マネジメント

 12月第2週の日曜日に行われる「JALホノルルマラソン」。昨年、44回目を迎えた日本でもなじみのある大会には、参加約3万人の3分の1以上を日本からのランナーが占める。大会を盛り上げるボランティア、何より温暖なハワイの気候は、ストイックなマラソンのイメージを一変させる人気のスポーツイベントだ。大会の特別協賛を1985年から務めるのが日本航空。協賛を32年間続けられる理由は何か、また、サポートは何を生み出したのか。企業とスポーツイベントの関係について、日本航空の大西賢会長に聞いた。

取材協力者:大西賢・日本航空(JAL)会長プロフィール

大西賢氏

(おおにし・まさる)1955年、大阪府出身。東京大学工学部を卒業後、78年、日本航空入社。整備畑を歩む。2009年、日本エアコミューター社長を経て、10年2月に社長に就任。12年より会長。

 

ホノルルマラソンの魅力はどこにあるのか

 

―― 昨年、スターターを務められ、ご自身も走られたホノルルマラソンですが、その魅力は。

大西 大きく3つあると思いますが、まずはハワイの気候でしょう。マラソンはタイムを競う競技ですから冬のほうが良いタイムが出やすい。

 ですが、同時に冬だと何かアクシデントがあって止まってしまえば、あっという間にランナーの体温は奪われてしまいます。マラソンにアクシデントはつきものです。でも、ハワイの温暖でカラッとした気候であれば自分のペースで快適に走れるのです。それが、もう一つの魅力「時間制限がない」というところにもつながります。

 時間制限がないこともあって、時間に追われることもなく、年齢制限も7歳から参加が可能です。家族で励まし合いながらゴールを目指す姿もホノルルマラソンならではの良い光景です。

 そして何より、ボランティアや地元の方の圧倒的なホスピタリティーが魅力です。応援する方も楽しもうと思っていますから、掛け声もいわゆる「頑張れ」ではないんです。「グッドジョブ!」とか、「エンジョイ!」と、とにかく明るく元気。疲れて歩いている時に、「がんばれ」って言われるのは、ありがたい半面「走れ!」って言われているようでキツイ言葉ですからね(笑)。

 走り終わってからも、みんな公園で寝転がって余韻を楽しんでいます。こんなところがホノルルマラソンの魅力ですね。

 

JALがホノルルマラソンの協賛を始めた理由

 

―― 協賛を始めて32年目になりますが、きっかけは。

大西 私たちが協賛する前の航空会社のスポンサードは、米国の航空会社が行っていました。ところが、太平洋路線から就航撤退したことで協賛の中止を決定。その時に、ホノルルマラソン事務局からお声掛けいただいたのが始まりです。

 当時、既に2千人の日本人が参加されており、ランニングブームで愛好家が増加していました。さらに、旅のスタイルも当時は物見遊山が中心でしたが、体験型といった新たな旅の提案ができることも、決定の大きな後押しになりました。そして何より、12月の初旬という航空需要の少ない時期に集客力が高まることは大きな魅力でした。

―― 閑散期の起爆剤になっていると。

大西 そうです。それまではもともと需要の高い繁忙期に、多くのお客さまにご利用いただくという発想でした。しかし、繁忙期だけ機材を大きくできればいいのでしょうが、それもなかなか難しい。それで、この頃から、需要の谷間をどう埋めるか、ピーク&バレーをいかに平準化していくかを考え始めたのです。今は既に需要があるから飛ばすといった思考から脱却していて、需要を生み出すためにはどうするか、といった思考で動いています。

 その一例として、2012年にスタートし、当社も14年から協賛している「ホノルルハーフマラソン・ハパルア」があります。開催される4月は、春休みとゴールデンウイークの狭間で需要の谷間ですから需要の掘り起こしにつながります。同時に、ブランディングの強化にもつながっているのです。

 と、いうのも面白いことに、この大会は米国の方に人気が高いのです。日本でこそ多くの方にJALの名を知っていただいていますが、世界に出れば知名度はまだまだです。そういった意味でも、ハパルアへの協賛は、新しい市場を開拓する狙いもあるのです。

 

経営破綻した時も協賛を続けたJAL

 

―― 破綻の時など協賛中止の声は上がりませんでしたか。

大西 もちろん破綻した時には協賛に対して懐疑的な見方はありました。ですが先ほども申しましたように、需要の谷間に収益を上げる事業ですし、やめることは逆に収入減につながります。またこれまで地元と一緒に取り組んできましたので、やめるといった結論には至りませんでした。

―― 協賛を長く継続する上で大事なことは。

大西 企業がスポーツとスポンサーシップといったことで関わるのであれば、自分たちの事業に利益やブランド力向上といった良い影響がなければなりません。単純に社会貢献だけでは長く続けることは難しいです。

 ですから、そういった仕掛けをいかに作っていくかが極めて大事になります。そして、ホノルルマラソンのように、複数の企業が協賛する場合であれば、同じテーブルに着き、次のステップを一緒に考えて行く。既に事務局も含めたホノルルマラソンの関係者は一堂に会して、今度はこういった取り組みをやっていこうと侃々諤々やっているんです。これからは、もはや単独で何かを生み出すのは難しい時代になってきました。

 これはビジネスだけでなく、地方創生に関しても同じですね。ただ、それも明確に自社の利益につながっているからこそ、続けられる話なのです。

 

ホノルルマラソンの新たな取り組み

 

―― 侃々諤々から、何か新たな取り組みは生まれましたか。

大西 今回、ホノルルマラソン協会が、カラカウアメリーマイルという、目抜き通りのカラカウア通りを早朝封鎖して、誰でも参加できるマイル(1.6キロ)レースを始めました。

 マラソンはもちろん、10キロレースでも参加するにはハードルが高い。でも、1マイルであれば気軽に参加できる。このように、新たな取り組みで変化しながら裾野を広げているのです。

 目抜き通りを着ぐるみのティラノサウルスがヨタヨタと子どもたちを追い掛けまわし、おばあちゃんと孫が話しながら参加する。しかもゴールすればみんなが大きなメダルをかけてもらえて達成感から満面の笑顔になる。それを見て、私も今年の走り方を「頑張る」から「楽しむ」に変えたのです。

―― 今年、走り方を変えていかがでしたか。また、ホノルルに限らずマラソンの魅力とは。

大西 自身6回目の挑戦でしたが、「楽しむ」走りに変えたことで、これまでは苦痛でしかなかった後半に(笑)、風景を堪能する余裕が生まれ、ボランティアの応援を楽しみながら走れました。マラソンは、私にとって自分の身体の調子を知るバロメーターです。42.195キロをどのように走りきることができるのか、また、そのためにどれだけ普段から準備できるのか、今ではホノルルマラソンに照準を合わせて体力づくりをしています。

 今年は、45周年の節目を迎えます。ランナーとしての準備はもちろん、参加される方に楽しんでもらう準備をしっかりと進めていきたいですね。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る