バーチャルリアリティー(VR)の盛り上がりと共に注目を集めている技術がフォトグラメタリー(写真測量)だ。VRではすべてを3Dデータ化する必要があるが、フォトグラメタリーは100台以上のカメラで360度全方位から同時撮影することにより、容易に高度な3Dデータ(アセット)を作成する。日本で初めてとなるフォトグラメタリー専用スタジオを構えるアバッタCEOの桐島ローランド氏に話を聞いた。 聞き手=本誌/村田晋一郎 写真=佐藤元樹
VRに必要な3Dデータをフォトグラメタリーで容易に作成
―― フォトグラメタリーを始めることになった経緯は。
桐島 私は2年ぐらい前から、バーチャルリアリティー(VR)に興味を持ち始めていました。写真家というある意味レガシーな仕事をしていますが、私たちの業界はフィルムからデジタルへと、いろんな意味で淘汰されていきましたし、これからITによって、もっと厳しい時代が来るなというのを肌で感じていました。
逆に自分がクリエーターとして、今までの写真の知識を生かして新しいビジネスを展開ができるかを真剣に考えるようになって、たまたまその中で、フォトグラメタリーというテクノロジーについての情報が手に入りました。
自分でいきなり全く違うフィールドに足を踏み入れるのもすごく怖かったのですが、最初にニコンさんに相談して、50台ほどカメラを貸してもらえないかというところから始まって、スタジオを1カ月貸し切ってテストしてみたんですね。そしたら運がいいのか悪いのか分からないですけど(笑)、たまたま、うまくいきました。そしたらこれは面白いなと思って、すごいことができるなと。
―― フォトグラメタリーのすごさとは。
桐島 要するに今までなら3Dのデータを作るのは、人の形の3Dデータをゼロから作ろうとすると、なかなかリアルにはできなかった。そしてリアルにできたとしても、とんでもないコストが掛かります。
例えば「ウイニングイレブン」や「ファイナルファンタジー」のようなゲームのキャラクターをゼロから作ると、1つのキャラクターにだいたい2カ月を要し、コストが200万円掛かります。それが当社の3Dのスキャナーを使えば、30分でデータができます。今、当社はだいたい6万円でデータを作っていますが、200万円掛かったことが6万円でできます。
ゲームだけではなく、3Dには本当にいろんな可能性があります。VRもそうですけど、AR(拡張現実)、広告のポスター、CM制作、映画など、一度データを作ってしまえば、いろんな用途に流用できます。
当社はアバッタという社名ですが、アバターから来ています。要するに自分のアバターを作っておけば、それでいろんなことができる。VR、ARだけでなく、そういう時代が普通に来ると思います。
VRに引きずられて新しいビジネスが広がる
―― VRやARの流れはどう見ていますか。
桐島 本当の意味でのVRの面白さというのは多分、立体的な空間の中に入っていくことです。異次元の空間の中に入っていくわけですから、結局、周りの環境を含めて全部3Dデータを作らなければいけません。
空間の中で歩いていろんな角度から物を見ようとすると。立体的な空間に合わせた3Dアセットも必要になります。VRの空間を演出するために、そういったアセットをこれからどんどん作っていかないといけない。そのビジネスが一気に普及していくと思います。実際、当社も今年に入ってから、すごく問い合わせが増えました。
例えば今、レンタルフォトが流行っていますが、あれと同じような感じで、3Dデータを安く借りるようなダウンロードのサービスも普及すると思います。VRに引きずられてこれからいろんな新しいマーケットが生まれてきます。
―― スタジオの運営は2年前に始まり順調なようですが、今後はどうしていきますか。
桐島 アセットの販売に興味があります。だから一般の人をスキャンするときに、無料でスキャンしてあげようかなと思っています。その代わり、無料のバーターとして、彼らのデータを当社がストックフォトと同じようなかたちで外部に提供する。そういうビジネスモデルもあり得ると思っています。
これからはプラットフォームがすごく重要になってきます。そうなるといろんな意味で人の3Dスキャンは財産になるので、そういうものを提供できるプラットフォームは大きなビジネスの可能性があると思います。
例えばアパレルでは、自分の3Dデータを基に完璧なオーダーメードのスーツを仮縫いとかしなくても作れたら面白いじゃないですか。当社のデータを工場に送ったら、そのままスーツができ上がってくるようなオーダーメードの新しいやり方とか、いろんな可能性があります。私はもともとファッションの業界の人間なので、ファッションにからめて何かやりたい気持ちはすごく強いですね。
―― ファッションショーもこれからVRで実現するのですか。
桐島 結局、お金の話になりますが、どちらがコストが安いかということと、どちらが人が喜ぶかという話だと思います。もちろんリアルなモデルが目の前で動いていたほうがほとんどの人はハッピーじゃないですか。
だけど、今でも予算がないためファッションショーができずに、会社の中でマネキンを置いてやっている人は多いです。それではちょっと物足りないという人に、バーチャルファッションショーが安価にできるとなったら、それをやる人が増えると思います。結局プライスポイントで、リアルとバーチャルのバランスが合うようになったところから一気に変わりますね。
例えば、イケアの家具のカタログは全部フルCGで、もう写真は撮っていません。ファッションのカタログなどもプライスポイントが合えばフルCGになり、人を撮ることが減ってくるかも知れません。
写真家としてのノウハウがVRのビジネスでも強みに
―― 技術の進化でレガシーの部分が変わっていくということが、VRでも起こると。
桐島 VRでは、特にそこが重要になってくると思いますね。VRの場合は360度、いろんな角度から見るという意味で、フォトショップなどでごまかすことが効かなくなります。ちゃんとリアルなデータを撮っておくことが重要になってきます。
―― では撮り方でノウハウが試されることになるのですか。
桐島 そうなんですよ。ラッキーなことに自分が写真をやっていたので、ノウハウがあります。当たり前ですけど、写真を撮らないといけません。今、120台のカメラが動作していますけど、120枚の写真を一瞬のうちに撮ります。その写真が1枚ずつちゃんと撮れているかどうかという話です。
ゲーム業界の人たちも、実は同じようなフォトグラメタリーのシステムを持っていますが、当社に来てデータを作りたいと言ってきます。当社が提供するサンプルのデータにかなわないという話です。
何が違うのかなと思うと、ライティングとかちょっとしたことなんですね。重要なのは。ただ写真がちゃんと撮れるかどうか、露出がちゃんと合っているかどうか。そういう初歩的なことができるかできないかで、クオリティーが変わっていくと思います。
―― 似たようなことをやっている他社へのサンプル提供は、ノウハウの流出になりませんか。
桐島 なりますね。だからすごく心配なんですけど、ただ私はネットで調べてシステムを全部自分で作ったんですよ。ネットで調べればできることなので、隠す意味がないですね。
―― 今は先行者利益があるかも知れませんが、周りがキャッチアップすることについては。
桐島 いや、もう不安でたまりませんよ。なので、常に次のステップへ勉強しています。
あとはやはりブランド力や人間力だと思います。写真もそうじゃないですか。良いカメラマンは世の中に何千人もいるわけですが、仕事が来る人にはなぜ仕事が来るのかというのと同じです。あるところまでは皆さんも追い付くと思いますが、そこから先にどういうことができるかという、ちょっとしたことだと思います。
私もカメラの世界は30年近くやっているので、そういうB2Bの関係性は慣れています。もちろん焦りますけど、ある意味すごく面白いマーケットで、みんな分からないことが多くて互いに情報を共有したりもしています。ライバルでもあるけれども、仲間でもあります。
とにかく今、業界が盛り上がってきて、その盛り上がるきっかけの一つの会社になれればいいなと思っています。半分趣味でやっていると言うと失礼ですが、そういうところはあります。全く知らないフィールドを45歳になって開拓したわけですから、自分も正直そういうのが楽しいんですよね。
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