国際

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

込山洋一・ライトハウス会長プロフィール

komiyama_PHOTO

(こみやま・よういち)1965年生まれ。香川県出身。国立弓削商船高等専門学校 航海学科卒。1986年、国交省航海訓練所の練習船(日本丸、大成丸)での1年間の航海実習で、ロサンゼルスの青空と自由闊達な風土に魅了され、卒業と同時に渡米。学習塾経営を経て、1989年、日本語情報誌ライトハウスを創刊。現在に至る。2016年、ビジネス・ブレークスルー大学大学院(BBT大学院)経営管理修士課程を修了。

商船学校の実習をキッカケにロスで就職した込山洋一氏

イゲット まずは、込山さんがロサンゼルスに来た経緯から教えてください。

込山 もともと外国航路の船長を目指して、商船学校に通っていました。いろんな航路で実習するんですが、最初の実習はハワイでした。それから一度日本に帰って、次に乗った船が、ロスのロングビーチに寄港したのがキッカケです。20歳の時ですね。

イゲット ロスのどんなところが気に入ったんですか?

込山 人はカラッと明るいし、フレンドリーだし、あとは、日本ではみんな同じ時期に同じ色のスーツを着て就職活動する。みんながしているから自分もするってどうもしっくりこなくて。卒業したら就職しなくてはいけないという考えにも違和感がありました。

イゲット 商船学校のみなさんは、卒業したら普通はどういう進路に行くのですか?

込山 船乗りになるか、海運関係の仕事に就くことが多いです。僕は海外で働いてみたいという気持ちがボンヤリあったので、学校を卒業してすぐにロスに来ました。ポンと来たので、英語も最初は全然ダメでしたね。

実習でロングビーチに寄港したときに、山口県人会のみなさんが400~500人くらい集まったんです。僕は来賓の席に座らせてもらっていたのですが、その時に出会った日系人の方に「アメリカで働きたいんです」と言ったら、その方がちょうどレストランを任されるということで、働かないかと誘われました。それで帰国後に一カ月だけ仕事をして、お金を作って渡米しました。そのレストランでは半年だけ働かせてもらいました。

イゲット 日本食レストランですか?

込山 そうです。人手が足りなかったので、仕入れからソースの作り方からメニュー作りまで何でもやらせてもらえました。

イゲット レストランを経営できますね(笑)

込山 いえ、店の仕事ができるのと、経営してちゃんと利益を出せるのは別ですから(笑)。売り上げがイマイチだったから、週7日営業にしてみないかと言われて「分かりました」と答えました。さらに深夜営業もやっていたから、ずっと働いてましたね。

イゲット すごい! もともと働き者なんですね。

込山 働くのがキツイという感覚はあまりなかったですね。ただ、本来は4人でやるべき仕事を、僕とアルバイトの子だけでやっていたので無理がありました。ましてや、僕のスキルでは足りないことだらけで。教えてくれる人がいたら人生が変わったかもしれませんが、若くて働き者というだけで基本がないまま進んでいったら、すごく中途半端になると思ったんです。それで潮時だなと思って辞めました。

込山洋一氏の職歴―塾経営からフリーペーパーの世界へ

イゲット その後はどうされたんですか?

込山 手に職はなかったのですが、人に教えるのが好きなので学習塾を始めました。80年代後半は、日系企業がどんどんアメリカに進出してきたので、そのご子息に勉強を教えていました。最初、場所をいろいろ探していたところ、塾のスペースは貸せないけど居候ならOKという方がいて、そこに転がり込んで開業の準備をさせてもらいました。それから3ヶ月後、近所にアパートを借りて、そのリビングルームを教室に始めました。半年ぐらいで規模が大きくなって、80~90人ぐらいの生徒数になりましたね。

イゲット ご自身で教えていたんですか。

込山 自分も教えていましたし、近くのUCアーバインの学生さんや、日本で教えた経験がある主婦の方などにも働いてもらってました。もともと地頭が良い子が多かったので、自信をつけさせたらすごく成績が伸びましたね。日本の公開模擬試験の問題を受けさせて、実力がついたことがきちんと分かるようにもしました。少し受講料は高めにしましたが、きちんと面倒を見るようにしていました。

イゲット ライトハウスを設立したのはどういう理由ですか。

込山 塾を始めて一年後には、ライトハウスを設立しました。塾の仕事は面白かったんですが、最初に転職した時と一緒で、毎日会うのが子供たちとお母さんばかりで、あまりインプットがなかったんです。外の世界とつながりができる仕事は何だろうと考えて、フリーペーパーなら、取材に行ったり営業に行ったりするから、世界が広がるんじゃないかと。

イゲット フリーペーパーはほかにもたくさんあったんでしょうか。

込山 ありましたね。ただ、本を作るのが好きでないと続かないんでしょうね。僕はそれからずっとフリーペーパーを作り続けて、塾のほうは主婦の方にテイクオーバーしました。

イゲット フリーペーパーを始めてみて、いかがでしたか?

込山 営業の基本もないまま、とにかく飛び込みでも電話でも数を当たることを心掛けました。数千件単位です。今思うと本当に申し訳ないのですが、最初の3年ぐらいは何回断っても来るので根負けして広告を出してくれるお客さんが多かったですね。2年目の途中から弟が合流して、兄弟で営業していました。

イゲット どうして弟さんをパートナーに選んだのですか。

込山 自分の結婚式のときに弟を日本から呼んで、空港に到着したその足で仕事を手伝わせたんです。それぐらい人が足りない時期だったし、弟にしても、何だか面白そうだし手伝ってやろうと思ったのかもしれません。それから15年ぐらい一緒にやって弟は1回離れたのですが、その後ライトハウスハワイを立ち上げるときにまた参画してもらって、もうすぐ10年が経ちます。

兄弟で営業に行くことから始まり、利益が出たら経験がある人を雇って、上手くいったらさらに優秀な人を雇ってと、会社のステージに合わせてふさわしい人を雇っていった結果、知名度も共感者も利益も増えていきました。特に二代目編集長の女性がすごく優秀な方で、彼女が3年目に入社してからは、グンと伸びて手ごたえを感じました。

イゲット ロサンゼルスとハワイのほかにも進出されてますよね。

込山 今はサンディエゴ版、シアトル・ポートランド版、そしてシカゴで中西部版を出しています。あとはシリコンバレー・ベイエリアと、ニューヨークを出したらほぼ全米をカバーすることになります。

イゲット 展開が早いですよね。

込山 そんなこともないですよ。今年でもう30年目ですから。

込山洋一氏が大事にしている3つの柱

komiyama_PHOTO2イゲット 他のフリーペーパーと差別化するために、意識している部分はありますか。

込山 現在、世界中で出ている情報誌の主流は、外部から買ってきた記事プラス、地元のイベントやニュースを翻訳して載せています。それはそれで良いのですが、僕らは自社記事にずっとこだわって、自分たちの存在意義をすごく大事にしています。

 その柱は3つあって、1つは課題解決です。たとえば、教育でいえば幼稚園や小学校がどうなっているかだったり、どうやってバイリンガルに育てるかだったり、アメリカに来た日本人にとっては、ほとんど初めてのことばかりでしょう。また、災害に会った時や会社でトラブルに会った時などの対処法も、日本にいるのとアメリカにいるのでは全然違います。

 こうした課題を解決するのに、知り合いからの情報だけだと、偏ってしまうこともあります。われわれは情報を通して、日本人が生活するうえで大変なことを解決する手助けしたいと考えています。だから、「ライトハウス」なんですよね。

イゲット なるほど。「照らす」という意味で。

込山 一方で、課題解決の記事だけでは固くなるので、潤いも必要です。つまり、エンターテインメントやレジャーなどの生活を楽しむための情報です。あとは、いろんな分野で活躍している日本人を取り上げて、苦労を乗り越えて頑張っている人について知っていただくことで、読者を勇気づけられるような記事です。単に日本の情報を持ってくるのではなく、海外に住んでいるわれわれの視点で、困ったことを解決していこうというのが、大事にしている部分です。

イゲット だからこそ、アメリカのどこでも読まれているわけですね。各エリアごとの記事と、アメリカ全体に使える記事が載っている感じですね。

込山 そうですね。例えば大学進学や冠婚葬祭などの記事はアメリカのどこでも使えますし、お店の特集などを載せるときは、フォーマットは一緒ですが中身を地域ごとに変えたりしています。

たとえばハワイ版なら、LA版など他地域と比べてコミュニティがより近いので、ローカルの方に記事を書いていただいたり、住んでいる人の記事を多く載せたりしています。日本を意識して生活している方々も多いので、日本の芸能ニュースも載せています。地元の情報誌であるという部分を、感じていただけるように意識しています。(後編に続く

ChiekoEggedDSC_3145

 

(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

イゲット千恵子氏の記事一覧はこちら

 

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る