会社の規模が大きくなるにつれて、マネジメントの方法を変えていかなければ、組織としてのさらなる成長にはつながらない。マネジメントを間違えれば、ビジョンの共有や社員の目標設定がうまくできなくなり、社員は不満を抱えるようになる。そうなると、一斉退職という事態にもつながりかねない。
新潟の建設会社山六木材は、そんな社員の大量退職によって、企業のマネジメントのあり方を見直し、人事評価制度の刷新に取り組んだ会社だ。現在では社員数も増え、順調な経営状況の山六木材は、大量退職によって傾いた経営をどのように立て直していったのだろうか。
本連載では、人事評価制度改革によって業績を伸ばした中小企業の事例を紹介しながら、社員が育つ人事評価制度の仕組み化、設計について分析していく。
社員の不満がつのり大量退職に直面
今回紹介するのは、新潟県三島郡出雲崎町に本社を置く建設会社、山六木材。1962年に原木販売の会社としてスタートし、現在は木造住宅の建築・設計事業を主に行っている。社員・アルバイトあわせて18名ながら、地域で圧倒的な完工実績を誇る地域密着型の建設会社だ。
山六木材の二代目社長小林誠氏が人事評価制度の導入に取組んだのは、2015年8月のこと。その4ヶ月前の2015年4月、当時15名いた社員のうち一挙に5名が退社するという事態に陥った。辞めた5名のうち、2人は年齢と体の不調が理由だったが、残りの3名は連鎖的に辞めていった。
このとき、小林社長はマネジメントをおろそかにしていたことに気付かされたという。当時の山六木材には、明確な評価の仕組みがなく、社員からは「業務体系が明確でない」「売り上げが増えれば忙しいだけで、メリットがわからない」「どんな目標や目的で会社が存在しているのか分からない」といった声が上がっていた。
社員数7~8人の頃は、口頭で伝えるだけでも社内のコミュニケーションに問題はなく、社員全員のベクトルが揃っており、スムーズに売上げが伸びていた。
しかし、社員が10人を超えたあたりから「会社の方向性が分からない」と不満を漏らす社員が増えてきた。それまでと同じことをいっているにもかかわらず、ビジョンや組織の在り方、給与体系、営業方法、工事の進め方など、多くの点で不満が出てくるようになり、社員のベクトルがそろわず、一挙に5人が退職という会社として危機的な事態につながった。
人事評価基準の明確化は採用活動にもプラスになる
5人が一気に退職し、会社の経営が危機的な状況の中、新たな人事評価制度の導入には、社内から反対の声もあったという。それでも小林社長は社員に説明を重ね、人事評価制度の設計とアクションプランの実行によって制度運営を行ってきた。導入後の育成面談では「上司にこんなに褒められたのは初めて」と泣き出す社員がいたというほど、社員の会社への満足度は確実に高まっていった。
社内の4つの部署のうち、評価の記入、育成会議、育成面談、チャレンジシートの更新・チェックという評価のプロセスを確実に実行できていた部署は、他の部署よりも確実に部下の育成に結びつき、結果にもつながった。そこで、この部署の評価者にはマネージャーになってもらい、他の部署の評価者をひっぱる推進役を任せている。このように新しいリーダーが誕生したのも人事評価制度の成果だ。
会社として進む方向を社員に示すビジョンや経営計画の明確化、評価を給与に反映させる評価制度運営による効果は、会社の採用活動にもプラスにはたらいた。評価基準をきちんと整え、会社としてどんな点を評価するのかを打ち出せるようになったことで、求める人材像が明確になり、新たな採用に結びついていったのだ。
5人の退職という事態から、現在までに社員6人を採用することができ、そのうち辞めたのは円満退社の1人だけである。
人事評価制度が企業の体質を変えた
小林社長は、人事評価制度のあるべき姿について、「頑張っている人をきちんと評価する制度」だとし、「人事評価制度は作ることよりも運用し続けることが重要」だといっている。3年弱の取組みによって、確実に会社の体質は変わり、社員のモチベーションアップ、育成にも結びついている。
人事評価制度によるマネジメントの見える化は、社員の進むべきベクトルを合わせることにつながる。今後、さらなる組織の成長に向け、取組むべき課題が出てきたとしても、人事評価制度という組織としての土台がしっかりと機能しているならば、課題をクリアし未来を切り開いていくことができるだろう。今後も改善を繰り返しながら、人事評価制度の長期的運営を行うことが求められる。
(やまもと・こうじ)日本人事経営研究室代表。1966年、福岡県飯塚市生まれ。
業界平均3倍超の生産性を誇る自社組織は、創業以来、
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