マネジメント

富士重工業は4月1日、社名をSUBARU(スバル)に変更する。富士重工業の前身である中島飛行機が誕生して今年でちょうど100年(当時の社名は飛行機研究所)という節目の年の大きな決断だ。その狙いを吉永泰之社長に聞いた。聞き手=本誌/関 慎夫 写真=幸田 森

社名を変える前にブランド力を強化

20170418SUBARU_P01

(よしなが・やすゆき)1954年生まれ。77年成蹊大学経済学部を卒業し富士重工業入社。国内営業畑を歩き、2005年執行役員戦略本部副本部長兼経営企画部長、06年執行役員戦略本部長、07年常務執行役員スバル国内営業本部長、09年取締役兼専務執行役員スバル国内営業本部長を経て、11年社長に就任した。

―― 4月1日に富士重工業からスバルへと社名が変わります。準備が大変なのではないですか。

吉永 それほどでもないですよ。社名変更で大変なのは、販売店の看板を全部つけ替えるといった作業ですが、当社の場合、既にお店の看板はすべてスバルです。販売会社にしても、東京スバル、大阪スバルという社名ですから変える必要はありません。せいぜい本社や工場の看板を替えるくらいのもので、よその社名変更に比べたら、工数ははるかに小さい。

―― 社名変更を発表したのは昨年5月です。あらためて、その狙いを教えてください。

吉永 2014年に発表した「際立とう2020」という中期経営ビジョンでは「スバルブランドを磨く」「強い事業構造を創る」の2つを掲げています。これを策定した時から、社名をスバルに変えることは私の頭の中にはありました。私たちは規模ではなく、個性で勝負する会社です。そのためにはスバルというブランドをいかに魅力的にするかが重要です。社名変更の目的もそこにあります。勘違いしてはいけないのは、会社の名前を変えればブランドの魅力が増すなんてことは絶対にないということ。スバルのクルマの魅力を高めるというのがまずあって、初めて社名変更がある。その順番を間違えると大変なことになってしまいます。

 しかも今年は当社の前身の中島飛行機が誕生してちょうど100年です。社名を変えるならこのタイミングで、と考えていました。

―― 業績も絶好調。17年3月期も最高益を更新する見通しですし、昨年の世界販売台数はついに100万台を突破しました。これから先は何を目指しますか。

吉永 質の高い会社を目指します。全世界で自動車は年間9千万台売れていて、大きなプレーヤーは年間1千万台を販売します。われわれは成長してきたとはいえ100万台。世界市場の約1%にすぎません。そんな会社が数を目指してはいけない。200万台、300万台を目指すと言った瞬間に当社のビジネスモデルが壊れてしまいます。その数字を達成するためには、大手と同じように、新興国に出ていったり、コンパクトカーをつくったりしなければならなくなる。そんなことはやってはいけないし、やろうとしたら私が認めません。ですから中期経営ビジョンでも120万台+αと刻んでいます。

 われわれが“普通のクルマ”をつくったら、スバルがスバルでなくなります。「アウトバック」や、「フォレスター」など、個性的でお客さまにとって使い勝手のいいクルマを、考えて考えて考え抜いて提供する。だからこそスバルが好きな人は圧倒的に支持してくださる。それが私たちの生きる道です。

―― 人気があり過ぎて、今スバルのクルマを買おうとすると3カ月待ちとなっています。昨年、米国の工場の生産能力を増強しましたが、それでも追いつきません。

吉永 これまで年間20万台だったアメリカの工場の生産能力を40万台に倍増しました。これで納車待ちは短くなると思っていましたが、昨年暮れに出した「インプレッサ」が日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したこともあり、よく売れています。それでまたクルマが足りなくなってしまった。でも米国の工場がフル操業に入るのはこれからですから、もう少し立てば、納車待ちの時間も短縮できると思います。

顧客に近づいたことが成功の最大の要因

―― ここまでくると既に一過性のブームではないですね。

吉永 日本でスバルの人気に火がついたのは、10年にアイサイト(自動ブレーキシステム)を従来の20万円から10万円に下げると同時に、安全安心を前面に押し出してからです。“スバル=安全安心”というイメージが随分浸透してきています。それが持続的な人気につながっています。

―― 圧倒的に支持されるクルマと言いましたが、開発陣にはどんな指示を出していますか。

吉永 昔も今も言っているのは、お客さまが望んでいるものが何かを考え続けなければだめ、ということです。当社は技術オリエンテッドな会社で、技術陣は優秀です。だからこそ、自分たちのつくりたいものを唯我独尊的につくる癖がある。これは気を付けなければいけません。

 米国で現行のアウトバックを出した時、現地のディーラーさんから、「よくここまで使っているお客さまの気持ちを理解してフルモデルチェンジしましたね」と言われました。フルモデルチェンジというと外観を大きく変えて「新しくなりました」というやり方もあるのに、「使い勝手をよく考えてある」というのです。

 そこで開発責任者に聞いたら、彼は米国でアウトバックに乗っている、30人ほどのお客さまのご自宅に行って、どこを改良したらもっと使いやすくなるか、聞いて歩いている。こういう技術屋がいて、それを分かってくれるディーラーさんやお客さまがいる。うれしかったですね。

 ですからここ数年のスバルの成功は、お客さまにどんどん近づいていって、ご要望を真面目に一生懸命に伺ったことによるものだと思います。売れたからといってそれを忘れて、自分たちのつくりたいクルマをつくりだしたらまずいと思っています。

 セールスにしても、最近入社した人たちは、クルマは3カ月待ってもらうのが当たり前になっています。黙っていてもお客さまがくる。ですから営業力だってものすごく弱くなっている。これは大きな課題です。

―― 吉永社長が現在、仕事の中で今一番重きをおいているのはなんですか。

吉永 自分の考える時間の9割は、2025年に起きるであろうことへの備えをどういう順番でどうやっていくかに使っています。自動運転や電動化、環境規制、AI、IoTなど、今は過去に例のない変革期です。その中でスバルという会社が個性を維持しながらどう生きていくのか。そこに向かってどういう手を打っていくのか。

 われわれは昨年5月に、18年にプラグインハイブリッド、21年に電気自動車を出すと発表しました。でも電気自動車といっても、やはりお客さまに「あ、スバルはこうきたか」というものがなければいけない。そういうコンセプトをつくるのは自分の仕事だと思っています。そのためには社内の組織はどうあるべきなのかとか、そんなことを考えています。

キープコンセプトをどう打破するか

20170418SUBARU_P02―― 自動運転がこれから普及していきます。走りの良さはスバルの魅力のひとつですが、自動運転時代になれば、走りの良さはあまり意味を持ちません。どう対応していきますか。

吉永 A地点からB地点までボタンを押せば移動できますという、いわゆる無人運転に関しては、われわれはやりません。そこは明確にしています。その代わり、アイサイトのようにドライバーの負荷を軽減する努力は一生懸命やっています。私たちのお客さまは、運転することが好きで「趣味はドライブです」と言える人たちです。その人たちがドライブを楽しんで、帰りに疲れてもクルマが支援してくれる。そういうクルマをつくり続けます。ですからハンドルがないクルマは考えていません。

 ボタン一つで移動する自動運転車が普及したとき、一番影響を受けるのはコモディティのクルマをつくっている会社です。その点われわれのような趣味性の強いクルマをつくっているほうが、時間的な余裕があると思っています。恐らく自動運転になって、自分で運転しなくていいとなったら、そういうクルマを選ぶ人のほうが多いでしょう。でも100%ではなくて、多くても6割だと考えています。自分で運転するのも楽しいという人も何割かいる。もともとわれわれは、市場のすべての人ではなく、少数の人を相手に商売をしているわけですから、そこに生き残るカギがあると考えています。

―― それ以外の課題は。

吉永 私はものすごく恵まれています。社長に就任以来、業績は大きく伸び、本社も新しくなり、群馬製作所のオフィスも建て替えています。こういう日がずっと続くことを願っています。

 だからこそ、守りに入っちゃだめと社内では言っています。今がいいと、現状維持をしたくなる。みんなが満足するのが怖いんです。特に怖いのは商品です。最近出したクルマはすべてよく売れています。こうなると開発陣は、キープコンセプトしたくなる。でもスバルが今のままで、他社が成長すれば相対的には負けてしまう。怖くても攻め続けることが大切です。そのための社名変更でもあるわけです。スバルに変わるのはあくまでもスタートなんです。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

自動車産業・産業機械の世界的サプライヤー、シェフラーグループの日本法人で2006年イナベアリングとエフ・エー・ジー・ジャパンが合併して設立。国内4拠点で自動車エンジン、トランスミッション、シャーシなど精密部品、産業機械事業を展開する。文=榎本正義四元伸三・シェフラージャパン代表取締役・マネージング…

シェフラージャパン代表取締役 マネージング・ディレクター 四元伸三氏

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

【特集】2019年注目企業30

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

高校中退、ITスキルなしの17歳の青年が立ち上げた会社が、わずか2年で利用企業約500社、ユーザー約6万人のアプリを運営するまでに成長している。「世の中を変えたい」という思いを原動力に突っ走る谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)谷口怜央氏プロフィール…

Wakrak(ワクラク)社長 谷口怜央氏

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年7月号
[特集] 素材の底力〜世界をリードする素材産業〜
  • ・素材のイノベーションが日本経済をリードする
  • ・化学工場 企業ごとの特色も鮮明に存在感増す化学素材
  • ・電気自動車普及が始まる車載バッテリーの覇権戦争
  • ・炭素繊維 市場を開拓してきた日本が技術的優位を保ち続ける法
  • ・「鉄は国家なり」の時代を経て問われる「日の丸製鉄」の競争力
  • ・経産省 日本の素材産業が世界をリードするための3つの課題
  • ・就職人気は下位に低迷でも焦らない素材メーカー
[Special Interview]

 日覺昭廣(東レ社長)

 「長期的視点で開発するのが素材企業のDNA」

[NEWS REPORT]

◆営業利益率10%突破 ソニーならではの「儲けの構造」

◆日本初の民間ロケットが宇宙空間に到達

◆携帯参入まであと4カ月 国内4番手「楽天」の勝算

◆日産・ルノーが直面する「経営統合問題」長期化の落とし穴

[Interview]

 「君は生き延びることができるか」──ガンダム世代が歩んだ40年

 常見陽平(評論家・労働社会学者)

ページ上部へ戻る