文化・ライフ

筆者プロフィール

水無田気流(みなした・きりう)1970年生まれ。詩人・社会学者。詩集に『音速平和』(中原中也賞)、『Z境』(晩翠賞)。評論に『黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望』(光文社新書)、『「居場所」のない男、「時間」がない女』(日本経済新聞出版社)。本名・田中理恵子名義で『平成幸福論ノート』(光文社新書)など。

 

安倍政権の「女性活躍」を少年漫画誌に例えてみると

 

 『週刊少年アベセイケン』は、2006年に創刊された少年漫画誌である。同誌は07年に休刊し、12年にリニューアル創刊された時、巻頭カラーを飾ったのは期待の大型新人作家の連載漫画『ジョセイカツヤク』だった。

 主人公は、世界中に埋もれていた巨大エネルギー源「センザイテキジョセイロウドウリョク」を7つ集めることに成功。「シュウサンリョウイン」を呼び出し、「ジョセイカツヤクスイシンホウ」を成立させるため、数々の厳しい試練に打ち勝っていく。

 連載2年後には物語も大きなヤマ場を迎え、「死闘! 天下一ニイマルサンマル武道会篇」は第一部を締めくくる凄まじい戦いを勝ち抜き、主人公が勝利する……はずであった。

 だが、諸事情により担当編集者が交代し、方針も大幅に転換。第一部でいきなり主人公が大勝利しては、長期間読者を引きつけることはできないとの意図から、強敵「シュウインカイサンソウセンキョ」が登場。その圧倒的な破壊力で、主人公たちの戦いの舞台ごと消し飛ばされるという無茶ぶりな展開で終了した第一部は、読者の間でも賛否両論となり、「ジョセイカツヤク」の人気も一時低迷した。

 ようやく人気が回復したのは翌15年のこと。今度は、「熱闘! ジョセイカツヤクスイシンホウ銀河戦争篇」のラストに主人公は勝利し、大団円を迎えた……はずが、サイドストーリー「ハケンホウの逆襲篇」が始まり、物語は不穏な様相を呈していく。

 さらに、「イチオクソウカツヤク」や「ハタラキカタカイカク」、さらには「ガイコクジンロウドウシャ」などの大きな伏線が仕掛けられても上手く回収できず、『ジョセイカツヤク』は読者人気投票でも順位を落とし、今では掲載順も後ろから数えたほうが早い。

 

内容が薄れていく「女性活躍推進法」

 

 ……先日発足した第4次安倍改造内閣を見ていて、ついこんな妄想が浮かんでしまった。「女性活躍」は、「女性活躍推進法案14年」が、衆院解散総選挙で頓挫してから、内閣改造を経るごとに存在感が薄くなっているように見えるからだ。

 14年に打ち出された「成長戦略としての女性活躍推進」の目玉は、「20年までに指導的な立場の女性を30%に」という、いわゆる「ニイマルサンマル」であったことは記憶に新しい。

 だが、15年12月末に決定された第4次男女共同参画基本計画案「あらゆる分野における女性の活躍」では、指導的地位の女性の占める割合の数値目標は下方修正された。

 例えば、国家公務員は本省課室長相当職は、7%(当時3.5%)、都道府県職員の本庁課長相当職15%(同8.5%)、民間企業の課長相当職15%(同9.2%)等となった。

 他の先進諸国では、もはや管理職に占める女性割合は「3割4割当たり前!」という、昔の家電量販店の値引きのような状況であるのに比して、寂しい数値と言わざるを得ない。

 さらにこの国の女性政策は、エリート女性をショーウィンドーに飾りつける法律と同時に、多数派の女性を使い捨て労働者にするような法律がセット販売で成立していく点も残念だ。

 

「女性活躍」は始まったばかりと言うものの….

 

 86年に、男女雇用機会均等法と労働者派遣法が施行。99年には雇用機会均等法改正と派遣法改正が行われ、派遣業種拡大となった。

 2015年の女性活躍推進法成立直後に派遣法も改正され、企業は人を替えれば派遣労働者を使い続けられる「抜け道」などが問題視されている。

 1985年に女性従業員に占める正規雇用割合は7割だったが、現在は非正規が6割となり、もはや多数派だ。日本で女性が非正規、ないしは正規雇用でもキャリアアップの道が閉ざされた「周辺労働」へと押しやられがちな傾向は、「主流労働者は会社村の住人」というメンバーシップ型雇用の影響が大きい。

 この女性労働の低生産性は、日本の時間当たり労働生産性が首位のアイスランドやルクセンブルクなどの「半分以下」という、惨憺たる数値の大きな要因でもあるのだが……。

 さて、結局安倍政権の「女性活躍」は、当初神龍を呼び出すがごときマジックワードとして話題を呼んだが、結局は竜頭蛇尾に終わりそうである。

 そもそも、足下の国会議員の女性割合は衆院で10.1%と、極めて低水準。18年5月に「候補者男女均等法」が成立したが、実効性は不確かだ。本気で「女性活躍」に乗り出すならば、政府与党が率先して女性議員や閣僚を増やして見せることが妥当と考えられるが、現状は真逆である。

 それどころか、今回の第4次安倍改造内閣で、女性閣僚は片山さつき地方創生相ただ一人となった。

 安倍総理は記者会見で「なぜこんなに女性閣僚が少ないのか」との質問を受け、「女性活躍はまだ始まったばかり」と答えたが……。筆者には、「俺たちの戦いはこれからだ!」という主人公の台詞とともに、事実上打ち切りになる連載漫画のように見えてしまった。

 

ストーリー構成の問題点―ブレる「女性活躍」のキャラ設定

 

 根本的な原因は、政府の「ストーリー構成(=国づくりのビジョン)」が、今なお「女性活躍」のキャラを決めかねている点にある。

 政策理念の基盤にある保守的な家族観を前提に、女性に「仕事も旧来の家庭責任も」と迫る「いいとこどり」の志向性は根強く、これでは当の女性たちも混乱し、結果企業も女性社員のパフォーマンスを引き出すことが困難になってしまう。

 もっとも、そうこうするうちに現実の就労の場では、「女性が働きやすい職場づくり」から、本格的に「女性の戦力化」へと舵を切る企業も増加中である。典型例は、2015年に子育て中の女性美容部員にも休日や遅番を課すことを決断した、資生堂の事例だろう。

 北欧など高福祉国では、女性の就労時間が伸びると、それにつれ男性の労働時間は短くなる。女性の社会進出は、男性の家庭進出を伴うのだ。

 必要なのは、「いいとこどり」の女性活躍ではなく男性も含めた「就労・家庭生活・余暇」の再編ではないのだろうか。

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

自動車産業・産業機械の世界的サプライヤー、シェフラーグループの日本法人で2006年イナベアリングとエフ・エー・ジー・ジャパンが合併して設立。国内4拠点で自動車エンジン、トランスミッション、シャーシなど精密部品、産業機械事業を展開する。文=榎本正義四元伸三・シェフラージャパン代表取締役・マネージング…

シェフラージャパン代表取締役 マネージング・ディレクター 四元伸三氏

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

【特集】2019年注目企業30

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

チェ・ゲバラに憧れた10代起業家が目指す「働き方革命」― 谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長

高校中退、ITスキルなしの17歳の青年が立ち上げた会社が、わずか2年で利用企業約500社、ユーザー約6万人のアプリを運営するまでに成長している。「世の中を変えたい」という思いを原動力に突っ走る谷口怜央・Wakrak(ワクラク)社長に話を聞いた。(取材・文=吉田浩)谷口怜央氏プロフィール…

Wakrak(ワクラク)社長 谷口怜央氏

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年6月号
[特集] 進化するリーダーシップ
  • ・あなたは北風、それとも太陽?
  • ・小路明善(アサヒグループホールディングス社長兼CEO)
  • ・鈴木貴子(エステー社長)
  • ・千葉光太郎(ジャパン マリンユナイテッド社長)
  • ・二木謙一(國學院大學名誉教授)
[Special Interview]

 中村邦晴(住友商事会長)

 「正々堂々と向き合えば、仕事は人を幸せにする」

[NEWS REPORT]

◆パイオニアに続きJDIも 中国に買われる日本企業の悲哀

◆会社はだれのものなのか サイボウズと株主がつくる“共犯関係”

◆24時間営業はどこへ行く コンビニ業界未来予想図

◆トヨタとホンダが手を組み参戦 「MaaS戦争」いよいよ勃発

[特集2]ブランド戦略 新時代

 技術やデザインだけではない ブランドとは商品の哲学だ

ページ上部へ戻る