マネジメント

倒産寸前から年商4倍、23年連続黒字、10年以上離職者ほぼゼロ。「赤字は犯罪、黒字化は社員のモチベーションが10割」で、2-6-2の下位20%は宝、70歳まで生涯雇用し、人を大切にしながら利益を上げる秘密を語る。聞き手=榎本正義

日本レーザーにある「ありえない」施策の実例とは

51AkeO5YF8L__SX344_BO1,204,203,200_

著者:近藤宜之 発行:ダイヤモンド社

―― 本のタイトル「ありえない~」の実例が日本レーザーにはいくつもあるそうですね。

近藤 確かによその会社ではまずないようなことが多々あります。例えば、日本レーザーは、就業規則に70歳までの再雇用を定め、いずれは80歳まで延長したいと考えています。

 60歳超の社員比率は2割。社員が育児や介護、病気などで満足に働けなくても、短時間労働や在宅勤務に切り替えて雇用を守ります。雇用を守られている安心感があるからこそ、社員は成長し続けることができるのです。

 2つ目の事例は、第一子妊娠・出産で女性社員が退職した例がゼロ。全員が育児休暇後に復帰しています。

 当社はハイテクで難しい分野の仕事なので、1人前になった社員の退社は会社の損失です。そのため復帰できる仕組みを設けており、公平な評価基準がある、社員の事情に合わせて個別管理をしている、ダブルアサインメントとマルチタスクの導入、目指したいロールモデルがいる、などです。

 女性社員比率はパート社員も含めて30%、管理職に占める女性の割合も30%です。女性は業績への貢献は期待しますが、会社へ献身しなくていい。家族優先でいいというのが私のスタンスです。一方、高齢者には人生最後の献身をしてほしい。技術を継承し、後輩を育ててほしいからです。

 3つ目は、新卒を一括採用することはせず、通年採用にしています。私が社長に就任した1994年以降、国籍、年齢、性別、学歴を問わず、異質な人材、多様な人材を採用しています。

 結果的に新卒入社組が15%、転職組が85%となっています。この15年間で30人採用しましたが、転職組の離職者はゼロ。言いたいことが何でも言える明るい風土がある、社員が会社から大事にされていると実感している、会社は自分のものだという当事者意識を持てる、この3つが整っていれば社員は辞めません。社長批判を受け止める度量があるかどうか。社長の覚悟が人を育てるのです。

近藤宣之社長が巡りついた結論、会社を再建・成長させる唯一の方法とは

201708KONDO_P01

こんどう・のぶゆき 1944年生まれ。慶応義塾大学工学部卒業後、日本電子入社。94年子会社の日本レーザー社長に就任。人を大切にしながら利益を上げる改革で、就任1年目から黒字化させ、現在まで23期連続黒字、10年以上離職率をほぼゼロに導く。07年、ファンドを入れずに役員・正社員・嘱託社員が株主となる日本初の「MEBO」を実施。親会社から完全独立する。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」など、受賞多数。

―― 本書には、2人の息子の死、がんなど7度の崖っぷちからの復活、ファンドを入れない日本初のMEBO(会社の経営陣と従業員が一体となり、買収対象企業の株式を買い取り、その企業の経営権を掌握すること)で親会社から独立し全員が株主、亡くなった外国人女性社員の子どもの面倒を見続ける、がん闘病中の社員に入院中も給料を払い続ける、社員と上司の返信で年5千通の「今週の気づき」メールと向き合う、といった「ありえない~」事例が満載です。7500社超を視察した『日本でいちばん大切にしたい会社』著者の坂本光司氏も近藤さんには太鼓判を押しています。

近藤 坂本先生の著書に取り上げていただいたのがきっかけで、第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」を頂くことになりました。ただ、アマゾンのレビューの中には、中小企業は人材採用に苦労し、やっと採用してもすぐに辞めてしまう。その前に仕事がないし、その仕事を確保するために大変な苦労をしている。この本に書いてあるようなことはとてもできないとご意見をいただきました。

 しかし、私が債務超過に陥った日本レーザー再建を命じられたときは、主力銀行からも見放され倒産寸前でした。私自身も日本電子時代には労組執行委員長として1千人のリストラに直面、その後も幹部のリストラ交渉、二度の胃潰瘍と大腸がん、日本レーザー社長就任直後に右腕の常務が部下と独立し、人材と商権を同時喪失、親会社から独立する際は銀行から6億円の個人保証を要求される、といった崖っぷちを乗り越えて今日があるのです。

 紆余曲折を経て私が辿り着いた結論は、「人を大切にする経営」の実践こそ、会社を再建・成長させるたった一つの方法だということです。

―― 社員のモチベーションをどうアップさせ、どう継続させるかにも触れていますね。

近藤 最先端の研究・産業用レーザーや光学機器などを輸入、販売するレーザー専門商社なので、為替の影響を大きく受けます。社長23年で26社の商権を喪失しました。こうした会社がピンチのときには、社員全員が株主なので、当事者意識を持って“火事場のバカ力”を発揮してくれています。

―― 家族的経営と言われることもあるとか。

近藤 そこを目指している訳ではありませんし、女性・外国人・障がい者を優遇している訳でもありません。こういう経営がいいと思ってやってきた結果なんです。カリスマ経営者と思う方もいらっしゃるので、この本にも書いてあるとおり次期社長は63歳の専務、次々期社長は54歳の常務、ここまでは社内発表済みで、その次の世代は現執行役員および今後の執行役員の中で実績を挙げた人から取締役に昇任していき社長候補にします。

 社員にも雇用不安がないビジョンのある企業に勤める安心感と同時に、将来にわたって自らがこの会社を支えていく覚悟と責任感が生まれています。まさに「人は一代、名は末代」です。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年11月号
[特集] AIが知りたい!
  • ・IT未開の地に挑戦 産業構造をAIが変える!
  • ・AIは物理世界がまだ苦手 汎用ロボットの作り方
  • ・データ分析の起点は「何があれば経営に役立つか」
  • ・AI活用事例
  • ・ワトソン君は業務システムと連携する
  • ・米国で加熱する人工知能ブーム AIは21世紀最大のゲームチェンジャーか
[Special Interview]

 小川啓之(コマツ社長)

 「“経験知”に勝るものはない」コマツ新社長が語る未来

[NEWS REPORT]

◆SBIが島根銀行への出資の先に見据える「第4メガバンク構想」

◆家電同士がデータを共有 クックパッドが描くキッチンの未来

◆新薬の薬価がたった60万円! 日の丸創薬ベンチャーは意気消沈

◆1で久々の優勝を果たすもホンダの4輪部門は五里霧中

[総力特集]

 人材育成企業21

 SBIホールディングス/サイボウズ/メルカリ/ティーケーピー/シニアライフクリエイト/イセ食品/センチュリオン/タカミヤ/中央建設/アドバンテック/合格の天使/明泉学園/オカフーズ

ページ上部へ戻る