テクノロジー

バーチャルリアリティー(VR)の盛り上がりと共に注目を集めている技術がフォトグラメタリー(写真測量)だ。VRではすべてを3Dデータ化する必要があるが、フォトグラメタリーは100台以上のカメラで360度全方位から同時撮影することにより、容易に高度な3Dデータ(アセット)を作成する。日本で初めてとなるフォトグラメタリー専用スタジオを構えるアバッタCEOの桐島ローランド氏に話を聞いた。 聞き手=本誌/村田晋一郎 写真=佐藤元樹

VRに必要な3Dデータをフォトグラメタリーで容易に作成

―― フォトグラメタリーを始めることになった経緯は。

20160621AVATTA_P01

(きりしま・ろーらんど)1968年生まれ、神奈川県横浜市出身。小学校3年でニューヨークへ移住。91年にニューヨーク大学芸術学部写真科を卒業後、ニューヨークで写真家として活動を開始。93年に活動の拠点を東京に移す。2014年アバッタを設立、現在に至る。

桐島 私は2年ぐらい前から、バーチャルリアリティー(VR)に興味を持ち始めていました。写真家というある意味レガシーな仕事をしていますが、私たちの業界はフィルムからデジタルへと、いろんな意味で淘汰されていきましたし、これからITによって、もっと厳しい時代が来るなというのを肌で感じていました。

 逆に自分がクリエーターとして、今までの写真の知識を生かして新しいビジネスを展開ができるかを真剣に考えるようになって、たまたまその中で、フォトグラメタリーというテクノロジーについての情報が手に入りました。

 自分でいきなり全く違うフィールドに足を踏み入れるのもすごく怖かったのですが、最初にニコンさんに相談して、50台ほどカメラを貸してもらえないかというところから始まって、スタジオを1カ月貸し切ってテストしてみたんですね。そしたら運がいいのか悪いのか分からないですけど(笑)、たまたま、うまくいきました。そしたらこれは面白いなと思って、すごいことができるなと。

―― フォトグラメタリーのすごさとは。

桐島 要するに今までなら3Dのデータを作るのは、人の形の3Dデータをゼロから作ろうとすると、なかなかリアルにはできなかった。そしてリアルにできたとしても、とんでもないコストが掛かります。

 例えば「ウイニングイレブン」や「ファイナルファンタジー」のようなゲームのキャラクターをゼロから作ると、1つのキャラクターにだいたい2カ月を要し、コストが200万円掛かります。それが当社の3Dのスキャナーを使えば、30分でデータができます。今、当社はだいたい6万円でデータを作っていますが、200万円掛かったことが6万円でできます。

 ゲームだけではなく、3Dには本当にいろんな可能性があります。VRもそうですけど、AR(拡張現実)、広告のポスター、CM制作、映画など、一度データを作ってしまえば、いろんな用途に流用できます。

 当社はアバッタという社名ですが、アバターから来ています。要するに自分のアバターを作っておけば、それでいろんなことができる。VR、ARだけでなく、そういう時代が普通に来ると思います。

 

VRに引きずられて新しいビジネスが広がる

 

―― VRやARの流れはどう見ていますか。

桐島 本当の意味でのVRの面白さというのは多分、立体的な空間の中に入っていくことです。異次元の空間の中に入っていくわけですから、結局、周りの環境を含めて全部3Dデータを作らなければいけません。

 空間の中で歩いていろんな角度から物を見ようとすると。立体的な空間に合わせた3Dアセットも必要になります。VRの空間を演出するために、そういったアセットをこれからどんどん作っていかないといけない。そのビジネスが一気に普及していくと思います。実際、当社も今年に入ってから、すごく問い合わせが増えました。

 例えば今、レンタルフォトが流行っていますが、あれと同じような感じで、3Dデータを安く借りるようなダウンロードのサービスも普及すると思います。VRに引きずられてこれからいろんな新しいマーケットが生まれてきます。

―― スタジオの運営は2年前に始まり順調なようですが、今後はどうしていきますか。

桐島 アセットの販売に興味があります。だから一般の人をスキャンするときに、無料でスキャンしてあげようかなと思っています。その代わり、無料のバーターとして、彼らのデータを当社がストックフォトと同じようなかたちで外部に提供する。そういうビジネスモデルもあり得ると思っています。

 これからはプラットフォームがすごく重要になってきます。そうなるといろんな意味で人の3Dスキャンは財産になるので、そういうものを提供できるプラットフォームは大きなビジネスの可能性があると思います。

 例えばアパレルでは、自分の3Dデータを基に完璧なオーダーメードのスーツを仮縫いとかしなくても作れたら面白いじゃないですか。当社のデータを工場に送ったら、そのままスーツができ上がってくるようなオーダーメードの新しいやり方とか、いろんな可能性があります。私はもともとファッションの業界の人間なので、ファッションにからめて何かやりたい気持ちはすごく強いですね。

―― ファッションショーもこれからVRで実現するのですか。

桐島 結局、お金の話になりますが、どちらがコストが安いかということと、どちらが人が喜ぶかという話だと思います。もちろんリアルなモデルが目の前で動いていたほうがほとんどの人はハッピーじゃないですか。

 だけど、今でも予算がないためファッションショーができずに、会社の中でマネキンを置いてやっている人は多いです。それではちょっと物足りないという人に、バーチャルファッションショーが安価にできるとなったら、それをやる人が増えると思います。結局プライスポイントで、リアルとバーチャルのバランスが合うようになったところから一気に変わりますね。

 例えば、イケアの家具のカタログは全部フルCGで、もう写真は撮っていません。ファッションのカタログなどもプライスポイントが合えばフルCGになり、人を撮ることが減ってくるかも知れません。

 

写真家としてのノウハウがVRのビジネスでも強みに

 

―― 技術の進化でレガシーの部分が変わっていくということが、VRでも起こると。

20160621AVATTA_P02桐島 VRでは、特にそこが重要になってくると思いますね。VRの場合は360度、いろんな角度から見るという意味で、フォトショップなどでごまかすことが効かなくなります。ちゃんとリアルなデータを撮っておくことが重要になってきます。

―― では撮り方でノウハウが試されることになるのですか。

桐島 そうなんですよ。ラッキーなことに自分が写真をやっていたので、ノウハウがあります。当たり前ですけど、写真を撮らないといけません。今、120台のカメラが動作していますけど、120枚の写真を一瞬のうちに撮ります。その写真が1枚ずつちゃんと撮れているかどうかという話です。

 ゲーム業界の人たちも、実は同じようなフォトグラメタリーのシステムを持っていますが、当社に来てデータを作りたいと言ってきます。当社が提供するサンプルのデータにかなわないという話です。

 何が違うのかなと思うと、ライティングとかちょっとしたことなんですね。重要なのは。ただ写真がちゃんと撮れるかどうか、露出がちゃんと合っているかどうか。そういう初歩的なことができるかできないかで、クオリティーが変わっていくと思います。

―― 似たようなことをやっている他社へのサンプル提供は、ノウハウの流出になりませんか。

桐島 なりますね。だからすごく心配なんですけど、ただ私はネットで調べてシステムを全部自分で作ったんですよ。ネットで調べればできることなので、隠す意味がないですね。

―― 今は先行者利益があるかも知れませんが、周りがキャッチアップすることについては。

桐島 いや、もう不安でたまりませんよ。なので、常に次のステップへ勉強しています。

 あとはやはりブランド力や人間力だと思います。写真もそうじゃないですか。良いカメラマンは世の中に何千人もいるわけですが、仕事が来る人にはなぜ仕事が来るのかというのと同じです。あるところまでは皆さんも追い付くと思いますが、そこから先にどういうことができるかという、ちょっとしたことだと思います。

 私もカメラの世界は30年近くやっているので、そういうB2Bの関係性は慣れています。もちろん焦りますけど、ある意味すごく面白いマーケットで、みんな分からないことが多くて互いに情報を共有したりもしています。ライバルでもあるけれども、仲間でもあります。

 とにかく今、業界が盛り上がってきて、その盛り上がるきっかけの一つの会社になれればいいなと思っています。半分趣味でやっていると言うと失礼ですが、そういうところはあります。全く知らないフィールドを45歳になって開拓したわけですから、自分も正直そういうのが楽しいんですよね。

 

【テクノロジー】の記事一覧はこちら

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る