たちの生活や生命に大きなインパクトをもたらしていますし、生態系への影響も大きくなっています。健全な水循環を維持し続けることは、今を生きる私たちの責任です。ですから水循環基本法の円滑な施行と具体的施策の強化・充実を図っていくことが、今後ますます重要になってきます。

 昨年には、水循環基本法が改正され、地下水の適正な保全と利用に関する施策が基本的政策の中に追加され、しかも国と地方自治体の責務であることが明確になりました。

 地下水は重要な水資源としてさまざまな用途に利用されている一方で、地盤沈下や塩水化、地下水汚染などの地下水障害が発生している地域もあります。この保全と利用のバランスを取る必要がありますが、既に各地の自治体で地下水に関する条例が800以上制定され、地下水の保全に取り組まれています。地下水の状況は地域により全く異なります。ですからその地域の行政、そして企業や市民の皆さんが協議・合意して実情に合った形で地下水を利用していく必要があります。こうした動きをさらに進めていくことが大切です。

熊本水サミットで確信した課題克服

―― 安全保障の観点からも水問題を考える必要があります。

上川 世界ではアフリカを中心に人口増加が起きていますし、気候についても地球規模で大きな変化が起きています。そのため今後、水や食料、エネルギー問題は一層深刻化することが予測されています。それだけに水のリスクをきちんと管理し安全な水へのアクセスを持続的に確保するという意味での、水の安全保障に関心が高まっています。

 そのためには、水をつくる過程で最も重要な森林というインフラをきちんと維持していくことも大切ですが、それと同時に使う側も含め、流域全体でこの問題に取り組んでいくことがますます重要になってきています。需要と供給といえば、以前は供給サイドの話が中心でしたが今では需要サイドも合わせて、トータルに水問題を考えるようになっています。上流から下流まで、流域全体で問題を解決する。この意識が水循環基本法制定以降、かなり現場に浸透してきたように思います。

 私の地元でも、以前はこの河川は国交省、ここは自治体管理だと別々に考えられたり、ひとつの河川なのにそれぞれ独自に管理し、河川の整備も別々に行われたりしていました。それが最近では、流域全体で協議会をつくり議論を重ねながら地域全体で管理する動きが定着してきました。

 「我田引水」という言葉があるように、水の分配のトラブルが地域間の紛争につながることがよく見られます。その一方で私たち日本人は、およそ100年前から円筒分水という農業用水を正確に分配するための施設を発明してきました。現役の円筒分水も全国にいくつもあります。このように私たちには水の課題を解決するためのさまざまな知恵があります。創意工夫があれば、必ず水の問題は克服できる。その思いは、4月に熊本で開かれた第4回アジア・太平洋水サミットに参加したことでさらに強くなりました。

―― 何を話し合ったのですか。

上川 私はパネリストとして特別セッションに参加したほか、すべての議論を統括する総括統合セッションの共同議長を務めました。水サミットではスリランカやインドネシア、フィリピン、そして熊本での水の課題に対するコミュニティレベルの取り組みが発表されましたが、多くの学ぶべきことがありました。共通するのはコミュニティを中心に関係者が連携し合うことで大きな成果を上げていることです。各国の事例を紹介し合い、共通項を見つけ当事者意識を持ち合う。それぞれが知恵を出し合ってオール地球レベルで取り組めば地球の水問題を解決していくことが可能であることを再認識しました。そして岸田首相が「熊本水イニシアティブ」という日本の貢献策を発表され、この内容を含む「熊本宣言」が採択されるなど大きな成果を上げました。

 国連は12年に「地球の気候変動が後戻りできない臨界点に近づきつつある」との警告を発しています。でも今回の水サミットで、国を超えた共同の取り組みや先進的な事例を知ったことで、各国が力を合わせれば、臨界点を遠ざけることができるのではないかと確信できました。警鐘を鳴らすだけでなく力を合わせて手を打っていくことの大切さのコンセンサスを得ることができたことが水サミットの一番の成果だと思っています。

 来年3月にはニューヨークの国連本部で国連水会議が開かれます。今回の熊本水サミットでの成果が世界全体の水に関する課題の解決と持続可能な発展につながることを期待しています。