文化・ライフ

二宮清純の「スポーツ羅針盤」

ハリルホジッチの重大な決断

 サッカーのアジア最終予選がホーム&アウェーになってから、黒星スタートしたチームがワールドカップ(W杯)に出場したことは一度もない。

 このジンクスを打ち破ることが、そんなに困難なことだとは思えない。1対2で敗れた初戦のUAE戦にしても、敗因はカタール人審判の“中東の笛”であり、そう悲観的になる必要はないと思っていた。

 さてロシアへの道のりを簡単に説明しよう。アジア最終予選は12カ国が半分ずつA組とB組に分けられる。日本は後者に属している。各グループの2位以内に入ればロシア行きの切符を手にすることができる。3位だとA組3位との試合に勝ち、そこから大陸間プレーオフに回らなければならない。そんな肝を冷やすような綱渡りは見たくない。

 さる11月15日に埼玉スタジアムで行われたサウジアラビア戦は、日本代表が6大会連続W杯出場を果たす上で、文字どおり「負けられない戦い」だった。もし負けた場合、代表監督ヴァイッド・ハリルホジッチの解任は避けられない情勢だった。

 結論から述べれば、日本は2対1で勝利を収め、ハリルホジッチの首はつながった。日本はW杯出場圏内の2位に浮上した。

 この日、ハリルホジッチは重大な決断をして試合に臨んだ。代表の顔とも言えるFW本田圭佑とMF香川真司を先発メンバーから外したのだ。

 結果的には、これが功を奏した。冷静にPKを決めたMF清武弘嗣は、「難しい試合だったが、チームが攻守においてバランスよく戦えたのが収穫」とうれしそうに語った。

 また、国際Aマッチ初スタメンとなったFW久保裕也は、「“裏に抜け出せ”と言われて試合に入った。(他の選手と連携を深めれば)もっと良くなる」と手応えを口にした。

 久しぶりに“ハリル節”も冴えわたった。

 「何人かの選手はトップパフォーマンスではない。それでも信頼してコンディションの悪い選手を使い続ける監督もいる。だが私は躊躇なく(状態の)良い選手を選んだ。確実に席を用意されている者はどこにもいない」

 自画自賛とも取れる発言だが、言っていることはおおむね正しい。ならばもっと早く、新陳代謝を図るべきだったのではと言いたくもなるが、それは控えよう。

 大胆な人事はチームを活性化させる。今回と状況は異なるが、初めてのW杯出場となるフランス行きを決めたのは、岡田武史監督(当時)の“修羅場の決断”だった。

 今から19年前の1997年11月、日本はマレーシアのジョホールバルでイランとのプレーオフに臨んだ。

 岡田が動いたのは1対2と逆転を許した後半18分だった。代表の顔であるFW三浦知良とFW中山雅史の2トップに代え、FW城彰二とFW呂比須ワグナーをピッチに送り出したのだ。

「裸の王様」になる恐怖との闘い

 値千金の同点弾を決めた城は、こんな後日談を披露した。

 「二枚替えなんてありえないと思っていた。ゴンさん(中山)が疲れたら呂比須を投入する。これは想定していたことでした。それで、“呂比須頼むぞ”と僕は声を掛けたんです。すると、いきなり“城もだよ”と。アップもせずにいきなり、ピッチに飛び出したのが真相です」

 代表メンバーの選出にあたっては、ネームバリューが優先されるものではない。もちろん経験は大事だが、それもコンディションより優先されるものではないだろう。

 しかし、言うは易し、行うは難し――。ワンマンに映るハリルホジッチにも多少の遠慮はあったようだ。

 誰を出すか、どう使うか。選手の起用法については、監督が権限を握っている。だからといって躊躇なくそれを行使すれば、選手の気持ちは離反し、チームにはすきま風が吹く。結果が伴わなければ、指揮官は“裸の王様”と化してしまう。それを恐れない監督はいない。

 選手も重用されているうちは、その監督の言うことを聞くが、自らの立場が危うくなると、そっぽを向く。

 以前、複数の監督の下でプレーした元代表選手に、「これまでで、一番良かった監督は?」と尋ねたことがある。

 その元選手は、さも当然そうな表情で、こう答えた。

 「そりゃA監督ですよ。僕を一番使ってくれたから。B監督は評価は高かったけど、僕はあまり重用されなかった。インタビューでは“B監督のサッカーは勉強になる”と答えていたが、内心では、“早くクビになればいいのに”と思っていました」

 話を現代表に戻そう。テストした新布陣が機能し、若手が躍動したことで、ひとまず停滞期は脱した。チームにも活気が生まれた。このまま上昇気流に乗りたい。(文中敬称略)

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