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東芝と日立の決定的な違いとは――冨山和彦×牛島信(前編)

牛島信氏(左)と冨山和彦氏(右)

ガバナンス不在の“心地よさ”に執着する経営トップ

牛島 冨山さんは株主主権主義に近い考え方をされているのかと思っていたのですが、過去のご発言を拝読すると全く違っていて、企業は社会の公器だとおっしゃられている。現場で働かれている方の感覚なんだと実感しました。

冨山 ずっと現場で働いていましたので。司法試験は39期、牛島先生の10期後輩になります。

牛島 冨山さんは司法試験に合格して、その後、経営者として活動されてきた。それも大きな組織でゆったり過ごしたのではなく、かなりダイナミックな経営者だったと思います。それを踏まえて、あえて今、東芝事件に見られるガバナンスのお話を最初にしたい。冨山さんはあれを「ガバナンス粉飾だ」とおっしゃっている。機関投資家とそれを助ける企業が、そのガバナンス粉飾をつくり上げているように見えます。これは企業という、閉鎖的な共同体における経営の悪しき一面ではないかと思います。

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(とやま・かずひこ)1960年生まれ。85年東京大学法学部卒。在学中に司法試験合格。92年スタンフォード大学経営学修士(MBA)取得。ボストンコンサルティンググループを経て、2003年産業再生機構に参画、COO就任。解散後、経営共創基盤(IGPI)を設立、現在に至る。産業再生機構で数多くの企業支援に携わり、現在も企業の経営改革や成長支援を手掛ける冨山和彦氏。豊富な現場経験を元に感じている日本のコーポレートガバナンスの問題点、リーダー育成の在り方などについて、今回は斬り込んだ。

冨山 それはそのとおりかもしれません。共同体経営の悪い面が詰めこまれている気がします。

牛島 社外取締役はいるけれど、私たちは共同体の中でやっていくので口を出さないでほしいという雰囲気ですよね。内部昇進だけで組織をつくり上げて、排他的になってしまっている共同体とは、対決しなければならないと冨山さんはおっしゃっていますね。冨山さんは「今、たまたま安倍政権がガバナンスを推進しているが、政権が変わったら状況が変わるかもしれない。それまで首をすくめていよう」と、多くの経営層が考えているのではないかと言われている。

冨山 戦後から今につながる日本式経営では、新卒一括採用で終身雇用、男性正社員が年次を重ねて昇進していき、会社という組織を支配していく。この形は高度経済成長期にはフィットしました。それが長い間繰り返されて、自己強化された共同体になってしまった。それでも昭和50年代までは、銀行に資金を借りなければならなかったので、銀行によるガバナンスが働いていたんです。ところが、銀行が不良債権を抱えるようになり.企業もキャッシュフローの改善やエクイティ調達ができるようになると、銀行のガバナンスが効かなくなってきた。ここにガバナンスの空白が生まれる。企業という共同体は、この時期、外部からの声を気にしないで経営をすることができた。これが非常に心地良かった。

牛島 今、経営トップにいる層が、そのころをよく知っているわけですね。

冨山 だから、この状態に対する執着がすごいんでしょう。ガバナンス空白期に若手だった人が、キャリアのゴールが見えてきた今、コーポレートガバナンス・コードが導入されて、ルールが変わろうとしている。憶病な人は首をすくめるし、欲望に正直な人は水面下で画策するんです。幕藩体制でうまくやってきて、これからうまい汁が吸えると思ったら、討幕されたようなものですね。

強烈なインパクトを与えた日立の宗旨替え

牛島 私が日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークの理事長に就任した頃は、地味な団体でした。それが、アベノミクスのコーポレートガバナンス改革によって、いつのまにか脚光を浴びて戸惑っているところがあります。だからこそ、安倍政権の推進力がなくなったら、今のコーポレートガバナンスの流れも力を失うのかという思いもあります。

冨山 もうこの段階では、政治の話というよりも、経済界の中でのシーソーゲームでしょう。今回、コーポレートガバナンス改革が進んだ背景には、政治の頑張りもあったでしょうが、私は日立の宗旨替えが大きいと思います。あれだけ日本式経営の保守本流にいた会社が、経営危機に際して積極的に舵を切った。これは強烈なインパクトでした。

牛島 川村隆さんを社長に据えるという決定をした人がいたことも驚きでした。

冨山 あれは古いシステムであるOBガバナンスが、最後の最後で良い形で働いたケースだと思います。面白いのは、OBガバナンスで社長に就任した川村さんは、それを否定しているんです。自分が最後だ、もうやらないと。しかも、川村さんはもうOBガバナンスが働かないように仕組みそのものを変えてしまった。これはすごいことだと思います。

牛島 冨山さんはオムロンの社外取締役として改革を推進された経験もありますが、オムロンも歴史ある会社ですし、改革は大変だったのではないですか。

冨山 オムロンはもともと同族会社で、ある意味古い体質だったのですが、当時の会長と社長が、それではいけないと改革を進められた。そういう意思表示をされていたので、私たち社外取締役もそれに協力していきました。東芝は悪いケースですが、日立やオムロンのような影響力が大きい企業が改革すると、大多数のフォロワーに大きな影響があるんです。

後継者候補はタフな環境に置いて育成せよ

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(うしじま・しん)1949年生まれ。東京大学法学部卒業後、東京地検検事、広島地検検事を経て弁護士に。牛島総合法律事務所代表として、多くのM&Aやコーポレートガバナンス関連の案件を手掛ける。97年『株主総会』(幻冬舎)で作家デビュー。この他、『株主代表訴訟』『買収者(アクワイアラー)』等、企業社会を舞台にした多くの作品がある。日本コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(CGネット)理事長。上場会社など4社の社外役員を務めている。

牛島 フォロワーという言葉が出たので、それに続く話をしたいのですが、私は上場企業を中心とする資本主義とは、経営者資本主義だと思っています。経営者というリーダーがいて、それに続くフォロワーがいる。フォロワーは「この人についていけば、自分の人生に価値があると実感できる」と思うリーダーについていく。織田信長を例に出すと、彼は好きなことをやったのでしょうが、そこに多くのフォロワーを生み、フォロワーが次の世代のリーダーに育っていった。こういうリーダーがいると世の中は上手く回るのですが、そのリーダーはどうやって生まれるかが問題だと思います。

冨山 それには主観的な条件と客観的な条件があると思います。主観的な条件は性格や能力、資質なので、誰かが手を出すのは難しい。だから客観的な条件を揃えることがポイントだと思います。結論から言えば、リーダーとしての立場で、とことん苦労してもらうことです。とりわけタフな環境の中で、それでも生き残った人をリーダーにすればいいんです。そこで結果を残せなくてもいい。環境が悪ければ負け戦が増えます。でも、負け戦のほうがその人の資質が見えやすい。責任回避に力を注いで、先を争って負け戦から逃げるようではダメです。被害を最小限に抑えて、戦後処理がきちんとできる人がいるはずです。

牛島 豊臣秀吉が浅井長政との戦で殿(しんがり)を担った、金ヶ崎の退(の)き口を思いおこさせますね。

冨山 戦は失敗すれば死んでしまいますが、ビジネスでは負けても死にません。よく後継者候補を社内で一番強い部署に入れて勝ち戦を続けさせるという話がありますが、それはやってはいけないんです。それよりも負け続けて傷だらけのほうがいい。真っ先に負け戦から逃げる人物かどうかを見きわめるには、実際に負けないと分かりません。経営者候補はタフな環境に置いて、10年くらいかけて育てていく必要があります。

牛島 それは、社外取締役が社長選任にどうかかわっていくかという話にも通じますね。

冨山 これだけ社会環境の変化が激しく、破壊的イノベーションが次々と起きて、強力な競合他社が生まれてくる中では、リーダーはかなりシビアな意思決定をしてその結果を背負わなければなりません。経営者を選ぶことに関して、日本の会社はあまりにも手を抜いてきたんだと思います。

牛島 OBガバナンスでリーダーをつくる動きの中では、社外取締役が相当本気でやらないと改革できません。社外取締役がいろんなことを言っても所詮1、2年しか任期がないのは問題です。

冨山 せめて社外監査役と同じ、4年の任期がほしいですね。当初ガバナンスを効かせるのは、社外監査役でいいのではと言われていました。それが、今やガバナンスの主役は社外取締役ということになっています。そういう議論はされていくべきでしょう。(後編に続く)

(構成=本誌編集長/吉田 浩 写真=幸田 森)

美しいコーポレートガバナンスとは-冨山和彦×牛島信(後編)

 
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