経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

年間6兆円を生むカジノの経済効果とは

カジノ解禁論議はアベノミクスで加速

カジノ 昨年12月15日午前1時。IR推進法案(一部修正案)は衆院本会議で賛成多数で可決された。この瞬間、IR推進法が成立した。これにより日本にカジノができることが既定路線となった。

IR推進法の正式名称は、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」。特定複合観光施設がIRのことで、一般的には統合型リゾート(Integrated Resort)と呼ばれている。単にホテルやレストラン、ショッピングセンターのある施設ではなく、国際会議場や国際展示場、劇場、アミューズメントパークなどが一体となった複合型施設だ。観光客だけが利用するのではなく、MICE(ミーティング=研修、インセンティブ=招待旅行、カンファレンス=国際会議、エキシビジョン=展示会)などにも利用できる。つまりIRは、ビジネスからレジャーまで、あらゆる用途に対応するため、多くの観光客を呼び込むことができる。

そしてIRに不可欠なのがカジノ施設だ。IRの建設には最低でも1千億円、大型のものなら5千億円以上の建設費が必要だ。償却費も莫大で、また多くの人が働くためランニングコストも膨れ上がる。これをホテルや会議場などの収益で賄うのは不可能だ。そこでカジノである。後述するシンガポールのマリーナベイサンズは総工費5千億円の巨大IRだが、施設の中で、カジノの占める面積はわずか3%にすぎない。ところがカジノから上がる収益は、施設全体の収益の8割を占める。カジノがあって初めて巨額の投資に見合う利益を上げることができる。

競馬や競艇などごく一部を除き、日本ではギャンブルが禁止されている。先日も芸能人が闇カジノで遊んでいたことが報じられ謹慎処分となるなど、ギャンブルに対する世間の目は厳しい。それでも、1990年代半ばから、カジノは文化であるとの理由で解禁運動が広まり始める。99年には石原慎太郎氏が都知事に当選、石原知事が「お台場カジノ構想」を打ち上げたことで、カジノ論議が加速。2002年には現在のIR議連(細田博之会長)の源流となるカジノ議連が誕生した。

しかし現在のカジノ解禁への動きはアベノミクス抜きではあり得なかった。

12年12月、総選挙で自民党が大勝し安倍政権が誕生。翌年には30年にインバウンド3千万人という目標を設定した。アベノミクスの成長戦略の一翼を、観光産業に担ってもらおうというわけだ。12年の訪日観光客数はわずか835万人。目標達成にはこれを3倍以上に増やさなければならない。そのためには従来手法の延長ではないインバウンド誘致が必要だとの考えからカジノ容認論が広がっていく。

安倍首相自身も13年の国会答弁で「シンガポール、あるいはマカオがカジノによって世界からたくさんの人たちを呼び込むことに成功している。私自身は(カジノ解禁は)かなりメリットもあると思っている」と前向きの姿勢を示した。これで方向性は定まった。そこから多少時間はかかったが、IR推進法が成立した。年内にも提出されるIR実施法案が成立すれば、いよいよIR施設内のカジノが合法化される。

シンガポールのIRをお手本に

IRにもいくつか種類がある。誰もが知っているのがアメリカのラスベガスだ。砂漠の中の都市に大規模IRが競うように立ち並び、建物自体がテーマパークとなっている。世界中から観光客が来るばかりか、年初恒例のエレクトロニクスの世界最大の見本市「CES」のようなイベントも数多く開かれている。ラスベガスを訪れる観光客は年間4千万人にも達する。

カジノの売り上げでは世界一のマカオもラスベガス型のIRだ。ポルトガルから中国に返還されて以降、外資に門戸を開いたところ、新たに10以上のホテルが誕生、多くの中国人で賑わうようになった。

日本が目指すIRは、このような1つの街に数多くのIRがある姿ではない。1つの自治体に1つ、全国で10カ所のIRをつくろうというものだ。モデルとなったのはシンガポールだ。

シンガポールも日本同様、10年前までカジノは禁じられていた。しかし08年に解禁を決断、10年に2カ所のIRが誕生した。この2つは少し距離があり、ソフトバンクのCMにも使われて有名になったマリーナベイサンズは都心型、セントーサ島でユニバーサルスタジオに隣接するリゾートワールドセントーサがリゾート型とすみ分けている。

カジノ解禁の効果は絶大だった。09年に968万人だった海外からの観光客数は、10年には1160万人と20%も伸び、14年には1550万人となった。日本もIRを解禁することで、観光客を爆発的に伸ばすことができると考えたところで不思議はない。

実際には円安の進行と中国の経済成長のお陰で、日本のインバウンドは劇的に増えていく。13年には初めて1千万人を超え、15年には2千万目前に迫り、昨年は2400万人に達した。それに合わせて政府は目標値を引き上げており、現在の目標は20年4千万人、30年6千万人だ。6千万人を達成するには、毎年5%ずつ増やしていかなければならない。それを10年以上続けるのは容易ではない。特に20年の東京オリンピック後もインバウンドを増やし続けるには強力な武器が必要で、それをカジノに託そうというのである。

IRの経済効果は1カ所6千億円

カジノを目的に旅行先を決める観光客はそれほど多くはない。しかし、2つの候補で迷ったとき、カジノがあるから選ぶということはある。カジノは観光地に付加価値を与えてくれる。MICEなどのビジネス用途でも同様で、昼間はビジネスで動き回っても、カジノでくつろぐことができる。負ければもっと熱くなるかもしれないが、いくつもの国、いくつものMICE施設が誘致合戦を繰り広げている中では、カジノの存在が有利に働くことも多い。

観光客が増えれば落とすお金も増える。リピーターが増え、東京、京都以外の観光地を訪れるようになれば、地方も潤う。地方創生の観点からも、インバウンドの増加は不可欠だ。しかもこれにカジノで使うお金が加われば、その効果はさらに高まる。

雇用を生む力も強い。大型IRでは数万人の人がそこで働く。地方都市にできる総工費1千億円程度のIRでも1千人規模だ。地方の最大の悩みが雇用のないこと。日本全体でみると人手不足だが、地方では仕事がない。そのミスマッチにより地方の人材流出は加速し、地方経済は一段と縮小する。IRの誕生は、その負の連鎖を断ち切る可能性を秘めている。しかもこれを国や自治体が財政負担することなしに実現できる。

以前、経団連が行った試算では、IR1カ所で、需要創出効果が年間3千億円、波及効果まで含めた経済効果は6千億円にまで達するという。単純計算で10カ所なら6兆円だ。しかもIRの場合は一過性ではなく、継続的に経済効果が出続ける。カジノが解禁され、IRが各地に誕生することで、日本経済は力強く再生する。

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