マネジメント

エヴァンジェリストとは、もともとはキリスト教における「伝道者」の意味で、ここ最近、ビジネスの世界でも肩書きに使う人が徐々に増えてきている。明確な定義はないものの、1つあるいは複数の分野に深い専門知識、情報発信力、伝達力を持ち、世の中に大きな影響力を与えられる人材をイメージしていただければ良いだろう。本シリーズでは、今の時代に必要なそんなスキルを身に付け、企業の内外で新たな仕事や働き方を創出する女性エヴァンジェリストたちにスポットを当てる。(取材・文/吉田浩)

 

「貧困女子」から資産形成のスペシャリストへ

 

クレア・ライフ・パートナーズ執行役員の石川福美さん

 

 「資産運用が富裕層だけのものという世間の認識を変えたい。むしろ資産が限られている人こそ、効率的な運用が必要だという考えをもっと広めたいんです」

 そう語るのは、クレア・ライフ・パートナーズの石川福美さん。生命保険、不動産、株、債券、投資信託、海外投資など、あらゆる分野の商品から、顧客の状況に最適な資産形成を助言するコンサルタントとして活躍している。

 強い思いの根底にあるのは、自分自身の経験だ。今でこそプロフェッショナルとして資産運用の豊富な知識を持つ石川さんだが、一時は「貧困女子」として家賃の支払いにすら苦労する生活を味わった。そこから這い上がる過程で、むしろ限られた資産しか持たない人たちにこそ、金融リテラシーが必要だとの考えに至ったという。

 石川さんが最初に就職したのは銀座のフレンチレストラン。接客業が好きで就いた仕事だったが、朝から晩まで働き詰めの毎日が2年間続き、プライベートな時間が全く取れなかったため、派遣の事務職に転身する。ところが、その後バセドウ病を患い、まったく仕事ができない状態に陥ってしまった。

 仕事どころか電車に乗ることもできず、やがて休職。無収入となる一方で、治療費がかさみ、貯金も底をついた。

 「当時は保険にも入っていなかったですし、マズイと思う気持ちはあっても何もしなかったんです。もともとお金のことを考えるのが面倒だと思っていたのに、体調が悪い中でそれを考えるとさらに苦しくなるという防衛本能が働いて、完全に現実逃避の状態でした」

 経済的な困窮からいったん地元の福岡に帰り、療養生活を経て再び上京。派遣事務員としての生活に戻るが、金融知識の浅さからまたしても失敗する。

 「今度は何かあっても大丈夫なようにと、知り合いから勧められるままに26歳の独身にとってはとても高額な月々5万円の保険に入りました。安心材料として保険に入ったんですが、独身女性には絶対に必要ない保障までパッケージで組み込まれていて、生活が圧迫されてしまいました」

 そんなときに縁あって、クレア・ライフ・パートナーズが新規人材を募集していると知った石川さんは、「自分が働かせてほしい」と申し出たという。

 「経済的に困窮していたので、事業の内容がすごく面白そうで、自分にとっても同じ世代の多くの人にとっても、とても必要な分野であり、勉強したいと思ったんです。社長の工藤が書いた本を読むと、自分の知識のなさが今の状況を招いたんだと分かりました。女性で体調を崩す人は多いので、そういう人たちにも情報発信できればいいなと」

 こうして2014年の秋から、創業間もないベンチャーの一員として働くことになった。

 

非正規社員が資産形成に成功したモデルケースに

 

 

 事務員として入社したものの、そこは猫の手も借りたいベンチャー企業。わずか3カ月ほどでコンサルタント業務に回ることになった。工藤社長や他の社員と共にクライアントとの打合せに同席をする傍ら、それ以外の時間はひたすら資産運用について勉強する日々が2年ほど続いた。

 「ウチの会社は顧客に提案する金融商品については、社員自ら実際に投資を行うスタンスなんです。自分でも資産形成に取り組むことで、世の中の情勢や市場動向について敏感になることができます。それで、キャッチアップのスピードが上がりました」

 多忙な日々ではあったが、「この仕事は天職」と思えるほど面白みを感じるようになった。

 知識を付ければ付けるほど、資産運用の奥深さが見えてくる。社会情勢の激変で将来の社会保障や資産形成の在り方に関して、過去の経験則がアテにならない時代。20代や30代の若者にとっても金融リテラシーが非常に重要になっているが、社会人になるまで(あるいはなっても)何から始めていいのか分からないという人は多い。そんな中、真に役立つ情報を発信し、資産形成の選択肢を提供し、市場を醸成する仕事に大きなやりがいを感じていると石川さんは言う。

 スキルの向上に伴い、現在は資産形成を考え始めた若者から運用のベテラン、富裕層まで幅広い顧客を担当するようになった。そんな中でも、特に若い女性にとっては自分がロールモデルになれるのではないかとの思いを抱く。

 「今は女性限定のセミナーを毎月一回行っていますが、何かリスクが表面化してから対応しようとすると本当に苦しいので、最低限の備えをしておく大切さについて話しています。その点で、経済的に困窮していた非正規社員がお金の勉強をして、資産形成できた分かりやすいモデルとして、自分が出ていくのが良いかなと思っています」

 また、高齢化社会の進行に伴う「資産寿命」というテーマにも大きな関心を持っているという。

 「今の30代の人々が98歳以上まで生きる確率が50%という研究結果も出ていて、65歳で退職すると老後の時間が非常に長く、資産が枯渇するという問題が出てきます。その対策を個人が練っていくためのアプローチも考えていきたいと思っています」

 

資産形成コンサルの必要性を発信

 

 クレア・ライフ・パートナーズは、顧客の代理人として個々人の状況にあったコンサルティングの比重を高め、コンサルティングフィーを得るスタイル。日本では、コンサルティングに対して対価を払うという習慣が十分根付いていないという点を石川さんは指摘する。

 「コンサルティングは金融商品だけでなく、会社の福利厚生や税務などの知識も含めて、お金にまつわるすべてのジャンルから一番効率高く運用するにはどうしたらよいか読み解く仕事です。その必要性をどうやって発信していくかがこれからの課題になります」

 人々のライフスタイルが多様化し、どんな人生を送ることが幸せなのか画一的に語れない時代においては、各人が幅広い知識を身に付け、氾濫する情報から取捨選択する能力が求められる。そんな時代にこそ、個々のクライアントに応じた指南役としてのコンサルタントのニーズは高まってくるだろう。

 コンサルタントの仕事以外にも、メディア対応やセミナー運営など、現在も複数業務をこなすが、今後は特に情報発信を意識していくという。その取り組みの1つとして、経済界主催の「エヴァンジェリスト養成講座」を受講。広報・PR業務は取材依頼が来た時に受けるというスタンスだったが、今後は能動的にアクションを起こしていきたいと語る。

 「われわれが発信する情報が埋もれてしまわないように、必要な人にズバッと届くやり方を模索しています」と語る石川さん。とかく難解で、素人には敬遠されがちな資産運用の世界を、分かりやすく伝えていくことが今後のミッションだ。

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