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水道管の老朽化は待ったなし官民連携で断水を防ぐ クボタ 吉岡榮司

吉岡榮司 クボタ

きれいな水を手元に届けるためには水道管が不可欠だ。今その水道管が老朽化により危機を迎えている。クボタは水道用鉄管の製造から始まり水インフラ事業に130年の歴史を持つ。水環境事業本部長の吉岡榮司氏に、日本の水道の現状と課題について聞いた。聞き手=萩原梨湖(雑誌『経済界』2022年12月号より)

吉岡榮司 クボタ
吉岡榮司 クボタ水環境事業本部長

耐用年数を超えた水道管更新は追いついていない

―― 水道管の破損に伴う断水の被害が続いていますが、なぜ破損事故は起こるのでしょうか。

吉岡 原因は地震や災害などの物理的な影響が多いですが、われわれが着目しているのは水道管の老朽化です。現在、老朽化によって水道管の漏水・破損事故は全国で年間2万件を超えています。

 昨年10月に和歌山市の六十谷水管橋という、水道を通している橋が崩落する事故がありました。これにより6万世帯が1週間、断水状態に陥りました。今回の直接的な原因は水道管というよりは水道管をつっている「つり材」の老朽化だったのですが、断水による水不足のキーワードは〝老朽化〟だということが分かります。

―― いつ頃から老朽化が問題になっているんですか。

吉岡 1960年から70年頃の10年間、いわゆる高度経済成長期にあたる頃、水道管や浄水場が集中的に建設され、急激に水道の普及率が上がりました。この時造られた施設や送水パイプの耐用年数は大体40~50年なので、それが今になって一斉に更新時期を迎えているということです。

 法定耐用年数を超えた水道管路の割合は2006年では6・0%だったのが、19年には約3倍の19・1%に増えています。それと比較して、更新された管路の割合は、06年に0・97%だったのが19年には0・67%と減っています。この数字から分かるように、水道管は老朽化していく一方で、更新が追いついていないというのが現状です。

―― なぜここまで更新が進まないのでしょうか。

吉岡 一番大きな原因は人口減少と水道料金収入の減少によるものだと思います。水道事業体は、水道用水供給事業、上水道事業、簡易水道事業で構成されており、水道事業体全体で見ると、03年から05年にかけて合計で約34%減少しました。また老朽管更新に携わるべき水道事業体職員の数も、1980年から2019年で見ると約39%減少しています。

 日本の水道の一番の課題は、40~50年経過したパイプや施設を、これ以上古くならないようにタイミングを見計らって更新していく、という点ですね。

―― 具体的にはどのようなことが行われていますか。

吉岡 最近では自治体の水道事業の広域化というのが進んでいて、われわれがやろうとしているのはその手伝いです。広域化というのは、複数の市が一つにまとまり浄水場の共有や工事、運営を共同で行う仕組みのことです。複数の市が協力するということは、いくつか稼働させていた浄水場を一つに減らすことができ、工事の技術も一番優れている市のものを共有することができます。老朽化の工事に関しても、複数の市の中で特に老朽化しているものから手を付けていけば、効率良く進めることができます。今までは独自に水道施設を造り、おのおので水道料金を集めて運営していましたが、資金不足により管理状態に格差が生まれていました。この格差問題は後々水質や供給状態にも響きかねない重要な点です。その格差を生まないためにも、大阪府や群馬県では既に実施している地域もあります。

 また、水道事業体で取り組んでいた仕事を民間企業に移行する、官民連携の流れも生まれてきました。従来水道というものは公共サービスとして地方自治体が管理するものでした。しかし今水道事業体の数は減少傾向が続いており、さらに20年の時点では、1791ある水道事業体のうち約11%は赤字事業体です。当然水道管の更新にかかる費用は事業体だけでは賄えません。

 従来のやり方としては、水道事業体は材料の納入、プラント建設、運転といった個別の業務を民間に発注していました。官民連携方式になると任された民間企業は施設や管路の設計、建設、運営などを一括で効率的に行うようになるということです。ゆくゆくは公共事業体が所有権を持ったまま民間企業が運営する「コンセッション方式」のようなビジネスにも参入していくつもりですので、意欲的に準備している最中です。

水道投資が少ない中効率化を図ることがカギ

―― 民間企業だからこそできることというのがあるんですね。

吉岡 自治体の方式ではいろいろな面で柔軟性に限界がありました。特にDXをもっと普及させられるというのが率直な意見です。

 水道管を敷設するにあたっては、調査、設計、工事の過程が必要で、そのすべてでDXを活用することができます。水道管の設計、水道管のルート、配管を通す場所、すべてを自動管割システムで設計します。完成した施設を実際に利用し市民へ水が行き届くようになると、今度は維持管理を徹底する必要があります。水量が減っていないか、漏水が起こっていないか、水質に変化はないか、これらは現在、主に人が定点観測でモニタリングしています。そこで水道管路の関所にあるバルブにセンサーを設置することにより、管路の状態を〝見える化〟する技術を開発しています。これらの情報はすべてクラウド上のデータセンターに保存され、水道事業体がパソコンやスマートフォンで常時確認できるというDXの一例です。

 さらにKSISというIoTを活用したトータルソリューションサービスの提供により、浄水場、水道管路、下水処理場、ポンプ場などあらゆるインフラビッグデータをAIで解析します。そこから導かれたデータをお客さまである水道事業体に提供し、タイムリーに水道管や施設の更新を行ってもらうことを目指しています。

 特に老朽更新については、エリアによって土壌の質や特性が異なりいろいろな判断が必要になります。例えば酸性土壌の中に管路があると、金属製の管路は土壌の影響を受け早く老朽化します。さらに断層が走っていたり、地震が多い地域だったりすると対応を変えなければなりません。同じ耐用年数でも条件によってはばらつきが出るため、老朽更新計画では優先順位をつける段階が非常に重要です。われわれはその際に活躍する老朽診断ソフトの提供も行っています。

―― それほど日本の水道が切迫した状況にあるということですね。

吉岡 その通りです。今私たちが使っている水は、水道インフラに投資していかないと維持することができません。もちろん設備投資なので膨大なお金がかかります。ですので、われわれが享受している当たり前のように使える水道というものに対して、国民の理解度を高めていく必要があります。いざ水道にお金をかけるとなったとき、どれだけ理解があるかが、水道インフラの今後を左右します。国や自治体、民間企業それぞれの並外れた努力があり、その結果水が使えるんだということを、テレビCMなどを通じてメーカーの側からも訴えることが、現時点でわれわれにできることだと思っています。