政治・経済

カジノ解禁論議はアベノミクスで加速

20170321カジノ総論 昨年12月15日午前1時。IR推進法案(一部修正案)は衆院本会議で賛成多数で可決された。この瞬間、IR推進法が成立した。これにより日本にカジノができることが既定路線となった。

 IR推進法の正式名称は、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」。特定複合観光施設がIRのことで、一般的には統合型リゾート(Integrated Resort)と呼ばれている。単にホテルやレストラン、ショッピングセンターのある施設ではなく、国際会議場や国際展示場、劇場、アミューズメントパークなどが一体となった複合型施設だ。観光客だけが利用するのではなく、MICE(ミーティング=研修、インセンティブ=招待旅行、カンファレンス=国際会議、エキシビジョン=展示会)などにも利用できる。つまりIRは、ビジネスからレジャーまで、あらゆる用途に対応するため、多くの観光客を呼び込むことができる。

 そしてIRに不可欠なのがカジノ施設だ。IRの建設には最低でも1千億円、大型のものなら5千億円以上の建設費が必要だ。償却費も莫大で、また多くの人が働くためランニングコストも膨れ上がる。これをホテルや会議場などの収益で賄うのは不可能だ。そこでカジノである。後述するシンガポールのマリーナベイサンズは総工費5千億円の巨大IRだが、施設の中で、カジノの占める面積はわずか3%にすぎない。ところがカジノから上がる収益は、施設全体の収益の8割を占める。カジノがあって初めて巨額の投資に見合う利益を上げることができる。

 競馬や競艇などごく一部を除き、日本ではギャンブルが禁止されている。先日も芸能人が闇カジノで遊んでいたことが報じられ謹慎処分となるなど、ギャンブルに対する世間の目は厳しい。それでも、1990年代半ばから、カジノは文化であるとの理由で解禁運動が広まり始める。99年には石原慎太郎氏が都知事に当選、石原知事が「お台場カジノ構想」を打ち上げたことで、カジノ論議が加速。2002年には現在のIR議連(細田博之会長)の源流となるカジノ議連が誕生した。

 しかし現在のカジノ解禁への動きはアベノミクス抜きではあり得なかった。

 12年12月、総選挙で自民党が大勝し安倍政権が誕生。翌年には30年にインバウンド3千万人という目標を設定した。アベノミクスの成長戦略の一翼を、観光産業に担ってもらおうというわけだ。12年の訪日観光客数はわずか835万人。目標達成にはこれを3倍以上に増やさなければならない。そのためには従来手法の延長ではないインバウンド誘致が必要だとの考えからカジノ容認論が広がっていく。

 安倍首相自身も13年の国会答弁で「シンガポール、あるいはマカオがカジノによって世界からたくさんの人たちを呼び込むことに成功している。私自身は(カジノ解禁は)かなりメリットもあると思っている」と前向きの姿勢を示した。これで方向性は定まった。そこから多少時間はかかったが、IR推進法が成立した。年内にも提出されるIR実施法案が成立すれば、いよいよIR施設内のカジノが合法化される。

シンガポールのIRをお手本に

 IRにもいくつか種類がある。誰もが知っているのがアメリカのラスベガスだ。砂漠の中の都市に大規模IRが競うように立ち並び、建物自体がテーマパークとなっている。世界中から観光客が来るばかりか、年初恒例のエレクトロニクスの世界最大の見本市「CES」のようなイベントも数多く開かれている。ラスベガスを訪れる観光客は年間4千万人にも達する。

 カジノの売り上げでは世界一のマカオもラスベガス型のIRだ。ポルトガルから中国に返還されて以降、外資に門戸を開いたところ、新たに10以上のホテルが誕生、多くの中国人で賑わうようになった。

 日本が目指すIRは、このような1つの街に数多くのIRがある姿ではない。1つの自治体に1つ、全国で10カ所のIRをつくろうというものだ。モデルとなったのはシンガポールだ。

 シンガポールも日本同様、10年前までカジノは禁じられていた。しかし08年に解禁を決断、10年に2カ所のIRが誕生した。この2つは少し距離があり、ソフトバンクのCMにも使われて有名になったマリーナベイサンズは都心型、セントーサ島でユニバーサルスタジオに隣接するリゾートワールドセントーサがリゾート型とすみ分けている。

 カジノ解禁の効果は絶大だった。09年に968万人だった海外からの観光客数は、10年には1160万人と20%も伸び、14年には1550万人となった。日本もIRを解禁することで、観光客を爆発的に伸ばすことができると考えたところで不思議はない。

 実際には円安の進行と中国の経済成長のお陰で、日本のインバウンドは劇的に増えていく。13年には初めて1千万人を超え、15年には2千万目前に迫り、昨年は2400万人に達した。それに合わせて政府は目標値を引き上げており、現在の目標は20年4千万人、30年6千万人だ。6千万人を達成するには、毎年5%ずつ増やしていかなければならない。それを10年以上続けるのは容易ではない。特に20年の東京オリンピック後もインバウンドを増やし続けるには強力な武器が必要で、それをカジノに託そうというのである。

IRの経済効果は1カ所6千億円

 カジノを目的に旅行先を決める観光客はそれほど多くはない。しかし、2つの候補で迷ったとき、カジノがあるから選ぶということはある。カジノは観光地に付加価値を与えてくれる。MICEなどのビジネス用途でも同様で、昼間はビジネスで動き回っても、カジノでくつろぐことができる。負ければもっと熱くなるかもしれないが、いくつもの国、いくつものMICE施設が誘致合戦を繰り広げている中では、カジノの存在が有利に働くことも多い。

 観光客が増えれば落とすお金も増える。リピーターが増え、東京、京都以外の観光地を訪れるようになれば、地方も潤う。地方創生の観点からも、インバウンドの増加は不可欠だ。しかもこれにカジノで使うお金が加われば、その効果はさらに高まる。

 雇用を生む力も強い。大型IRでは数万人の人がそこで働く。地方都市にできる総工費1千億円程度のIRでも1千人規模だ。地方の最大の悩みが雇用のないこと。日本全体でみると人手不足だが、地方では仕事がない。そのミスマッチにより地方の人材流出は加速し、地方経済は一段と縮小する。IRの誕生は、その負の連鎖を断ち切る可能性を秘めている。しかもこれを国や自治体が財政負担することなしに実現できる。

 以前、経団連が行った試算では、IR1カ所で、需要創出効果が年間3千億円、波及効果まで含めた経済効果は6千億円にまで達するという。単純計算で10カ所なら6兆円だ。しかもIRの場合は一過性ではなく、継続的に経済効果が出続ける。カジノが解禁され、IRが各地に誕生することで、日本経済は力強く再生する。

 

【カジノ解禁】関連記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る