マネジメント

第6回イラスト (1)

障がい者が、企業に頼られるITエキスパートに

 人材が足りない。特に、現在、集客の鍵を握っているWEBのクリエイディブ系の人材が、本当に足りない――。

 多くの企業が直面する人材不足の中、障がい者の能力を引き出すことで、高度な仕事を受注している組織がある。それが、大阪市中央区南船場に拠点を構える、障がい者就労支援A型事業所、ビジネス・ライフデザインだ。

 一般的に、障がい者に割り振られるクリエイティブ系の仕事と言えば、名刺印刷や文字入力などの軽作業がほとんどだ。抽象的な概念を用いるデザイナー、コピーライター、イラストレーター、グラフィックデザイナーといった仕事は、高度な専門教育を受けた者にすら、簡単な仕事ではない。しかし、ビジネス・ライフデザインでは、そんな高度な仕事に、障がい者が夢中になって取り組んでいるのだ。

 実は、私の会社のクライアント向けのメールマガジンの執筆の一部も、この会社の障がいを持つスタッフが担当している。クリエイティブのクオリティは、正直、非障がい者を上回るレベルだ。

 これを可能にしたのは、2014年10月にこの会社を立ち上げた、代表取締役の矢根克浩さんの心意気だと言ってもいい。矢根さんは最初から、安直に単純作業を下請けして、とりあえずいくばくかの給料をスタッフに支払えればいいなどとは、考えてもいなかった。なぜなら彼の夢は、「障がい者のサポートを受ければ会社の業績が伸びる」という社会常識をつくることなのだから。

 設立に当たって掲げたスローガンは、「1つでも多く、事業に携わる人の笑顔を作ること」。具体的には、障がい者であるスタッフが、それぞれの個性や能力に合った仕事と出会って笑顔になり、自立への道を開いていくことだ。

 「障がい者福祉✕IT事業」のコンセプトのもとに展開している広告事業を強みに、教育や実務を通して、独自のポジションを確立。続々と、“プロ”の人材を育成している。

一人ひとりの個性や能力を伸ばす

勉強会1 (1)

講座に参加し熱心に勉強するスタッフ

 ビジネス・ライフデザインには、障がいを持つスタッフ20名と、職員3名がいる。

 「それぞれのスタッフに合った仕事を」という理念を掲げながらも、スタート当初はツテを頼りながら手探りで前に進んでいくしかなかった。

 設立から数カ月後、矢根さんの知人がフリマアプリ「メルカリ」でビジネスを始めることになり、その梱包・発送業務を請け負ったのが、現在の広告事業につながるきっかけとなる。商品説明のランディングページの作成を併せて受注したのである。

 と言っても、当時、ランディングページを作った経験のあるスタッフは、1人もいなかった。「やってみたい」と手を挙げた4人のスタッフに、メルカリの売れ筋サイトをお手本にして、「共感」「後押し」「行動」をキーワードにコピーを書いてもらっては、矢根さんが添削。それを根気強く繰り返すうちに、徐々に精度の高いものができるようになっていった。

 「これはいける!」と確信した矢根さんは、インターネット広告会社を経営していた経験のある知り合いに頼み込んで、社内で「リスティング広告講座」を開催してもらった。これでまた、スタッフの知識とスキルがぐんと伸びた。

 リスティング広告の設定・運用業務は、今では同社の売り上げの柱だ。クライアントから、「提案してもらったコピーに変えたらクリック率が倍になった」「売り上げが倍になった」と喜ばれ、広告戦略についてアドバイスを求められることも珍しくない。

 ここでは障がい者は、一方的にサポートされる存在などではない。障がい者が企業をサポートするという構図が、しっかりと成り立っている。

 今後、強化していきたいと考えているのが、マーケティング・オートメーションの分野。WEB上で広告を打ってから、見込客の育成、クロージングまでを最適効率化するプログラムの、導入・運用支援である。これに関する企業のニーズは大きく、ビジネスとしての将来性が見込める。本格的なサービス提供開始に向けて、今、着々と準備を進めているところだ。

コミュニケーションは質より量!

リスティング (1)

社員全員が複数プロジェクトに属し経験を積む

 同社のスタッフの平均出勤率は93%。障がい者施設としてはかなりの高率とはいえ、100%ではないため、欠勤が出ることを見込んだ上での仕事の段取りややりくりが必要だ。

 この対策として、誰にでも最低限の業務がこなせるようにマニュアルを整備すると同時に、スタッフ全員に複数プロジェクトに属してもらっている。このやり方はスタッフにとっても、いろいろな経験を積めるというメリットがある。

 同社では皆勤賞、精勤賞を設けて、該当者を表彰している。出勤率を仕事の評価基準にもしている。矢根さんが、在宅ではなく出勤にこだわるのは、規則的に出勤することによって仕事を中心としたリズムができ、自信がつくから。それに、会社に来ればたくさんの人とコミュニケーションをとれるからだ。

 矢根さんは、スタッフとのコミュニケーションを重視している。スタッフ1人1人と、2週間に1度、20分ほど面談する。コミュニケーションは質より量。「60分間を1回よりも、10分を5回のほうがいい」と考え、できるだけ回数を多く、話しかけるようにしている。

 コミュニケーションの活性化は、スタッフのモチベーション維持・向上に結び付き、社内の雰囲気づくりにも良い影響を及ぼしているようだ。

新しい価値の創出ポイント

 同社は、これまでなかなか表に出てこなかった、障がい者一人ひとりの能力に着目。特にIT分野に照準を合わせることで、多数のスペシャリストの育成に成功している。当面は、スタッフ全員が年収200万円以上を稼げるようにすることが目標だ。

 スペシャリストとしての独立を望むスタッフが出てくることも歓迎する。そうした希望があれば、まず社内ベンチャーとしての独立を勧めるつもりだという。

 「障がい者のサポートを受ければ会社の業績が伸びる、という社会常識をつくる」という矢根さんの夢は、すでに少しずつ現実化してきている。

(かんだ・まさのり)経営コンサルタント、作家。1964年生まれ。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済部に勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカー日本代表を経て、98年、経営コンサルタントとして独立、作家デビュー。現在、ALMACREATIONS 代表取締役、日本最大級の読書会『リード・フォー・アクション』の主宰など幅広く活動。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る