政治・経済

2017.02.21_R_東芝_Ph

綱川智・東芝社長

国の原発事業で巨額の損失計上が発覚し、東芝が債務超過に陥る可能性が出てきた。期末の3月に向けて、自己資本増強のために事業売却などグループの解体が進む流れになっている。その一環として、稼ぎ頭であるメモリ事業の分社化と一部資本の受け入れを決定した。文=本誌/村田晋一郎

原発子会社の巨額損失で債務超過の危機

 東芝が再び、危機を迎えている。昨年12月末、東芝は米ウェスチングハウス社(WH社)が買収したCB&Iストーン・アンド・ウェブスター社(S&W社)について、当初の想定を大幅に超える数千億円規模ののれんを計上する可能性を示唆。債務超過に陥る危険が生じている。

 東芝は2006年に6600億円を投じてWH社を買収した。そしてWH社は原発の建設および統合的サービスを行っているS&W社と提携し、原発建設プロジェクトを積極的に進めた。しかしその過程でS&W社が巨額の損失を抱えた。この損失の処理をめぐり、S&W社の親会社であるCB&I社と東芝は対立し、最終的に15年12月にWH社がS&W社を買収することで紛争は決着した。

 損失を抱えた会社を買収したことで、ある程度の損失の発生は予想されていたが、結果論で言えば、東芝側の見込みがかなり甘かったことになる。

 これには日米の商慣習の違いもある。原発についてのリスクは、日本では電力会社が負うが、米国ではベンダーが負う。11年の東日本大震災の際の福島第一原発の事故の後、原子力規制委員会(NRC)の規制が強化され、原発の建設コストが高騰。S&W社の経営を悪化させた。

 東芝では、当初、S&W社ののれん代を105億円程度に見ていたが、買収後1年以内に行う買収会計の過程で、昨秋になってのれんが想定を上回ることが発覚。今年に入って最終的な損失額が7千億円を超える規模に膨らむ可能性が出てきた。のれん額はいまだ算出中で、2月14日に予定されている16年度第3四半期決算発表で明らかにするとしている。

 東芝の自己資本は16年9月末時点で約3600億円、また、16年11月時点での16年度通期の見通しでは最終利益が1450億円となっていた。損失額が7千億円を超える規模となると、自己資本はすべて吹き飛び、一気に債務超過に転落する。

 そもそも東芝は一昨年の不正会計問題によって15年9月15日に東京証券取引所から「特設注意市場銘柄」に指定された。特注指定から1年半後の3月15日には監理銘柄に指定される。そして6月までに東芝の社内体制が改善したと認められなければ、上場廃止となる。

 市場の信頼を回復させようと取り組んでいる最中に巨額の損失計上が発覚したことは、原発特有の問題はあるにせよ、東芝の経営体質の問題を露わにした格好だ。綱川智社長自身が、のれん代の損失拡大の報告を受けたのは、昨年12月に入ってからとのことで、経営陣が原発事業をコントロールできていないことを示している。

東芝から離れたほうが成長が期待できるという現実

 東芝としては期末の3月末までに債務超過を回避しなければならない。そこで稼ぎ頭となっている半導体のメモリ事業の分社化を決定。3月末をメドに設立する新会社の株式の2割未満を他社に売却し、2千億円程度の資金を調達する。

 売却分を2割未満に抑えるのは、まず東芝が主導権を維持することが大前提にある。次に出資に意欲を見せている企業の中には、四日市工場で協業している米サンディスクの親会社ウエスタンデジタルをはじめ、同業の名前が挙がっている。同業他社から出資を受ける場合には独占禁止法に抵触する可能性があり、特に今回は3月までに決着する必要があるため、審査を簡略化するためにも他社の出資比率は抑えたい意向だ。

 メモリ事業の分社化は、これまでも取沙汰されたが、そのたびに流れてきた。しかし現状では、メモリ事業にとっても、このまま東芝内にとどまるよりは分社化したほうが、将来的に大きな成長が期待できる。

 主力のNANDフラッシュメモリはスマートフォンやデジタルカメラの記録媒体として成長してきたが、今後もIoTやビッグデータ向けに需要の増大が見込まれる。現在、東芝は韓国サムスン電子に次いで世界シェア2位であり、生産能力の増強とメモリ大容量化に向けた開発で、さらなる巨額投資が必要となっている。

 メモリ事業の現場からは、メモリの利益が原発事業の損失の補填に回される苛立ちが聞こえてくる。また、これまでの一連の問題で経営陣への求心力も低下している。分社化しても、東芝の保有株式が8割強のままでは、原発に固執する経営体制が変わらない限り、メモリ事業の展開も変わらないという意見がある。外部資本の比率を高めることは、外資に買いたたかれる危険性もあるが、それでも東芝にいるよりはマシとの声も出てきている。東芝から離れたほうが健全な成長ができ、将来的にはメモリ事業単体での上場も見えてくる。

 東芝のNANDフラッシュメモリは、今や日本が世界に伍して戦える数少ない半導体デバイスだ。半導体を切り離した後、東芝がどうなるかは、2月に決算と同時に発表する中期計画で方向性を示すという。しかし、東芝の経営危機が招いた結果とはいえ、東芝のメモリ事業が分社化し成長する可能性が高まることは、日本の半導体業界全体を見てもプラスに働くだろう。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る