マネジメント

20170221KANDA_P02

(さわかみ・あつと)1947年生まれ、愛知県出身。69年愛知県立大学卒業後、松下電器貿易(現パナソニック)入社。同社を退職後、スイス・ピクテ銀行日本法人代表などを経て、96年さわかみ投資顧問を設立。99年日本初の独立系投資信託会社であるさわかみ投信を設立。2013年同会長に就任。

若き日に厳しい環境に自ら身を置き、投資のプロとしてのポリシーを培った澤上篤人氏。「運用成績がすべて」と言いつつも、「企業が成長するかどうかは投資の基準として重視しない」と語る真意はどこにあるのか。今回も澤上氏の投資哲学に神田昌典氏が迫る。 構成=本誌/吉田 浩 写真=森モーリー鷹博

財務諸表を見れば会社の“意志”が見える

神田 澤上さんは若い頃にスイスですごい投資家たちと切磋琢磨したということですが、当時から長期投資に注目されていたわけですね。ところが、市場の軸は短期投資に傾いています。

澤上 大きな理由の1つが年金資金です。1970年代後半から、世界の運用ビジネスにおいて年金が大きな地位を占めるようになり、その運用にありつこうと多くの人が群がりました。マーケティングが主体となった世界の運用ビジネスでは、長期投資の話をしても、だれも耳を貸さない。それよりも短期の成績を競って運用資金を獲得しようというわけですから。

神田 しかし、年金資金の運用は、本来20年後、30年後を見すえる思想であるべきですよね。

澤上 そうです。しかし、世界の投資市場は年金資金が大きな割合を占めています。それが短期の成績を追い回しているのが、今の投資市場です。

神田 ところで、企業の財務諸表を見ただけで、その会社が成長するかどうかは見抜けるものでしょうか。

澤上 1年分だけ見ても無理です。しかし、例えば10年分を横に並べてみると分かってくるでしょうね。バランスシートの変化を見ていると、経営の意志が見えてきます。

神田 数字に経営の意志が表れるわけですね。

澤上 よく会社は経営者で変わると言われますが、私は投資の判断の際に経営者はあまり見ません。経営者は2期4年とか3期6年で変わりますが、経営はそれで終わるわけではない。長期投資は10年、20年という単位で考えます。だから企業分析の際に経営者の言葉はあまり気にしません。そもそも本当のことを言っている保証もないですから。逆に、言葉にはしていなくても、素晴らしい成果を残す経営者もいます。経営者の人柄や言葉ではなく、数字でしか見えてこないものを重視します。

投資の基準は応援したい企業かどうか

神田 澤上さんが投資先に選ぶ会社の基準は、どのようなところに置かれているのでしょうか。

澤上 驚かれるかもしれませんが、その企業が成長するかどうかはあまり重視していません。それよりも、どれだけ社会に貢献しているのかのほうが大切ですね。

神田 具体的には、どんなことでしょうか。

澤上 例えば、2000年頃の不景気の時、住友金属やクボタ、コマツ、住友重機などは、経営が悪化し、中には潰れてしまうかもしれないという人もいました。しかし、それらの会社は、オリジナリティーあふれる技術があり、実績も確かです。事業の軸もぶれていない。こんな会社が潰れるわけがない。あまり知られていませんが、新幹線の車輪はすべて住金が手掛けています。それだけの信頼と技術を持っている。そんな会社の株価が下がっていたらこれは買いです。必ず将来上がる。日本経済を支えている優秀な企業ですから、応援したいじゃないですか。日本経済を応援する手段として、投資はとても有効な手段なんです。

神田 投資家の中には、日本企業は経営者が駄目だから買わないという人もいます。

澤上 それも投資の1つのポリシーです。でも、そういう投資家が10年後、20年後に生き残っているかと言われたら分からないですよね。少なくとも私は、46年間投資の世界で生き残ってきました。世界の市場でファンドマネージャーが10人いたら、10年後に生き残っているのは1人か2人です。15年たったら、1人生き残っていたら良いほうです。

ファンドマネージャーは贅沢を知ると脱落する

20170221KANDA_P03神田 投資の世界で46年も生きていると、ご自身が世間とずれてきたと感じることはないでしょうか。

澤上 淘汰されたファンドマネージャーたちを観察していると、1つの真理が見えてきました。それは「運用をする人間は贅沢をすると駄目になる」ということです。どんなに優秀な投資家も、贅沢を覚えると脱落します。そうなる前に引退するか、贅沢をしない、あるいは引退してから贅沢をするしかありません。普通の人の感覚を失ったら、投資家は駄目になります。私はみなさんが思っているほど給料はもらっていませんし、当社の社員もごく普通のサラリーマンよりは多いかもしれませんが、飛びぬけた給与ではありません。

神田 ちなみに長期投資では、ウォーレン・バフェットという神様とも言われる人がいますが、バフェット氏と澤上さんの違いはどんなところにあるのでしょうか。

澤上 あの人は世界でも最高の投資家の1人でしょう。しかし、私との違いで言うと、彼は投資マニアで、投資して利益を出すことが最大の目的です。一方、私は利益も大事ですが、応援したい会社にしか投資しない。目的がそもそも違うんですね。

神田 澤上さんは、応援したい会社に投資しながら利益を出すノウハウを厳しい環境で身に付けられたと思いますが、それを部下に伝えるためにどのような教育を行っているのでしょうか。

澤上 なかなかトレーニングは難しくて、今社内でもファンドマネジャーと呼べるのは数人しかいません。投資して利益を上げるだけなら、安く買って高く売るだけですからマネー転がしにすぎない。それだけではなく応援したい企業を見付けるのが一番大切なことです。日本に上場企業は3600社以上ありますが、私はそのうち600社くらいしか自分の投資対象だと思っていません。そういう判断ができるかどうか。これはなかなか教育で身に付くものではありません。

神田 応援したい企業を見つけるために、どんな勉強をすれば良いのでしょうか。生半可な勉強では澤上さんのレベルには到達しないように思えます。

澤上 例えば大量に本を読む。それも問題意識を持って、テーマを決めて読み続けます。私は各種の経済誌などはあまり読みませんが、科学雑誌などには興味深く目を通します。それは問題意識を持っているからですね。

今の“不納得”こそが将来の“納得”につながる

20170221KANDA_P04神田 インターネットなどでも調べられるのでしょうか。

澤上 正直、ネットではあまり調べません。デマも多いしそもそも表層的な情報ばかり。一番いいのは図書館です。うちのリサーチャーもネットで情報収集はしますが、それだけには頼らない。目先の情報を追い回すのではなく、広く深く遠く調べるのです。

神田 それはどういう意味でしょうか。

澤上 そもそも投資というのは“将来の納得のために、今の不納得で行動する”ものです。将来の納得は価値の高まりによって、いずれ株価が上がって利益が出ることです。しかし、そのためには、今安い株を買っておく必要があります。今安いと言うことは、評価されていないということです。そんな会社の株を買うと言ったら「なにを言っているんだ」と言われます。つまり、不納得なんです。みんなが納得する企業の株価は既に高い。誰も評価しない株を買っておくからこそ、投資収益を出せるのです。これは短期投資家にはできない芸当です。

神田 多面的な思考、視点が大切という考えかたは、子どもたちへの教育にも通じると思います。そこで澤上さんが今、子どもたちに教育をするとしたら、どんな方針を取られますか。

澤上 まずは体力づくりのためのスポーツ、そして読書です。読書では、どんな本を読めということは一切言いません。自分で面白いと思う本を見付けて、そこから次に読む本を見付けていってほしいですね。

 私自身、大人になってからの話ですが、投資の世界は戦争だと思ってクラウゼビッツなど戦史を勉強しました。そこから心理学も大事だと思って心理学の本、さらには哲学書まで広がっていきました。そういうテーマを自分で見付けてほしいですね。あとは、手と頭を動かすことです。手を動かすのはそろばんが一番いい。頭の訓練は声を出して口を動かすといいですね。

 最後に、今の若い人たちには、自分がバリバリと働きたい、成長したいという気概があるなら、一度、めちゃくちゃに勉強して、めちゃくちゃに働いてみろといいたい。世界には信じられないほど勉強して、働いてトップに登りつめていこうとしている連中がいっぱいいます。そこで競争するとものすごい成長ができます。誰もがそんな環境で戦えるわけではありませんが、チャンスがあるなら、そして気概があるならやるべきです。やるべき時は全力で取り組んでほしいと思います。

神田 ご自身が厳しい環境で切磋琢磨されたからこそ出てくる言葉ですね。

(かんだ・まさのり)経営コンサルタント、作家。1964年生まれ。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済部に勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー日本代表を経て、98年、経営コンサルタントとして独立、作家デビュー。現在、ALMACREATIONS代表取締役、日本最大級の読書会「リード・フォー・アクション」の主宰など幅広く活動。

1人で飲む高級シャンパンよりみんなで飲むカップ酒に価値を感じる 澤上篤人(前編)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る