政治・経済

広島県産業の伝統と実力

 

 2012年に観光プロモーション用キャッチコピーとして「おしい!広島県」を打ち出し、話題となった広島県。広島東洋カープ、お好み焼き、安芸の宮島等々、広島から想起されるものは決して少なくないが、カープはずっと優勝から遠ざかっていたり、お好み焼きの前に「広島風」と付けられたりすることを挙げて、どれも観光資源として今一歩の部分をあえて強調することで、注目度アップを狙った試みだ。

20160510HIROSHIMA_P02 自虐的PRはあくまでユーモアだが、広島の産業界に目を向けると、一般的にはあまり知られていない、あるいは意識されていないという意味で「おしい!」魅力にあふれている。

 例えば、ものづくり産業の集積地と言えばトヨタ自動車のある愛知県が代表格だが、製造業の伝統と実力では広島県も相当なもの。

 古くは鑪(たたら)製鉄と呼ばれる砂鉄から鉄を生成する手法が江戸時代に盛え、明治から戦前、戦中にかけては軍艦の製造を中心とした造船業の一大拠点として名をはせた。県南西部に位置し、瀬戸内海に面する呉市は一時、軍需工業地帯として東洋一の規模を誇るまでになった。今や世界的な自動車メーカーとなったマツダが、東洋コルク工業として広島市で産声を上げたのもそうした流れの中でのことだ。

 さらに、カルビー、福留ハム、おたふくソース、新庄みそといった食品関連企業も広島市とその周辺に集積していった。戦後は軍需向けから民需向けに産業のシフトが進み、日本の高度成長に乗って、造船、鉄鋼、紙パルプ、自動車、電気など、さまざまな産業が成長を遂げていくことになった。

20160510HIROSHIMA_P03 現在も広島県の産業構造は製造業の比率が高く、全体の22・3%を占め、全国平均を上回る(2013年度)。海外への製品輸出を手掛ける企業が多いため、為替動向にも左右されやすい。そのため、安倍政権発足以降のここ数年は、円安によって広島県経済全体にも大きな恩恵がもたらされた。

 今後の課題として挙げられるのは、製造業の地力をベースにさらなるイノベーションを起こすこと、そして中国地方の他県や四国を含む瀬戸内地域として、観光インフラを整備していくことなど。これらを着実に実行することで、広島経済にはまだまだ成長する余地が残されている。

 

起業家精神を刺激する広島県のオープンな土地柄

 

 前述のカルビーをはじめ、青山商事、エディオン、オリエントコーポレーション、五洋建設、セーラー万年筆、ディスコ、フマキラー、4℃ホールディングスなど、広島県に縁がある全国区の企業も多い。山口県発祥の企業ではあるが、ユニクロが第1号店を開設したのも広島市である。

 本特集で取材した企業経営者の多くが、広島県人の特徴として「起業家気質」や「チャレンジ精神」を挙げる。かつて、ブラジルやハワイなど、海外に移民した日本人の中では広島県出身者が最も多い。広島県は耕地面積が小さいという事情はあったものの、県民のチャレンジ精神を表す例として、よく取り上げられる話だ。

 オープンな土地柄のため、県外の人々が起業する環境としても広島は適しているという。ただし受け入れられるためには、広島カープの悪口を言う、お好み焼きの前に「広島風」を付けるといった、地元民にとってのタブーを犯さないことも当然忘れてはならない。

(文=本誌編集長/吉田浩)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る