政治・経済

1999年、第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行は「わが国を代表し世界の五指に入る強力なプレーヤーとなる」目標を掲げ、新たな金融グループ設立を発表した。あれからちょうど20年。みずほFGは今、LINEと組み、新たな銀行を立ち上げようとしている。文=和田一樹

 

LINEとみずほFGが提携した経緯

 

行き詰まるみずほの次の一手

 みずほフィナンシャルグループは11月27日、通話アプリ大手のLINEと新たなネット銀行「LINE Bank」を設立する計画を発表した。LINE傘下のLINEフィナンシャルが51%、みずほ銀行が49%を出資し、合弁会社を設立。新銀行の立ち上げに向けた準備を始める。2019年春にも準備会社を設け、関係当局の許認可を得たうえで20年の開業を目指すという。

 1994年にマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が「銀行の機能は必要だが、いまの形の銀行は消えてなくなる」と予言したように、新たな技術を取り入れ、銀行業が大きく姿を変え始めている。

 銀行業が姿を変えつつある背景には、金融政策と日本社会の構造変化によって厳しさを増す現実がある。

 速水優・日銀総裁(当時)が「金利はゼロでも良い」と言った99年以来、日本では長らくゼロ金利政策が続いてきた。そして2016年1月からはマイナス金利に突入。この状況では、銀行の収入にとって基本であるはずの資金利益は伸びないどころか、減少を続ける一方だ。加えて、日本は人口と企業数が共に減少を続けている。そのため預金を集め、貸し出しや運用で稼ぐ従来の銀行のビジネスモデルは機能不全に陥った。

 メガバンクも例外ではない。その苦戦ぶりは口座開設数にも表れている。「みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行の3メガバンクを合計した口座開設数よりも、ネット銀行の方が多い時代に来ている。10年前にこの状況を予想していたかといえばそうではない。時代の変遷に合わせて、われわれが持っているものを活用する」(みずほFG・岡部俊胤副社長)

 激変する環境のなか、銀行は抜本的な構造改革を迫られており、メガバンクは揃って人員と店舗数の削減を打ち出した。インターネットが普及した影響などで実店舗を訪れる利用者が激減していることを考えれば、拠点数を減少させることも自然な流れかもしれない。人員削減も、バブル期に大量採用した層を整理し、現在の経営状況に合わせて最適化をするためと考えれば当然の経営判断ともいえる。

 ただし、人員削減の規模があまりにも大きい。三菱UFJFGは「23年度までに三菱UFJ銀行で従業員全体の8分の1にあたる6千人の削減」、三井住友FGは「19年度までに4千人分の事務作業削減」と、それぞれ削減計画を進めている。

 中でもみずほFGは、26年度までに1万9千人を削減する人員・業務削減計画を打ち出した。新卒の採用に関しても19年春の採用を18年の半数程度にまで縮小する予定だ。店舗数も、約500ある国内拠点の数を400程度にまで削減するとしている。

 1万9千人というのは、従業員全体の4分の1に相当する数字だ。みずほの削減規模の大きさは、同行が置かれた立場を物語る。

LINEとの提携に起死回生を懸けるみずほ

 業績からもみずほの苦戦は明らかだ。18年3月期決算の最終利益は、三菱UFJFGが9896億円。三井住友FGは7343億円。前年同期から、それぞれ6・8%と3・9%の増益。対してみずほFGは5765億円で4・5%の減益だった。みずほと上位2行の差は開くばかりだ。

 そこでみずほが打ち出した起死回生策がLINEとの提携だった。提携の意図について、岡部副社長は「若い方が便利に早く使えるようなサービスを考えるべきであり、それを期待してLINEとアライアンスを組む」と語った。みずほFGとしては、LINEの顧客基盤を、これまで攻めあぐねてきた若い世代との接点構築に生かす狙いがある。

 メガバンクが異業種と組んだ例はこれまでにもあった。三井住友FGはヤフーと組んでジャパンネット銀行を開業し、三菱UFJ銀行はKDDIと合弁でじぶん銀行を設立している。みずほFGとLINEの提携が、ジャパンネット銀行、じぶん銀行と異なるのは、銀行業以外への相乗効果の大きさだろう。

 

LINEとみずほの提携は業界地図を書き換えるか?

 

利用客の囲い込みを狙うLINE

 LINEは、18年1月に金融子会社として「LINEフィナンシャル」を立ち上げ、既存の事業者と組むやり方で金融事業全般を強化してきた。

 例えば野村HDと提携して証券取引サービスを開始し、損保ジャパン日本興亜とは保険の販売を開始した。モバイル決済の分野では「LINEPay」を開始。提携する店舗やオンライン上のサービスで決済が可能なのはもちろんのこと、メッセージアプリ「LINE」を通じて個人間での送金もできる。14年のサービス開始以来、順調に利用者を増やし18年6月には世界での流通総額が約1300億円を突破したことを発表するなど、存在感を増している。

 それ以外にも、投資、家計簿に至るまで金融サービスを幅広く手掛け、会見では個人向けの無担保ローンとスコアリングのサービスも発表するなど、およそ金融業にかかわるすべての領域で拡大を続けている。

 LINEがここまで幅広く事業を展開するのは、利用者を囲い込む狙いがある。メッセージアプリ「LINE」をプラットフォームとし、さまざまなサービスを提供していくことで、徐々に利用者の顧客情報が蓄積されていく。そして蓄積された情報を他の事業展開に生かすことでより質の高いサービスを提供し、新たな利用者の獲得につながる。こうして顧客基盤は大きくなっていく。

 会見でLINEの出澤剛社長は「LINEではさまざまな金融サービスを提供しているが、日常的に一番使用し、生活に密着しているのは銀行」と語った。顧客基盤の拡大を狙うLINEが銀行業に参入するのは当然の流れだ。

 銀行の機能には、金融仲介、信用創造、決済機能の3つがあるとされるが、それらを下支えするのは信頼だ。

 「LINEが金融ビジネスを展開していく中で、決済とセットでついてくるのが与信。みずほとしては、この部分を黒子としてサポートしていきたい」(みずほFG・岡部副社長)。みずほは銀行業のノウハウ、融資の審査や決済インフラの安全性、マネーロンダリング対策など、与信面から支えることになる。

 会見では具体的なサービスについては語らなかったものの、新銀行では店舗やATMを持たず低コストで運営できることに加えて、プラットフォームを活用した他のビジネスとの相乗効果も狙える。LINEが持つ膨大な顧客基盤とみずほ銀行が築いてきた信用力の組み合わせには大きな期待が寄せられる。

背に腹は代えられないみずほの覚悟

 しかしみずほFGからすれば、先に述べたLINEが展開するサービスは、既に自社が提供しているサービスと利用者が被る。この懸念に対して岡部副社長は「提供サービスで食い合いが起きることはない」と言い切った。

 しかしみずほは、モバイル決済サービスの分野で、18年にJR東日本と組んで「みずほwallet」を開始。他にも「Bankpay」という、QRコードを用いたサービスを他のメガバンクや地方の銀行と提携して進める準備もしている。

 また、信用スコア提供サービスは、17年からソフトバンクと組んで「Jスコア」の提供を始めた。これらの利用者層が全く被らないということはありえない。それでも「何もしないよりは、マイナスよりもプラスになることの方が大きい。お客さんのニーズは多様化しているので、利便性を高めるためにはいろいろなサービスを提供していく。

 そうしないと、これからの銀行は生き残れない」(みずほFG・岡部副社長)というのが実情だ。利用者は使いやすいサービスを選ぶ。選ばれるためには、より利便性の高いサービスを提供するしかない。多少の食い合いはやむを得ないということだろう。みずほFGの苦境ぶりと、巻き返しへの覚悟が感じられる。

 「現在の銀行、金融サービスは10年前、20年前に設計されたものをなんとかスマホやインターネットに対応させているような状態。われわれは5年後の当たり前を考え、5年後の銀行から逆算して、新しい金融サービスを作っていきたい」(LINE・出澤社長)

 一方のみずほは、ベンチャーと組むことで保守的な体質を変えようとしている。「新しい会社とアライアンスを組んでスピード感を変えていくためにも、いろんなことにチャレンジしていく必要がある」(みずほFG・岡部副社長)。

 みずほがLINEというITプラットフォーマーの大手と提携することで、旧来型のメガバンクを中心とした金融秩序を崩し、業界地図が書き変わる可能性がある。みずほの新たなチャレンジが始まった。

 

【LINE】の記事一覧はこちら

【みずほ】関連の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年7・8月合併号
[特集] 世界で売れるか!? 日本カルチャー
  • ・拡大のカギは「点」の活動を「面」にしていくこと
  • ・技術はあくまで手段。感動を生み出すことが市場を拓いていく 迫本淳一(松竹社長)
  • ・世界最大の中国市場 攻略のカギはどこにある!?
  • ・41カ所の海外店舗で和菓子の心を世界に 岡田憲明(源吉兆庵ホールディングス社長)
  • ・プロが認める商品として日本茶ブランドを構築 丸山慶太(丸山海苔店社長)
  • ・機能性とファッション性で再発見される地下足袋の魅力
  • ・日本を発信するビームス ジャパン 常設ショップ視野に海外でも販売
  • ・盆栽輸出量は16年で20倍 今や「BONSAI」は共通語
[Special Interview]

 大崎洋(吉本興業ホールディングス会長)

 数字じゃない存在意義が、より問われてくる

[NEWS REPORT]

◆アビガンで注目集める富士フイルム・医薬品事業の実力

◆100周年を襲ったコロナ禍 マツダは危機を乗り越えられるか

◆住宅から高級家具まで「ダボハゼ」ヤマダ電機の明日

◆抽選倍率100倍の超人気 シャープがマスク製造する真意

[特別企画]

 危機を乗り越える

◆緊急事態宣言で導入企業が激増 ビジネスチャットが変える働き方

◆在宅ワークの効率を上げる方法とストレスマネジメント

◆輸入依存の中国経済にコロナ禍がとどめの一撃 石 平(作家、中国問題評論家)

ページ上部へ戻る