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極端化する気象状況水不足は世界で絡み合う ウェザーニューズ

ウェザーニューズ

豪雨や干ばつなど世界中で自然災害が多発している。水資源について考えるためには、気候の変動は無視できない。全世界3千社に気象に関する情報を提供している民間気象会社ウェザーニューズにおいて、特に気候変動に関するサポートを専門に行う気候テック事業部の方々に、気候の変動を解説してもらった。聞き手=和田一樹(雑誌『経済界』2022年12月号より)

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日置江佳 気候テック事業部 サービス開発チームリーダー
鈴木孝宗 気候テック事業部部長
折野未莉 気候テック事業部マーケティングセクションリーダー

記録的な現象は増加も総量の推移は分からない

―― 「観測史上初」や「100年に1度」のような文句を耳にすることが増えました。日本の気象状況に一体何が起きているのでしょうか。

鈴木 ひとことで言えば、気象の「極端化」が進んでいます。例えば、1時間に50ミリを超える雨の年間発生回数を10年平均で見てみると、1976~85年が約226回だったのに対し、2012~21年は約327回と、おおよそ1・4倍に増加しています。ちなみに降雨量が1時間当たり50ミリを超える雨というのは、傘を差していても役に立たないようなレベルの雨です。また、24時間の降雨量が200ミリを超えると災害警戒の目安と言われていますが、これも年間発生日数を10年平均で見ると、1976~85年は約160日でしたが、2012~21年は約246日とおおよそ1・5倍に増加しています。

 今年の夏を振り返ってみても、8月4日には新潟県関川村で24時間に559・5ミリという観測史上1位の値を大幅に更新する降雨がありました。これは平年8月の2・5倍以上の雨量です。それだけの量が24時間で降ったわけで、河川の越水、停電、断水といった被害が発生しました。同じ日には、石川県の白山河内で12時間に369・5ミリの降雨がありました。これは例年同月の1・6倍の雨がわずか半日で降ったことになります。こちらも床上床下浸水による被害や停電、断水といった多くの被害が発生しました。

―― そもそも日本の年間降雨量の総量は増えているのでしょうか。

日置江 単年ごとに見れば増えることもあれば減ることもあり、そこに明確なトレンドはありません。10年平均くらいで比較すると、降雨量の総量は増えていると言えます。これは現象をどう見るかに左右されます。単年ごとに見れば、あくまでその時々の大気の現象ですから、降雨量が多い年もあれば少ない年もあります。それを10年スパンで幅広く見れば、増えているといった状況です。その中で、先ほど見たように極端的な現象が増加していることは明らかです。

 こうした背景には地球温暖化の影響があり、世界でも極端化の兆候は表れています。記憶に新しいところでは、パキスタンで氷河湖が決壊し大規模な洪水が発生しました。約3300万人が被災し、1千人以上が亡くなるという信じられない被害になっています。また、今年の欧州は全体的に平均気温が高いです。気象庁によると平年の最高気温が36℃のスペイン南部コルドバでは7月12日、13日に43・6℃を記録し、同じく平年最高気温が32℃のフランス南部トゥールーズでは7月17日に39・4℃を記録しました。また、フランス南西部のモンドマルサンでは7月の降雨量が0ミリでした。欧州の多くの地域で渇水による干ばつが起きています。アメリカでも、テキサス州では7月に46・1℃の高温を記録しています。また、自動発火による山火事が発生し、西部は最近毎年のように大規模な干ばつによる水不足が起きています。

―― 水の需給についていえば課題をどのように理解すればいいでしょうか。

折野 われわれは、気象情報の提供を中心サービスとしていますが、事業者向けに気候に関連した課題解決をサポートする事業も行っています。その中で、水の需給バランスや干ばつが事業に与える影響もテーマとしていますので、そこでの知見も踏まえながら、水に関するリスクを整理してみたいと思います。

 まず、地球上には約14億立方キロメートルの水があるとされます。しかし、そのうちおおよそ97・5%が海水で、淡水はわずか2・5%です。量にすると約0・35億立方キロメートルくらいです。その淡水も、氷や雪、地下水として存在しているものもありますから、それ以外に河川や湖沼の水となると実は0・01%ぐらいで、わずか10万立方キロメートルぐらいしかありません。

 この限られた水を世界の人たちが使うわけです。日本では人口減少が問題になっておりますが、世界の総人口は増加が予測されています。そこに気候変動の影響で渇水や水害なども加わってきますから、水不足が社会問題として非常に重要なことが分かると思います。
 日本に限って言えば、「ゲリラ豪雨」や「線状降水帯」と呼ばれるような現象で降雨が激甚化している印象がありますから、水不足は無関係だと思われている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そうではありません。
 まず、地理的には急峻な地形が多く、たくさん降っても溢れてしまって貯水が難しいという課題があります。また、直接的に日本国内で水不足が起こらなくても、食料を輸入している先で干ばつが起きて農業に影響を及ぼすことも考えられますし、日本企業の海外拠点の事業継続が危ぶまれる可能性もあります。このように、水にまつわる問題はグローバルに絡み合いますので、日本も無関係ということはありません。

リスクを把握してバックキャストで対応を

―― 自然現象を前にして、どのような態度で臨めばいいのでしょうか。

鈴木 総じて言えるのは、先々のリスクを把握し、そこからバックキャストで現在の方針に反映させていく。この繰り返ししかありません。ここでは当社も大いに貢献することができると思っています。

 例えば、世界における水の需給バランスで言えば、複数の気候シナリオに基づいて2040年までの動向を想定することが可能ですし、干ばつ日数についても約2100年までを対象に世界中のリスクを分析することが可能です。こうした知見を活用していただきながら、さまざまなソリューションも組み合わせつつ水不足などの課題に対処することは重要です。

 しかし、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告にあるように、少なくとも今世紀半ばまでは世界の平均気温は上昇を続ける見込みです。それに伴って、気候もより極端化していくことが予想されます。水不足に限らず、より広範に地球温暖化が引き起こす気候の変動に対して、社会の在り方を見直す必要があります。

 当社でも、洪水、大雨・強風のパターン、気温パターン、穀物収穫量、鶏肉の生産量などの項目について、複数の気候シナリオに基づいて2030年以降の動向を分析しています。それらを受けて工場の操業や資産の棄損具合など、企業の経営にどのような影響を及ぼすのか、財務インパクトの分析を行うことも可能です。そして、予想される気候リスクに対する対策として気象予測を活用し、いざというときのリスクの回避や軽減を行う運用まで含めた提案を行っています。

 企業のリスクマネジメントを支援しながら、水不足を含めた災害に強い社会構築に貢献していきます。