文化・ライフ

ビジネスマンにとって第一印象は非常に重要だが、そこに大きな影響を与える「ファッション」についてはよく分からないという人も多い。好印象を持たれるファッションを構築するために、どんな心構えを持って、何から始めれば良いのか、プロスタイリストの吉川浩太郎氏が解説する。

吉川浩太郎氏プロフィール

(よしかわ・こうたろう)1981年5月19日生まれ。東京都日野市出身。紳士服専門上場企業で人事採用や接客業務を経た後、イメージコンサルタントとしてのキャリアを基に依頼者独自の良さを引き出すコーディネート事業を展開。プライベートカジュアルからスーツスタイルまで幅広い知識・提案に定評がある。化粧品会社、大手建機会社、生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会(公益社団法人JAIFA)等で30~100名規模のファッション研修に携わっている。

 

ビジネスマンが持つべきファッションに対する心構え

 

ファッションは教養であることを認識する

 ファッションに関する知識は、すぐに仕事につながるわけではないかもしれません。ただ、知っていることによって、たまたま服に詳しい人と話が盛り上がって仕事につながったというケースを、私のクライアントからも聞いたことがあります。

 面白いもので、以前はまったく服に興味がなかった人でも、コンサルティングを受けた後は、電車などで他人の服装が気になって仕方なくなるそうです。そこで初めて、「自分は周囲からこんなふうに見られていたのか」と気づくこともあるとのことです。

 とはいえ、あくまで教養の1つですから、義務感を持ってガチガチに取り組む必要はありません。あまり構えずに、気軽に楽しくファッションについて学んでいただければと思っています。

 服に関する知識が増えて、判断基準がしっかりできてくると、自分に合わないと思った服を買ってしまうようなことが減ります。仮にしつこい店員さんに気乗りしない服を勧められたとしても、押し切られることがなくなるでしょう。教養の1つとして服に興味を持っていただくと、そうした見えない部分でも得をすることになるでしょう。

ファッションのコーディネートはまず「自分がどうなりたいか」から

  私の場合、実際のコーディネートを始める前に、初回はお客様から最短でも2時間かけてお話を伺います。お客様自身が「どうなりたいのか」「何を目指しているのか」を表現するのがファッションだという哲学があるからです。

 その中でも、私は特に「ストーリー」というものを重視します。

 たとえば、今日なぜその服を着ているかという理由を他人に語れるかどうか、ということはとても大事だと考えています。その日に着たいシャツがあるとすれば、そのシャツを主役に据えて映画を撮るような感覚です。そこから相手役であるジャケットを決めて、さらに脇役のパンツをどうするかという感じで全体を設計していきます。

 その日の主役はシャツですから、相手役はあくまでそれを引き立たせる役割を演じられるデザインや色のものを選ぶわけです。もちろんパンツが主役のときもありますし、ジャケットやネクタイの場合もあるでしょう。

とはいえ、そこまで肩ひじを張る必要はなく、主役を決めるのは気分でも構いませんし、営業マンの方でしたら取引先のコーポレートカラーに合わせて色を選ぶ、といったことでも構いません。

 要するに、その服を選んだ理由をしっかりと自分で納得できれば良いのです。そのことが自信にもつながっていきます。たくさんのビジネスパーソンの方々をコーディネートさせていただいた経験からも、何となく毎日服を着ている方より、理由を持って服を選んでいる方のほうが仕事の成果が出ている印象があります。

ファッションのストーリーは場面によっても変わる

 ただし、ストーリーというのは観る人あってのもの、ということも忘れてはいけません。映画にノンフィクション、ラブストーリー、サスペンス、ホラーなどさまざまなジャンルがあるように、仕事なのかデートなのかといった、対象となる相手によってもふさわしいストーリーは変わります。

 オーダーメイドで服を仕立てる人は、もう少し長期的にストーリーを考えているかもしれません。ファッションの定番を押さえる重要性については、これまで本シリーズでも語られてきたとおりですが、業界によっては流行を追っていったほうが良い場合もあるでしょう。

 流行に乗り続けることができる体力、興味、資金があれば、新しいものを買い続けるのもアリです。われわれとしては、そうした方に見合ったアドバイスをすることも可能です。ただ、着られない服がクローゼットの中に増えて、頻繁に整理する必要が出てくることは覚悟しなければなりません。

 大事なのは、自分のスタイルはどこにあるのか見極めること。そして、それを継続する条件が整っていることだと言えるでしょう。

 コスト面を考えると、ブレない自分の定番スタイルを持ちながらも、うまく流行を取り入れていくやり方が最も得をする可能性が高いと思います。流行を追うことがダメなわけではなく、スパイスとして少しだけ加えることによって、ファッションの楽しみ方が増えていきます。

 

ビジネスマンのためのファッション構築術①―ワードローブの見直し

 

服選びの成功、失敗を運任せにしない

 私どものコンサルティングを受けていただくお客様には、ご自宅のワードローブ(衣装タンス)の見直しをお願いしています。最適なコーディネートを設計・構築するにあたって、まずは現状の確認が重要だからです。

 お客様には基本的に、春夏物と秋冬物を1回ずつ、半年ごとにクローゼットの中身を全て箱詰めして送っていただきます。送っていただいた服は、ご本人立ち会いのもとでチェックして、残す服と処分する服を決めていきます。

 人によってはほとんど着られる服がなくなってしまう場合もありますが、その後のことを考えると無駄な服を買わなくて済むようになります。買い物に失敗しても理由を確認しないまま次の買い物をしてしまうと、着られない服がどんどん溜まっていく、という状態になりがちです。これでは、服選びに成功するか失敗するかは運任せになってしまいます。

 優秀なビジネスパーソンの皆様であれば、仕事においては準備、設計、見直しの作業を行って、効率化を図っていることと思います。ところがファッションに関しては、なぜかこれらがなおざりにされがちです。無駄な買い物をし続けるのを避けるためにも、ぜひワードローブの見直しを行ってみてください。

 処分する服の基準は、清潔感のないもの、デザイン的に古くなってしまったもの、サイズが合っていないもの、などです。また、たとえ着ることができても、格好良く見えないものは外していきます。われわれが手掛ける場合、さすがに下着までは対象にしませんが、Tシャツレベルまでなら、残すか処分するかを決めていきます。

 逆にもう絶対に着られないと思われる服でも、特別な思い入れのあるものなどはお客様とご相談の上で残すこともあります。また、高価な服で、手直しをすれば着用に値すると判断すれば残します。

ファッションに対する自分の傾向とクセを掴む

 断捨離をテーマにした本などには、1年以上着ない服は捨てるといったことが書かれていますが、ご本人が着なくなっても、私どもが見て残したほうが良いと思われる服が出てくることもあります。しばらく着ない服は、なぜそうなったのかを分析する必要があるでしょう。そこから、ご自身の傾向やクセというものが見えてきます。

 たとえば、Tシャツはたくさん持っているけどズボンが少ない、アウターは多いけどそれらに合うインナーがない、といった自分のクセが掴めると、次に何を買えばいいかが分かるようになります。プロに見直しを頼むのが難しい場合も、ご自身で各アイテムのバランスを意識しながらやってみてください。

 われわれプロでも、服の好みに関するクセはあります。私の場合はちょっと個性的な服が好きなので、王道のベーシックなものが不足する傾向があります。私自身も半年に一度は服の状態確認を兼ねてワードローブの見直しを行って、全体のバランスを保つことを心掛けています。

 

ビジネスマンのためのファッション構築術②―着回して経済的負担を減らす

 

各アイテムは何着ずつ持っていれば良いのか

 ワードローブの見直しの次は、最低限どのアイテムを何着ずつ持っていれば大丈夫なかというお話をします。

 個人差はあると思いますが、私なりの基準では、たとえばスーツであれば春夏と秋冬でシーズンごとに3着ずつ。ワイシャツは週5日働くのであればオールシーズンで6枚以上。独身者の方などで洗濯する暇があまりない方は、もっとあったほうが良いかと思います。

 ちなみに、私が1人暮らしの時は14枚ワイシャツを持ち、一定の日にちが経ったらまとめてクリーニングに出すというやり方をしていました。

 ベルトと靴はそれぞれ3つ以上が理想です。ネクタイは5~6本。これぐらいの数をお持ちであれば、ある程度経済的な負担を減らして、着回せるかと思います。

 プライベートの服に関しては、ライフスタイルやシーンによって大きく左右されるので難しいところです。

 ただ、私の場合は1年間着回すのであれば、ズボンであれば最低6着は持っていたいと思います。理由は1年中履けるものと履けないものがあるからです。

 ジーンズやチノパンは1年中履けますが、たとえば、白や水色などのズボンは冬に着ると寒そうな感じになるので季節限定になります。秋冬には白と水色は着ずに、ジーンズ、チノパン、あるいは黒やダークブラウンのズボンを履いて季節感を出したりもします。春夏と秋冬でそれぞれの季節感を出すズボンが2着ずつ、あとは1年を通して着るものが2着となると、合計6着はあったほうが良いというわけです。

 あくまでこれは一例ですが、最低限の所持数で、「この人はいろいろ持っているな」と周囲に印象付けることができます。

 

シャツ、靴、ベルトの内訳はどうするか

 ワイシャツの話をもう少し詳しくすると、職業にも左右されるので全て違う色や柄のものをそろえなければいけないという訳ではなく、必要なものを複数枚持っていても構いません。たとえば、6枚のうちの2枚から3枚が白ベース、ブルーやピンクのカラーの無地が2枚、柄物が2枚といった感じにすれば、十分バリュエーションは生まれます。

 靴は黒と茶色を1足ずつ持って、もう1足はよく履くほうの色。ベルトも靴に準じるのでセットで色を揃えれば良いでしょう。

 ネクタイは6本のうち、無地や小紋柄など、どんなシャツにも合わせられるものを1本ずつ持って、あとは好みで選んで構わないと思います。

 

ビジネスマンのためのファッション構築術③―結論を急がない

 個人的に非常に気になっているのは、メディアなどのファッションに関する情報で決めつけの表現が最近増えていることです。

 たとえば、「一流の人間は紺のスーツしか着ない」「ビジネスには紺のスーツと白のワイシャツで十分」といった類のものです。

 「自分はこれ以外着ない」というこだわりを否定する気はないのですが、それだと少し面白みに欠ける気がします。もちろん、場にそぐわない服を着るのはNGなのですが、もう少しファッションを楽しむ姿勢があっても良いのではないかと思うのです。

 確かに、オバマ前アメリカ大統領やフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏が、いつも同じ服装をしているというお話を講演会などでさせていただくこともあります。ただ、彼らの場合は毎日服を選ぶ時間さえ惜しいという理由でそうしているのであって、さまざまな経験や思考を経たうえでの最終形と言えるでしょう。

 まだそのレベルに到達していない普通のビジネスパーソンの方々には、ファッションでもさまざまなチャレンジをしていただきたいと思うのです。チャレンジの経験なしに結論を急いでしまうと、自分の世界を狭めてしまう可能性が高いからです。

 繰り返しになりますが、私は、ファッションも教養の1つだと考えています。一見、無駄なものですが、教養と同じくすぐに役立たなくても、自らの血肉とすることで思わぬ良い事が起きたりするものです。

 私の知り合いにコーチングを専門にしているAさんという方がいます。Aさんの実家は飲食店を営んでおり、一度は料理人として働いたものの、やはり好きなことがしたいという理由で今の仕事に就いています。

 そのAさんがある日、料理の腕を生かした本格的なすき焼きパーティを開き、趣味のコーヒーも点てて参加者にふるまったところ非常に好評で、参加者の一人の女性が自分の彼氏も連れてきたいと希望したそうです。その彼氏というのは、実はAさんがかねてから会いたいと願っていた有名な方だったというのです。本業とは全く関係ない趣味でも、世界を広げたことによって違う形で役立った例と言えるでしょう。

 

 

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