マネジメント

 会社の後継者問題は、特にオーナー社長が経営する中小企業では深刻なものになっている。後継者が見つからずに、やむを得ず廃業するところも多い。そうなれば、長年にわたり築いてきた顧客との関係や技術・ノウハウが消滅してしまうし、従業員の雇用や取引先への影響も大きい。そこで、会社を売却して事業を継続させることを考えてみたい。つまり、友好的なM&A(Mergers and Acquisitions)によりこの問題を解決するという発想だ。

 会社を解散させずに売却するという選択は、ビジネスオーナーにとっては、自分の関与はなくなっても「創業理念」が存続していくという精神的な価値をもたらす。また、従業員、顧客、取引先、地域社会などとの関係を維持できる可能性が高い。そして実は、ビジネスオーナーの金銭的なメリットも大きいのだ。[提供:経営プロ]

M&Aの実態は…解散・清算との比較

 M&Aというと、大手企業が規模拡大のため同業会社を買収するというイメージがあるが、最近では後継者不在に伴う事業継承の手段として、中小企業のM&Aも年々増加傾向にある。M&A助言会社のレコフ社の統計によると、2015年のM&A実績は、2428件(金額15兆円超)となり、この数年増加している。この内、事業継承M&A件数は3割程ではないかと推定されている。

■事業継承M&Aの3つの方法

・株式譲渡:株主、経営者が変わるだけで比較的簡単

・事業譲渡:一部を切り出すことも可能、細部の調整・同意手続きが必要となる

・吸収合併・分割:譲渡した会社は消滅する、条件の調整を伴うが雇用は維持される(労働契約承継法)

■「解散・清算」と「M&A」の事業価値評価

 一般的に清算する場合に比べ、M&Aにより売却する方が株主の手取額が大きくなる。

 清算の場合、資産の処分価格は低く抑えられ、かつ、会社の資産処分と株主への配当に対して二重の税負担が必要になり、結果的に手取金額が目減りする。それに対してM&Aは、事業継続を前提とするので清算の場合と比較して評価額そのものが高い。

 株式譲渡であれば譲渡益に対する20%の税金だけで済むが(個人株主の場合)、廃業・清算の場合は、会社の残余財産に約40%の法人税等が適用され、さらに個人の配当所得に対する税金で最大約47%を負担することになる。このように税負担を考えると、M&Aの方が金銭的なメリットが大きい。

■中小企業M&Aの譲渡価格

 企業価値(譲渡価格)の算定方法はいくつかあるが、中小企業のケースでは、コストアプローチという視点から「時価純資産法」を採用することが多い。

時価純資産法:会社の資産・負債を時価評価して純資産価値を算出し、将来の収益性を付加する。

算出式:評価額=時価総資産+営業権(のれん=実質利益×*評価倍率)

(*評価倍率=収益性、将来性により変動する。上限は10倍程と言われるが、近年では1〜3倍程度が多い)

事業継承M&Aを成功させるためのポイント

 M&Aを成功させるための主なポイント:

・確定するまで秘密を関係者に漏らさない

・自社の環境に適した仲介機関を選ぶ

・できるだけ早めに準備を開始する

・デューディリジェンス(買い手側からの売り手企業の精査)の際には、自社の都合の悪いことでも開示する

・普段から会社の実力の「磨き上げ」を行う

「磨き上げ」とは売却前に企業価値を高める取り組み:

・強みを再定義し、強化する

・商品、ブランド、株主・取引先・金融機関との関係、知的財産権や無形資産などの整備と強化

・ガバナンス(内部統制)の構築

 特にオーナー会社では経営者に組織運営の権限が集中しているケースが多いので、権限の委譲や組織・役割を再定義する

 各規則・規定の見直し・整備、業務プロセスの見直し・整備など

・不要資産・不良在庫の処分、負債の整理・返済、オーナーと会社の資産区分け、紛争事案などトラブル解決など

 

 今すぐはM&Aの計画はなくとも、企業価値評価の方法を知り、自社の事業(資産)価値向上に取り組む意義はあるだろう。意識をもって経営に反映させると事業の競争力強化にも繋がるはずである。

【事業価値向上パートナー・柴田隆博】

keieipro_logo_R

 

 

 

【関連記事】

資源安・鉄鋼不況に乗じ、業容拡大に乗り出した新日鉄住金
世界の投資マネーが集まる東アフリカ・ケニアへの参入成功の鍵とは
経済ニュースで振り返る2015年――事業承継
【経営トレンドワード】クロスボーダーM&A
イケアが提唱する2025年のライフスタイルとキッチン
【経営者のあの一言 Vol.15】 「個人としてもソフトバンクグループの将来性に賭ける」 ソフトバンクグループ ニケシュ・アローラ副社長

【経営者のあの一言 Vol.12】  「これ以上長くなると待ちきれない」 スズキ 鈴木修会長

 

 

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

 企業経営者にとって「理念」や「志」が大事とはよく言われるものの、今一つピンと来ない向きも多いのではないだろうか。成功した経営者がいくら精神面の重要性を説いても、日々の現実と格闘している経営者にとっては、ただの綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれない。 それでも、ビジネスを成功させるために最も大切なのは「志」だと…

立志財団

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る