政治・経済

衆参ダブル選を回避した背景

 「アベノミクスをもっと加速させるか、後戻りさせるかが最大の争点だ」

 安倍晋三首相は6月1日、通常国会閉幕後、午後6時から首相官邸で記者会見し、2017年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを19年10月まで2年半延期する意向を正式に表明し、参院選で国民の信を問うと、こう語った。

 参院選日程は6月22日公示、7月10日投開票で、これから18日間、真夏の国政選挙が展開される。とはいえ、5月下旬まで永田町でささやかれていた衆院解散、衆参ダブル選挙は見送られた。このことについて安倍首相は会見で、野党4党が内閣不信任決議案を提出したときのことを振り返り、「私の頭の中で解散がよぎったことは否定しない」と述べ、熊本地震で避難生活をしている被災者のことを話した上で「参院選の準備だけでも大変な苦労をかけている。だから、同じ国政選挙の参院選で国民の信を問う」と述べた。

 自民党関係者は語る。

 「一部報道などで、被災地でも参院選ができるのだから衆参ダブル選もできる、との理屈で、安倍首相は“ダブル説”を考えていると筋立てていました。しかし、参院選と衆院選は公示期間が異なり、掲示板も新たに用意しなければならないなど、手間は2倍どころか3倍にもなる。だから、ダブル選回避は当然です」

 官邸関係者も、安倍首相は最後、被災地のことを優先して解散はしないと決めたという。それは当然だろうが、衆院解散回避の理由がそれだけでないことは、当コラムでも既に示したとおりだ。さらに5月中旬、秘密裡に自民党が調査した結果、ダブル選にした場合、かなりの議席数が減るとのデータも示されたことも大きいといわれている。

 では、参院選でどうなるのか。安倍首相は、与党の獲得議席数の勝敗ラインを改選定数(121)の過半数、61議席と位置付けた。今年1月4日に行われた年頭の会見で述べた「与党で非改選を含む過半数」、つまり46議席だった。そこから15議席上積みした格好だ。政治ジャーナリストはこう解説する。

 「61議席といっても、公明党が12〜13議席を獲得するとみられ、自民党は50議席を取れば勝敗ラインを上回る計算だ。要は、目標を高く掲げ、自分を追い込んだように見せかけているものの、何の苦もない数字設定なのです」

 しかし、状況はそう簡単な話ではなさそうだ。別の自民党関係者はこう語る。

 「政党支持率、内閣支持率はいいのにもかかわらず、50台後半とみていた獲得議席数が、ジリジリと落ちている。これは、野党統一候補の効果が出ていると見ています。万が一、50を割るようなことになると、一気に政局になる可能性があります」

自民党内で不協和音が噴出する可能性も

 ポスト安倍を狙う麻生太郎財務相は、増税先送りの判断を安倍首相から聞いた際、「延期なら衆院解散をすべきだ」と主張したことを5月29日の富山市の講演で明かした。50を割った場合、不協和音が党内で一気に噴出する可能性があるのだという。

 加えて、党内力学に微妙な変化が生じ始めている。二階俊博総務会長の長男、俊樹氏が、和歌山県御坊市の市長選に出馬したものの、現職の柏木征夫氏に敗れたからだ。先の北海道補選より、大規模な応援部隊を作り、小泉進次郎衆院議員をはじめ、数多くの国会議員を投入し、しかも、二階氏のおひざ元であるにもかかわらず、敗れたのだ。党内で存在感を示してきた二階氏だが、その“効力”は意外にも地元から崩れ始めてきたのだ。

 自民党OBはこう語る。

 「中堅、若手の多くが、二階氏の影響力が薄れるのを期待している。これで、参院選の結果次第で、自民党内は乱世に突入するかもしれません」

 今回の参院選のカギを握るのは、農業従事者と女性だ。永田町関係者もこう分析する。

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イラスト/のり

 「第1に、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の影響で、農業票の自民党離れが加速していること。第2に、“政界ゲス不倫”と呼ばれた宮崎謙介元衆院議員の件をはじめ、保育士給与をめぐる国会での議論などで、女性票が著しく自民党ノーを突きつけているようなのです」

 そのことを意識してか、安倍首相は会見で、「子育て支援や介護の受け皿の整備などについては、想定より税収が増えた分を含めて財源を確保して、優先して実施していく」と、強調。さらに、秋には大規模な補正予算を組むと述べた。だが、その財源は示されずじまい。果たして、これで女性層の支持が得られるのかどうかは、甚だ疑問である。注目の自民党VS野党連合、その結果いかんでは、日本の政治が変わるかもしれない。

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