政治・経済

電子帳簿保存法の改正で、スマートフォンによる領収書撮影が認められることになる。領収書電子化拡大の契機となり、経費精算システムの導入も進むと見られる。電子化とシステムの導入は、企業活動効率化と同時に経費の不正使用の予防策として期待される。文=本誌/村田晋一郎

表計算ソフトは不正経費を発生しやすい

 「(不正使用を)予防するシステムがあれば、『でき心』を防ぐことができたと思う」

 舛添要一・東京都知事の政治資金の不正使用問題に言及し、三村真宗・コンカー社長は記者会見でこう語った。

 コンカーは企業向け業務SaaSベンダーで世界2位の規模にある米Concur Technologiesの日本法人。出張管理・経費精算のクラウドサービスを提供している。

 現在、日本企業の経営課題の一つは、間接部門の構造改革である。間接費の高さから外国企業に比べ利益率が低く、またホワイトカラーの労働生産性の低さが指摘されている。さらに昨今のコンプライアンス意識の高まりから、経費の不正使用が明るみに出ることは、企業にとって大きなリスクとなっている。経費不正使用は今回の舛添知事や昨年明るみになった野々村竜太郎・元兵庫県会議員の一件など、何かと政治家や公務員の不祥事として注目されやすいが、企業においても起こり得ることだ。経費精算にかかわる人間のモラルが企業に多大な損害を与える危険性があり、こうした金の流れに一般従業員が関与すること自体が問題となってくる。

 今回、コンカーは「サラリーマンの経費精算に関する実態調査」を実施した。そこで経費の不正使用については、回答者の24%が経費の不正使用の経験があると答えた。年齢別では、20代と60代が少なく、30代が最も多い結果となった。仕事に慣れて職場での存在感が高まる30代が不正を起こしやすい潜在的リスクがあり、40~60代と責任ある立場になるほどリスクが低くなるという。

 また、経費精算のツールとしては、経費精算システム、表計算ソフト、手書きに大別されるが、調査によると、表計算ソフトを用いる場合が最も不正発生率が高く、システムの2倍の比率になった。冒頭の三村社長の発言は、この結果を受けてのもの。表計算ソフトを使用するとコピー&ペーストで「偽造」が容易なため、不正が発生しやすい。経費精算システムでも不正が発生するケースもあるが、経費の内訳を自動でチェックする機能を設け、事前に不正ができない仕組みを導入していれば、不祥事の発生を防げるという。

領収書の電子化と生涯人件費の削減とは

 現在、コンカーが注力しているのが領収書電子化の規制緩和への対応だ。領収書をはじめとする税務関係書類の電子化は世界的な流れであり、日本でも徐々に、規制緩和が進んでいる。

 昨年9月29日以前は、3万円未満の領収書のみ電子化が可能だったが、規制緩和により昨年9月30日以降、金額にかかわらずすべて電子化が可能となっている。ただし、仕様を満たした「原稿台付スキャナー」の利用が必須となる。今年3月31日の官報における財務省令で、電子帳簿保存法の規制緩和が公示されており、今年9月30日施行の改正法では、スキャナーに加えスマートフォンやデジタルカメラなどのデジタルデバイスでの利用が可能になる。適用するスマホやデジカメは仕様を満たすものに限られるが、電子化が一気に簡素化されることになる。

 領収書の電子化では領収書画像の改ざん防止のため、認定業者のタイムスタンプを付与しているが、今度のスマホによる電子化では正当性担保のため、一連のフローを短縮。領収書受領から、領収書の撮影、システムへの画像アップロード、タイムスタンプ付与までを3日間で行うこととしている。また、社内での領収書画像の使いまわし防止のため、スマホによる電子化の場合は、領収書に受領者本人が自署した上で、領収書を撮影することになる。

 スマホによる領収書電子化で期待されるのは、業務の効率化だ。先の実態調査によると、サラリーマンが一生のうちに経費精算に費やす時間は平均で52日、月額10万円を超える経費支出をする場合は100日を浪費する。これを人件費に換算すると、1人当たり144万円、月額10万円以上経費支出する場合は279万円のコストが発生することになるという。

 経費精算申請に要する作業時間は月平均48分で、その内訳は入力作業15・5分、運賃確認10・8分、予定表との突合10・3分、糊付け11・5分となる。コンカーの試算では、入力作業や運賃確認などは、現状で交通系ICカードと経費精算クラウドを組み合わせることで半減できる。そして今回のスマホ対応で糊付け時間が100%削減されるため、電子化で従来の83%の時間削減が可能になるという。

 これにより、経費精算の生涯時間は52日から8・8日へ、生涯人件費144万円から24万円へ削減できることになる。

 こうした費用削減効果と手順の簡便さから、今回の規制緩和への企業の関心は高いようだ。三村社長によると、「前回の規制緩和の時よりもクライアントの適用意欲は高く、既存クライアントの7割が適用の準備を進めている」という。

 領収書電子化の拡大により、経費精算システムの導入がさらに進むことになる。そうなれば、企業活動が効率化すると同時に、経費に関する不祥事も減ることが期待される。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る