政治・経済

2017年4月実施予定の消費増税に延期論が強まってきた。グローバル経済の不安定化の中で、消費増税はわが国の景気回復の足をさらに引っ張ることになりかねないという懸念が自民党内に広がっているからだ。だが、果たして背景はそれだけだろうか。文=ジャーナリスト/前田幸平

選挙を見据え強まる延期論

 税率を現行の8%から10%へ引き上げる消費増税は当初、2015年10月に実施する予定だった。ところが、景気悪化を理由に、安倍晋三政権は14年暮れ、1年半の延期を決定した。つまり、17年4月への実施先送りである。この再チャレンジについて、安倍首相は「予定どおりに実施」という姿勢を崩していない。延期を決断した際も「次は景気悪化などで延期するということはない」と言明していた。

 ところが、今年2月ごろから自民党内では「再度延期すべし」という主張が日を追って強くなってきた。その根拠は「景気回復の足を引っ張りかねない」というものだが、それはあくまでも建前にすぎない。ホンネは7月実施の参議院議員選挙に向かって「税はネガティブ」というところにあることはあまりに見え透いている。

 一方、政府は3月16日、首相官邸で「国際金融経済分析会合」なる会議を初めて開催した。そこで、国際的な有識者と経済問題の意見交換を行ったが、招待したノーベル賞学者の米国コロンビア大学教授、ジョセフ・スティグリッツ氏は「消費増税はすべきではない」という考え方を明確にしていた。これについて、ある自民党議員が「首相官邸もなかなか手の込んだやり方をする」とほほ笑むように、少なくとも、永田町では消費増税延期の地慣らし的なパフォーマンスという見方である。

 もっとも、「そもそも、17年4月の消費増税問題には、巧みに延期のタネが埋め込まれている」という見方が政界にはある。どういうことか。

 「10%の消費増税となると、低所得者の生活への税負担が重たくなる。そこで、増税と合わせて低所得者対策を導入することになったが、すったもんだした揚げ句に、同方式は軽減税率と決まった。ここがミソだ」

 ある自民党議員は声を潜めながら、こう説明する。低所得者対策としては、給付金制度と食品など生活に密着する商品への軽減税率の2つの方式が考えられていたが、公明党の主張もあって、政府・与党が決定したのは軽減税率のほうだった。しかし、商品の税率は一律にして低所得者層に一定のおカネを給付する給付金制度に対して、対象商品を選別して、通常税率と軽減税率の2本立てにする軽減税率制度は仕組み的に複雑になることは明らかだ。

 軽減税率制度の導入に伴い、国税庁のコンピューターシステムから消費の現場である小売業のコンピューターシステムまで、その複雑な仕組みを反映した設計・開発を迫られる。中でも小売業の場合には、そのシステム開発コストは決して軽視できない金額になるという。したがって、小規模小売業を中心にして、軽減税率の導入には猛反発の声が上がっていたが、政府・与党は、それを無視するかのように、軽減税率の導入に舵を切ったのが昨年暮れまでの経緯である。

 だが、軽減税率のシステム開発に問題があるのは何もコスト面だけではない。当然ながら、新たな制度に対応するシステムとなれば、白地のカンバスにデッサンを描くような段階からの要件定義、基本設計に始まって、それに基づくシステム開発へと移り、そして、開発されたシステムの思考実験が繰り返されるというプロセスが必要となる。それには、相当の期間を要することが避けられない。

 この点について、システム開発の専門家たちは一様に「17年4月というゴールまでにシステムを完成させるというのは無理難題」と言う。システムの完成が間に合わなければ、小売業の店頭では、複雑な軽減税率に対応した販売体制を手作業でやらなければならないことになる。これは、あまりに非現実的だ。

軽減税率は増税ストップのためのブレーカー

 税負担の軽減策である低所得者対策をきちんと合わせて導入する消費増税でなければ、ただでさえ負担増にあえぐことになる庶民の政治への反発が強まることは必至である。

 それにもかかわらず、軽減税率の導入を決定したのは「当初から、17年4月の消費増税導入をストップするブレーカーを埋め込むため」。そういう声が自民党内には以前からあったのだ。考えてみれば、17年4月の消費増税の実施スケジュールよりも、参議院議員選挙のスケジュールのほうが先に決定していたし、こちらのほうこそ延期は許されない。とすれば、選挙の逆風となる増税問題には、いつでも実施延期に持ちこめるスイッチを確保することが政治的な課題だったとも言える。今は「政府が消費増税延期を決定するタイミング次第では、参議院議員選挙の前に衆議院の解散・選挙が前倒しとなることすらある」というムードが永田町には流れている。

 低所得者対策を口実に、首相官邸は増税延期の発表をいつ行うのか――。もはや、消費増税問題は延期の有無ではなく、延期発表のタイミングへと焦点は移りつつあると言える。グローバルな景気後退への対応がメーンテーマとなりそうな伊勢・志摩サミットが開催されるのは5月。その直前、あるいは、さなかにおいて、議長国として、政府が財政出動との組み合わせで消費増税の実施延期が高らかに打ち出される可能性もあるだろう。

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