マツダ小飼雅道社長が考える広島のものづくりの強みとは
―― 広島のものづくりの強みはどこにあるのでしょうか。
小飼 広島は平地が少なく、農業よりものづくり産業が伝統的に根付いていきました。豊富な木材を燃やして鉄を生成する鑪(たたら)製鉄という製法が江戸時代の後半から盛んになり、中国地方の鉄の生産量は全国の約半分を占めるほどになっていました。「鉄」が1つのキーワードだったのです。
その流れで、近年一番大きく花開いたのが造船業です。戦前から戦中にかけて、呉の軍港に広島のものづくり産業が集約され、育って行きました。マツダの車づくりにも、そうした船をつくるための技術力が生かされていきました。それが端的に表れているのが設計図です。車の設計図に引かれている高さ方向の目盛を表す線を、当社ではWL(ウォーターライン)と表記していますが、これは船の喫水線のことです。つまり、いまだに船の設計図の呼び方が車に使われているんですね。
そして、広島は地理的に東京、大阪など大都市から離れているため、何でも自前でやるしかないという状況があります。車をつくる産業機械も金型も、ちょっとした小型ロボットもまずは自前で製造する伝統があるのです。われわれが「SKYACTIVテクノロジー」を開発できたのも、そうした自前でつくる文化が背景にあります。われわれの協力会社に関しても、同じことが言えます。
―― 最近では海外生産比率が高まっていますが、国内生産の基本的な位置付けはどうなっているのでしょうか。
小飼 本社工場(広島県)と防府工場(山口県)を合わせて、国内に100万台規模の生産設備がありますが、これをフル活用することが最優先です。90万台から100万台の生産を集中的に行える拠点は他社にはありません。これだけ集約すると、量産効果によって非常にローコストで生産ができます。ただ一方で、為替変動への耐性はつけておきたいので、100万台を超える台数については海外で生産する方針です。今から4年前くらいまでは、グローバル販売台数が全体で130万台にも届かなかったため生産拠点の海外進出は難しかったのですが、今期は151万台の販売計画なので、50万台程度を海外でつくれる状態になっています。
やはり当社は広島の人材が中心の会社なので、広島をモデルに、ブランド力を高めたいと考えています。そのため、従業員には地元への貢献や感謝の気持ちを意識するよう、常に言っています。マツダのブランドを構築し、それを海外にも広げるという役割が広島にはあります。
―― 本社工場のレベルを海外に移管するのは簡単ではないようにも思えますが。
小飼 工場内の設備やロボットの配置から動きまで世界中で統一していますが、何らかのエラーや変化が生産工程では必ず起きます。そうした未知数の部分に対処するには経験が必要です。工場立ち上げから数えると、タイが15年生、中国が7〜8年生、メキシコはまだ2年生でしかないので、時間と共に、経験を通じた力が備わってくるでしょう。
マツダは広島への感謝を絶対に忘れない
―― 地元貢献のユニークな試みとして、従業員が特技を生かして地域住民の要望に応える「マツダスペシャリストバンク」という制度がありますね。
小飼 1994年のアジア競技大会をきっかけに、各従業員が特殊技能を生かして地元へ貢献しようということで始めました。従業員が特技を登録しておいて、要請があれば休日でもボランティアで活動します。例えば、私が部長を務めていたことのあるラグビー部では、部員が地元の小学校でラグビー教室を開催しておりますし、中には南京玉すだれや落語を披露する人もいます。一度も呼ばれたことはないですが、私も「多品種混流モジュール生産システムについての講演ができる」ということで登録しています(笑)。
先日、広島本社を土日に近隣の皆さまに開放するという試みも初めて行いました。マイナス30度の実験施設に親子で入っていただいたり、ラジコンカーのレースを行ったりしました。最大の目的は、地域の方々にマツダで働いている人々と触れ合っていただくことです。
当社は以前、地元との距離感が若干開いてしまった時期があったのですが、1975年に「郷心会」というマツダの支援組織ができて、広島商工会議所の会頭が中心になり「マツダ車を買おう」という運動を展開していただきました。そうやって広島という地に支えられて生きてきた会社なので、もう一度感謝の気持ちを持ってできることは積極的にやりたいと思っています。
―― 地域貢献の観点から、今後はどんなことに取り組んでいきますか。
小飼 紆余曲折は今後もあると思いますが、少なくとも地域の皆さまに感謝の気持ちを忘れず、期待に応えるという精神だけは絶対に忘れないつもりです。コーポレートビジョンにあるように、お客さまに豊かなカーライフを過ごしていただける商品を作り続ける、そしてどんな困難があっても、独創的なアイデアと努力によって、挑戦し続けることをお約束します。
(聞き手/本誌編集長・吉田浩)
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