政治・経済

日本の迎賓館として1890年に開業し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックには130周年を迎える帝国ホテル。訪日外国人観光客の急増でホテル業界は活況だが、外資系ホテルや国内勢も東京進出が続く。その中で、世界トップクラスのホテルとしての存在感を発揮するべく陣頭に立つ定保社長に、その哲学などを聞いた。 聞き手=本誌/榎本正義 写真=佐藤元樹

定保英弥氏は語る サービスを充実させ、世界的評価のホテルへ

―― 現在、ホテル業界は全般的に好調、さらに2020年の東京オリンピックに向けて、追い風が吹いていると言われています。

20160322_TEIKOKU_P01

(さだやす・ひでや)1961年東京都生まれ。84年学習院大学経済学部卒業。同年帝国ホテルに入社。2004年営業部長、08年東京副総支配人兼事業統括部長、09年取締役兼東京総支配人、12年専務、13年4月社長に就任、東京総支配人も兼務。

定保 今、東京に限らず、大阪、京都など、訪日外国人観光客は増加しています。リーマンショック後など、大きく業績が落ち込んだ時期もありましたが、ホテル業界は回復基調にある上に、東京オリンピックなど明るい題材が多い。経営環境は良好だと言えます。

―― 昨年から今年にかけてタワー棟の改装もしていらっしゃいますね。

定保 20年に向けて都内では新しいホテルの開業の計画があったり、既存ホテルの改装などが多いのですが、当ホテルの場合、5年前に120周年を迎え、その折に本館の改装を済ませています。ただ当時タワー棟は建築から25年しかたっておらず、手を付けないでいました。それを今回改装し、4月に全室完了予定です。

―― 改装における効果はどのようなものを見込んでいるのでしょうか。

定保 今回のタワー棟の改装では、居住性、快適性の向上など、基本的に居室のグレードを上げることを主目的としています。実は、価格の改訂も進めています。帝国ホテルの歴史、世界的に見たホテルの格付、サービスのグレードなどを考慮すると、現在の価格設定は決して高くはない。世界トップクラスのホテルに負けていないという自負はあります。それにふさわしい価格設定にしていきたい。

定保英弥氏の思い 東京オリンピックは通過点その次の時代を見据える

―― 15年度サービス産業生産性協議会調べのシティホテル部門で7年連続顧客満足1位になりました。

定保 いつお泊まりいただいても満足いただけるようにするのが当然の使命です。居室にとどまらず、料理も同様です。当ホテルにはレストランとバー、合計で17の店舗がありますが、あらゆる嗜好、ニーズにお応えできるものになっていると思います。外国人宿泊客だけではなく日本のお客さまにも満足いただける。サービスすべてにおいて、100室程度の規模のホテルが実施するきめこまかなおもてなしを1千室規模の当ホテルで実現する。今後もそのような世界でも珍しいホテルでありたい。

―― サービスの今以上の充実は、やはり20年の東京オリンピックを見据えてのことなのでしょうか。

定保 それは一つのタイミングにすぎません。大事なことは20年の後、当ホテルが140周年、150周年と時代を重ねていくことを考えなければなりません。日本の迎賓館として誕生し、100年以上、築き上げてきたブランドにあぐらをかくのではなく、次の時代に継承し、発展させなければならないのです。

―― 次の時代に向けて、具体的に取り組まれていることはありますか。

定保 業績を上げることは当然として、サービスを充実させていく。ホテルとしての力を高めていくことです。そのために、社員、スタッフのモチベーションを高く保つことが重要だと考えています。そこで待遇の改善、世界で通用するホテルマン育成のための研修の強化を考えています。モチベーションが高まれば、サービスの質も向上する。そうするとお客さまの満足度も向上し、業績に反映される。こういった好循環を生み出していきたいと思っています。

―― 今、サービス業に限らず、熟練の職人の技の継承が一つの課題になっています。帝国ホテルにもサービスのプロフェッショナルが何人もいらっしゃると聞いています。

定保 一例ですが、靴磨きの職人さんがいます。お客さまの中には、帝国ホテルで食事をしようではなく、また「靴磨きをしてもらおう」でさえなく、「あの人に会おう」とおっしゃる方がたくさんおられます。レストランでも、何が食べたいということではなく、「あの人のサービスを受けたい」と言われるスタッフもいます。そういったプロの技術、心構えを今の若いスタッフに継承していくということも、当ホテルの使命の一つだと考えています。そうでなくては、培ってきたブランドを継承していくことはできないのです。

ホテル業の本質を学んだ若き日のアメリカ体験を語る定保英弥氏

―― そういったことを重視するのは、社長御自身が現場での経験が豊富ということもあるのでしょうか。

定保 それは1つの要因かもしれません。営業を長年経験してきましたが、それだけにサービスを支えるスタッフの姿こそが、帝国ホテルのブランドを支えていると感じます。昔話ですが、私が営業でアメリカ各地を回った時に、帝国ホテルのスタッフだということで現地の旅行代理店の人は時間を作ってくれる。フランク・ロイド・ライトの建築のホテルだと言えば、感心してくれる。今でも私が海外に出ると、帝国ホテルの社長が来ているということで、それなりの扱いをしていただける。これは一朝一夕で培われるものではないと思います。まさに100年を超える歴史、そこで先達が培ってきたブランドがあってこそなのです。

―― かつては海外への営業に出ておられたのですね。

20160322_TEIKOKU_P02定保 まだ20代後半の頃ですが、年に一度、上司と数人でまずニューヨークに渡り、そこから違うコースでロサンゼルスを目指す、その途中で各都市の旅行代理店を訪問するという営業活動をしていました。3年ほど、毎年アメリカ横断をしていましたね。当時は、今のようにノートパソコンやタブレット端末はありませんから、持っていくのは紙のパンフレットです。あれが案外重くて、旅を続けながら、パンフレットが減っていくのがうれしかった。とにかく、現地の旅行代理店に「日本への旅行を勧めてほしい。宿泊先として帝国ホテルを勧めてほしい」とお願いしていくのですが、正直、当時の私の英語は流暢とは言えないものでした。それでも、なんとか場数をこなしていくことで度胸もつきました。毎年通っていたので、覚えてくれる代理店もいらっしゃって、だんだん面白味も感じるようになりました。

―― その後、アメリカに駐在されていたのでしょうか。

定保 そういったアメリカでの営業を3年ほど続けた後、ロス駐在になったのです。実は、そのころに知りあった日系の旅行代理店があります。代表の方は女性で、今ではロスで旅行代理店をして50年になろうかという大先輩です。精力的な方で、御自身で行き先もホテルも手配して、率先して動く上に、彼女のモットーは「礼儀正しく、丁寧にお客さまに接する」というものでした。その仕事ぶりをロス駐在時代に目の当たりにして、これこそホテル業の原点ではないかと感じたのです。お客さまに、常に礼儀正しく、丁寧に接すること。これが徹底されていれば、問題は起きないはずではないか。そこから、自然と利益が生まれてくるはずだ。この方とはホテルと旅行代理店というお付き合いではありますが、それを超えて、大事なことを教えられた、大きな存在です。

―― 3年連続のアメリカ横断と、その後のロス駐在での経験は大きいのですね。

定保 仕事はこなすものではなく、どれだけ丁寧に、きめ細かく、お客さまの要望にお応えするかが大切なのです。それを身体で感じることができました。そうすればサービスの質も向上し、経営課題の解決も見えてくる。ホテルの本質はサービスであり、それを充実させていれば、数字につながるはずです。そして、一人でも多くの方に帝国ホテルというホテルを知っていただき、サービスを体験していただくように、情報発信にも力を入れていきます。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る