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自分の運気を知るためにやる毎朝3回の「ソリティア」―北尾吉孝(SBIホールディングス社長)

中国では古来より運についての研究がなされ、多くの書物が運について言及している。中国古典に明るいSBIホールディングスの北尾吉孝社長も、自ら易を読むほど運について通暁している。「すべてのものには波動がある」と語る北尾氏は、その波動をビジネスにも生かしている。そのためには今の自分の運気を知ることが絶対条件。そこで北尾氏は、毎朝パソコンに向かい、自分の運気を占う。誰でもできるその方法とは――。聞き手=関 慎夫 Photo=佐藤元樹

北尾吉孝氏プロフィール

北尾吉孝

きたお・よしたか 1951年兵庫県生まれ。74年慶応義塾大学経済学部卒業後、野村証券入社。78年英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。89年ワッサースタイン・ぺレラ・インターナショナル社(ロンドン)常務。91年野村企業情報取締役。92年野村証券事業法人三部長。95年孫正義社長の招聘でソフトバンクに入社。現在、SBIホールディングス社長。公益財団法人SBI子ども希望財団理事、SBI大学院大学学長。

北尾吉孝氏が考える運のとらえ方

―― 北尾さんは中国古典に通じ、自ら易も読むそうですが、運をどのようにとらえていますか。

北尾 運には、安岡正篤先生によれば宿命と運命がある。宿命とは、日本に生まれる、男として生まれるといった具合に変えようがないもの。もうひとつは運命。命を運ぶと書くように、動くもの、常に変化するものです。変化するからこそ立命という言葉が出てくる。自分で自分に与えられた能力を見いだし開花させ、それを使って世のため人のためになるようにしていく。このように己の力で運命を切り開き確立していこうとするのが立命です。

宿命は動かないけれど、運命は変えることができる。ではどうやって運を良くするかといえば、修養、学問ということになる。どういう観点で修養するかというと尽心、すなわち心を極める。そうすると天からどういう使命を与えられているか分かる。これが知命です。尽心、知命、立命。これが安岡先生の教える自己維新のプロセスです。

僕もこの教えに沿って今まで生きてきました。従って運は自分で開いていくことができるという観点にまず立つ。運にはうまく運ぶための法則がある。ひとつは善きことを考え行うこと。これは因果の法則です。善因をつくれば善果が生まれ、悪因をつくれば悪果が生まれる。自分の経験でもこの法則はある。こういうことは中国古典などの書物にたくさん書いてある。善行を積むと善き人に巡り合え、善き結果が得られる。善き人がまた善き人を紹介してくれる。これが縁尋機妙です。悪い人は悪い人と結び付き徒党を組む。朱に交われば赤くなる。

易経には「積善の家に必ず余慶あり。積不善の家には必ず余殃あり」とある。だから正しいことをやること。事業で言えば正しいやり方でやって初めてお客さんも周りの人も評価してくれる。そうでないと必ずどこかで悪事が発覚するし、運も良くならない。

―― 成功するためには善行を積めばいいわけですね。

北尾 善行を積めば必ず成功するかというと、それは別もの。論語には、「死生命有り、富貴天に在り」とある。生きるか死ぬかは天の配剤、豊かになるか偉くなるかも天の配剤、つまりいかんともしがたいということです。そもそも世俗的な成功を自分の目標にすることが間違っているのです。正しいことを積み上げていくと、結果として人から愛される。心の憂いがなくなる。そういうことで人生幸せに生きられればそれでよし。

それなのに自分が世俗的な意味で成功しないことを悲観していると、心の憂いが晴れることはない。人生楽しくなく終わってしまう。だから世俗的なものは天の配剤だと思って、やるべきことを淡々と一生懸命やる。そして周りの人から信用され、家族から敬愛される人間になる。それが一番の成功です。

ですから僕自身も世俗的な成功を目標にしたことは一度もありません。

長い目で見れば「運」は平等にやってくる

―― 例えば野村証券時代、出世したいとは思いませんでしたか。

北尾 僕は常務以上にならなかったら野村を辞めようと考えていました。この会社で僕の才や人物が生かされないなら鶏口となるも牛後となるなかれ、小さいところでも自分が思い切り働ける職場で働きたいという思いでした。会社の中で自分が主体的に生きるということは僕にとって非常に大事だった。

何のために偉くなるかというと、野村が世界に冠たるインベストメントバンクになるべく、経営幹部として自分の意見を表明し、みなを説得してその方向へ導くことができたらいいなという思いからです。偉くなって権力を行使したいとか、給料を人より多くもらいたいとか、そういう思いではありません。精神的に自立し主体的に生きることが大事で、これこそが福沢諭吉の言う独立自尊です。

僕は本を読むのでも主体的に本を読むことを心掛けてきた。虎関禅師が言うように古教心を照らす。いろんな古典を読んで素晴らしいと感銘を受ける。それを血肉化して今度はそれをさまざまな人に感化して世を動かし、世のため人のためになることをしていきたいという思いが強かった。

―― そういう考えをいつから持つようになったんですか。

北尾 北尾家には、代々中国古典の教えが受け継がれてきた。それが僕の中にも芽生えてそれを自分で勉強するようになり、特に安岡先生のような中国古典に精通した碩学の本を読むことでさらに体系化され、自分の生き方、自分のモノの見方・考え方として醸成されていったのだと思います。明治の哲人で『修身教授録』を書いた森信三先生にも多くのことを学びました。こういう人たちの著作を精神の糧とし、トレーニングして磨いてきたということですね。

―― どうやってトレーニングするんですか。

北尾 小説を読んでも自分が主人公だったらどうするか、テレビを見ても自分だったらどうか、常に自分を主人公にする習慣を心掛けていました。この習慣によって僕の主体性がつくられていったのではないかと思います。そういうことをずっとやってきた。

―― 運とは誰にも平等に巡ってくるものですか。それとも不平等なものなのでしょうか。

北尾 森信三先生によれば、人生を長い目でみれば、世の中は公平にできているそうです。これが平衡の理。プラスがあれば必ずマイナスがある。さらに中国ではご先祖にまで遡って考えると、いつかは公平になる。孫子の代まで親の因果が子に報う。ですから基本的には平等だと思います。

運をつかむために必要な3つの「キ」

―― 運をつかむために北尾さんが日常的に心掛けていることはありますか。

北尾 基本的に知識として吸収したことは、できるかぎり日常生活の中で実践していく。これが事上磨錬。安岡先生流に言えば活眼活学です。死んだ学問ではなく実践していく。知行合一が大事だと思っています。

加えて易経の3つのキも大事にしています。ひとつは「幾」。「幾」とは物事が変化する兆しです。もう一つは「機」、ツボとか勘所といわれるものです。最後に「期」。どんなことでもタイミングを逸したら失敗することもある。この3つのキを常に見て読み間違えないようにするようにしています。

柳生家家訓に「小才は縁に出会って縁に気づかず。中才は縁に気づいて縁を生かさず。大才は袖振り合う縁をも生かす」とある。小才は自分に勝機が訪れているのにそれを勝機と思わない。中才はせっかくご縁に恵まれているのに、生かしきれない。だからわずかな縁なり運気なり勝機をきちっとつかむことが大事で、これが運の平等・不平等にもつながっていく。つまり平等にチャンスは来るのにそれを生かせるかどうかで結果が変わってくる。

僕は母方の祖父から、耳をそばだて目を皿のようにして生きていかなければならないぞと言われた。祖父は東洋綿花(現トーメン)の5代目の社長です。小学校卒だけど苦労して英語や中国語を覚え、大卒の資格を取り、社長になった努力家でした。この祖父から周りに起きるすべてに注意をしなければいけない、気を配り、関心を持ち、好奇心を持つことを教わりました。

それと松下幸之助さんもよく言っていましたが、素直に生きることが大事です。ひねくれていると、せっかく運気が来ても逃がしてしまいます。

―― 北尾さんでも「ついてないな」と思うことはありますか。そんな時はどう対処するのでしょう。

北尾 失敗が常だと思うことです。失敗が常で成功はせいぜい1割か2割だと思っていればいいんです。失敗するのが当然だと思っていれば、失敗してもあまり落ち込まないですむ。失敗が当たり前だと思えば、「策に3策あるべし」と、事前に失敗した時のことを考えるようになる。そうすると失敗しても、何がいけなかったかを分析し、次の策にとりかかることができる。

それとできるだけポジティブに考えることも大事です。提携話がうまくいかなくても、これはやめたほうがいい話だから、天がダメにしてくれたと受け止める。そう考えていると、それほど落ち込むことはない。

北尾吉孝流、運気の見極め方とは

北尾吉孝

―― 自分の運気を量る方法はありますか。

北尾 僕は算命学や易経も多少勉強していますから、自分の運気がどうなのかを見ることもあります。でも一番簡単なのは、パソコンに入っているトランプのゲーム、「ソリティア」(クロンダイク)です。毎朝、3回くらいソリティアをやって、今日は運が強いか弱いかを量ります。3回続けて上がった時は、今日は運気が強い。全然上がれなかった日は運気が弱い。

―― 運気が強い日は仕事でも強気に出るのですか。

北尾 そう。逆に負け続けて、今日は何をやってもあかんな、という時はおとなしくしている。自分の運気を知る上で、ソリティアはいい方法だと思います。

―― 大事な契約が控えている日の運気が最悪だったらどうしますか。

北尾 どの日に契約したらいいかも一応吉兆を占うので大丈夫です。こう言うと、まるで亀甲占いの世界ではないかと言われますが、人にはそれぞれリズム、運命の波動がある。すべてのものに波動があるわけですから、まさに命を運ぶ、動く、変化するという時には、変化の仕方を自分なりにつかまえないといけない。それを調べる方法が算命学や易経以外にあるかというと僕には思い当たらない。

―― 北尾さんは自分の運気は強いと思っていますか。

北尾 ソリティアを何度やっても負け続ける人は、そもそもの運気が強くない。僕はけっこう上がれるので、運気は強い方だと思います。

不思議だと思うのは、こういうビジネスをやりたいと思う時、たまたま必要な人間が入社していた、ということがよくあることです。こういうことがあると、本当にありがたいという感謝の気持ちを持つと同時に自分を律する気持ちも強くなります。

そもそも天はいない、神はいないと思う人は、自分を律する気持ちが弱くなる。誰も見ていなくても天が見ていると思うから自分を律するわけです。いいことがあると、そういう気持ちが強くなるし、頑張らなきゃという気持ちも強くなる。

ですから運に巡り合いたいと思ったら、われわれをつくりたもうた天が存在していると思うことがまず大事です。天の存在を認める(造化の存在を確信する)ことで、運命の法則を知ることができ、善因善果、悪因悪果ということになる。そこが出発点です。その上で自分をどうやって磨いていくか、天の意思に背かないようにしていくかを考える。そうするとやはり、学問であり修身に尽きるわけです。

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