マネジメント

昨年夏、世界的なメディアである英国のパフォームグループと10年総額約2100億円の放映権契約を結んだJリーグ。新たな視聴方法と、これまでの取り組みを、今後の成長にどうつなげていくのか。村井満チェアマンに聞いた。

村井満・Jリーグチェアマンプロフィール

村井満・Jリーグチェアマン

(むらい・みつる)1959年生まれ、埼玉県出身。早稲田大学を卒業後、日本リクルートセンター(現・リクルートホールディングス)に入社。同社執行役員、リクルートエージェント(現・リクルートキャリア)社長などを歴任し、2008年よりJリーグ理事を務める。14年、第5代チェアマンに就任。

 

テクノロジー、グローバル化に対するJリーグの新たな取り組み

 

「テクノロジー」が強みを研ぎ澄ます

―― 2016年、パフォームグループと契約し、「DAZN(ダ・ゾーン)」による配信が始まりました。この流れはJリーグをどう変えますか。

村井 スポーツ観戦の醍醐味というのは、先の見えないドラマであり、ゴールやスーパープレーといった、その瞬間にしか感じ得ないライブならではの迫力にあります。これまではテレビのあるところに行かなければ観戦することができませんでした。ですから、仕事などで見逃すことも多かったと思います。また、後で見ようと思っても勝敗の結果が分かってしまうと興醒めですよね。

 しかし、DAZNのサービスであればネットの環境さえ整えば、いつでも、どこでも見ることができるのです。

 “その瞬間を目撃したい”というライブエンターテインメントのニーズに技術が応えられたことは、Jリーグだけでなく、スポーツ界が大きく発展するターニングポイントになったのではないでしょうか。

―― テクノロジーはほかの課題も解決しましたか。

村井 2017年のJリーグは、J1からJ3までで1千を超える試合があります。今年からすべての試合を生中継できるようになりました。これも、テレビのようにチャンネル制限があればできません。

 これまで、生中継を行うためにキックオフ時刻をずらしたり、土日に分けて開催したりといった興行側の事情を優先させねばなりませんでしたが、今後は、以前よりもその地域の事情に合わせた試合が組めるようになります。これも大きな進歩ですね。

―― 制作もJリーグで行うそうですね。

村井 日本はまだまだサッカー専用スタジアムが整備されているわけではありません。陸上競技場などは観客席とピッチの距離も遠かったりするわけです。ですから、ゴールシーンはもちろん、選手や監督の表情など人間的な部分も見せたい、という思いがあります。

 また、日本のサッカーというのは、世界でもテクニックが高いと定評があります。ボールコントロールといった高度なスキルをズームアップやスーパースローを駆使して再現したいですね。

 そのために、J1では標準でもカメラを9台。その内、スーパースローのカメラが1台ありますから、サッカー中継の世界標準、もしくはそれ以上の映像クオリティーをお見せできるはずです。

地域クラブの先導で進む「グローバル化」

―― アジア戦略も進めていますが、日本サッカー界にどんな影響が出ていますか。

村井 現在、東南アジアを中心に10カ国のリーグとパートナーシップを交わしています。Jリーグはスタートしてから四半世紀がたち、その間5大会連続でワールドカップに出場し、オリンピックは6大会連続。プロリーグの成長が代表チームの強化につながったモデルケースになっていますから、選手の育成とか、経営、マネジメントのノウハウを提供しています。

 一方、相手のリーグには、日本人選手が活躍する機会を与えてください、選手交流を行いましょうといった話をしています。

 もっと踏み込んでいくと、リーグ間提携は、クラブ間交流につながります。例えば、あるクラブがタイのチームと親善試合を行う時に、タイに進出したい日系企業を一緒に連れていって、相手チームのオーナーを紹介するとします。クラブのオーナーには経済界の大物も少なくありません。うまく連携ができればタイの市場に参入することができるわけです。その見返りとして、クラブのスポンサードを日系企業がしてくれる。

 水戸ホーリーホックなどは、ベトナムのメッシといわれるグエン・コンフォン選手を獲得したことによって、茨城空港にチャーター便が来るまでになるなど、地域経済にまで良い影響を与えています。分かりやすい例では、中田英寿選手がイタリアに移籍したことで小さな町であるペルージャが日本で有名な街になりました。日本にいれば気付きませんが、似たような状況が、ベトナムやタイで起こっているというわけです。

 今季はタイのスーパースター、チャナティップ・ソングラシン選手が7月に北海道コンサドーレ札幌に加入することが予定されていますから、札幌がタイで大きく取り上げられるのではないでしょうか。

―― 一方、Jリーグの国内ファンが高齢化しているといった意見もありますが。

村井 日本全体が高齢化しているので、ある意味ファン、サポーターが高齢化している現実もあるのですが、逆を言えば、お年寄りがスタジアムに来られるというのは、Jリーグのひとつの大きな特長です。

 海外ではスタジアムにお年寄りの姿は非常に少ない。子どもを連れて、孫を連れて一緒に観戦できるというのは強みであって、クラブによってはキッズパスを発行して、子どもにできるだけお年寄りを連れてきてもらおうといった取り組みを行っているくらいで、むしろ喜ばしいことだと思っています。

 

Jリーグと地域・産業振興との関わり

 

スタジアムを街を象徴する建物に

20170307MURAI_P02―― 市立吹田サッカースタジアムが建設費の多くを寄付で賄うなど、スタジアムにも新たな風が吹いていますね。

村井 以前、香港をベースにアジアでビジネスを行っていたのですが、その時、利益の再配分の在り方が、随分国によって違うのだなと感じていました。

 例えば、欧米では高額所得者が大学講座や、施設の建設に寄付を行うことで再配分が行われています。一方、中華圏では老板(ラオパン・親方、社長の意味)が部下の面倒を見るというのが基本です。春節にはレッドポケット(紅包)といってお年玉を渡します。私も100人くらいの部下にあげた記憶があります。これも、再配分のひとつの形なのです。

 翻って日本は、累進課税で税金が利益の再配分の役割を果たしているのですが、吹田のスタジアムあたりから変化してきた気がします。totoの助成金もありましたが、それ以外は民間。多くは企業や個人の寄付で建設費を賄ったんです。

 自分たちがお金を出すわけですから、ホーム側は応援しやすく、アウェー側は仕切りがあって一体感が生まれないような構造です。ロッカールームもホームのガンバ大阪とアウェーのチームでは雲泥の差があります。まさに、自分たちのホームスタジアムといったものが生まれてきた。これは大きな変化ですね。

―― 市民が関わればクラブへの思い入れも強くなりますね。

村井 サッカーは数千人規模の人数が隔週で集まってくる稀有なコンテンツです。その劇場であるスタジアムが街中にあるメリットは、防災上でも大きく、市立吹田サッカースタジアムでいえば、15分のハーフタイムに4万人がトイレに行って、ビールを買って戻って来られる導線が確保されています。

 これは、防災拠点の視点で考えればものすごく性能が高い。避難所暮らしで一番困ったのが女性のトイレだったそうです。これからのサッカースタジアムは、そういった問題も解決できるわけです。人を呼び寄せ、防災拠点でもある。街を象徴する建物になり得ますね。

サッカーを手段に地域課題を解決

―― 今後、成長する上で人材の重要性について繰り返し訴えられています。

村井 生身の人間が演じるスポーツではあるのですが、その裏側では、海外クラブとの交渉においてはグローバル人材が、露出を高めるにはテクノロジーに精通した人材が、ほかにも地域創生、ファイナンス、都市開発などあらゆる人材が必要です。スポーツやフットボールの世界に閉じてしまうと、スポーツを産業として発展させていくことは困難です。

 産業というのは人材が集まり、そこに商品・サービスが誕生し、そして提供することで社会を豊かにする循環をつくることです。これはサッカーだけの話ではなく、スポーツ界全体が共通で抱えている課題なのです。産業の成功は優秀なタレントを集められるかに懸かっているのです。

―― 最後に、これからのJリーグ像については。

村井 これまで地域密着でやってきた25年でしたが、次の四半世紀は先ほどのインバウンドの動きと結び付けるような産業振興ができるのではないかと期待しています。サッカーを行う団体ではなく、サッカーを手段として日本の地域社会が抱えている課題を54クラブと一緒になって解決していきたい、そう考えています。

 FIFAの加盟国は、国連加盟国よりも多いのですからいろんなことができると思いますよ。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る