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ハワイ観光の魅力と新たな可能性を追求する―エリック高畑(ハワイ州観光局局長)

成熟社会を迎え、子どもの教育、就職、働き方など、さまざまな面において、これまでのやり方が機能しなくなってきた日本。難病を抱えながら息子とともにハワイに移住し、事業家として成功を収めたイゲット千恵子氏が、これからの日本人に必要な、世界で生き抜く知恵と人生を豊かに送る方法について、ハワイのキーパーソンと語りつくす。

エリック高畑・ハワイ州観光局局長プロフィール

エリック高畑・ハワイ観光局局長

エリック高畑(えりっく・たかはた)1967年生まれ。米国ハワイ州出身。ハワイのアトラクション施設「シーライフパーク」にて、日本・韓国・中国マーケットを中心としたセールスマネージャーを務めた後、アトランティスアドベンチャーのアジア地区セールスマネージャーを経て独立。2002年から2008年まで、アラモアナセンターの日本マーケットにおけるPR・マーケティングを担当。2011年にハワイ州観光局の代表に就任し、ハワイ観光業の発展に取り組む。

 

エリック高畑氏がハワイ州観光局局長に就任するまでの経緯

エリック高畑氏の生まれ、育ち、教育は全てハワイ

イゲット:エリックさんはハーフですか?

エリック高畑(以下エリック):ハーフではないです。父が日系2世で、母が純粋な日本人で、生まれも育ちもハワイです。

イゲット:日本語はどうやって勉強したのですか?

エリック:母との会話が全て日本語でした。読み書きはコンピューターに頼っていますが、少しできます。学校・教育は完全にハワイなので、母国語は英語です。

イゲット:思考は英語なんですか?

エリック:そうですね。でも、7対3くらいで考え方やフィーリングは日本人に近いんですよ。3割くらいはアメリカ人みたいな部分があるので、うちの妻は日本人だから苦労しているんじゃないですかね。

観光・旅行業界の経験が活きる

イゲット:このお仕事は何年目ですか?

エリック:もう7年目ですね。2019年で8年目になります。

イゲット:ハワイ州観光局 局長に就任された経緯について教えてください。

エリック:以前はコンサルタントをしていました。このポジションは完全なアメリカ人、完全な日本人でない方が良いのではないか、と勝手に思っていました。自分には20年くらい、観光・旅行業界の経験もありましたし、向いているのではないかと。

学校を卒業後日本の会社に入る予定だったのですが、ちょうど湾岸戦争が起きてしまいそのポジションがなくなってしまい、落ち込んでハワイに戻ってきました。

もともとはプログラマーだったのですが、自分には合わないなとも思っていたところにちょうどヘッドハンターから連絡が入り、シーライフパークからの営業の仕事の紹介を受けました。やってみると営業が面白くて、性格も合っている気がしました。

イゲット:人と接するのがお好きなんですね。

エリック:そうですね。技術関連とかも嫌いではないんですが、どちらかと言えば営業の方が自分に合っていると思います。シーライフパークでは、旅行会社に向けての営業の仕事をしていました。

イゲット:もともと旅行業界とのつながりがあったんですね。

エリック:父がハワイのJALに勤めていたし、旅行業界のDNAというか、縁があったのかと思いますね。

エリック高畑・ハワイ観光局局長

「旅行業と縁があった」と語るエリック高畑氏

ハワイ州観光局とはどのような組織か

ハワイ州観光局の組織形態

イゲット:ハワイ州観光局はどこの所属になるのですか?

エリック:ハワイ州です。ハワイ州政府機関であるHTA(ハワイツーリズムオーソリティ)がハワイ州の観光戦略、施行を統括しています。その観光戦略に基づいてHTAは各地域のオペレーター、エキスパートに業務委託契約をしています。現在主要マーケットとして10地域のマーケティング会社と契約しているのですが、私の会社は日本マーケット全般の業務をHTAから委託され、業務を遂行しているのです。

日本は日本、韓国は韓国、中国は中国、各地域のエキスパートに業務を委託しています。たとえば韓国にはHTK、中国にはHTCがあって、業務委託している会社がビジネスを行うにあたって州から社名を借ります。ですから日本の中ではHTJという社名となっております。

イゲット:NPOではなくて会社なのですね。

ハワイ州観光局の予算規模

イゲット:予算はどこからおりるのですか?

エリック:ハワイ州からです。

イゲット:予算はあるけど売り上げは立てないのですか?

エリック:立てないんですよ。私たちは予算をどのように効率よく、結果重視に使うかとういうのを、前年の夏までにプランを立ててHTAに提出しなければなりません。ハワイ州の予算のため、数値などを全て分析した上で、トレンド、翌年の施策や予算をどういう風に使うかといったことを細かく分析して本局に説明します。

イゲット:日本で言ったら県とか市の観光局が、業務委託されて別会社がやってるみたいな感じ?

エリック:そういうことです。ちょっとややこしいんですが。

イゲット: 2018年はどの位の予算だったのですか?

エリック:毎年大体同じなのですが、全部で8百万ドルです。

イゲット:ちょっと大きすぎてわからないです(笑)。

エリック高畑氏のハワイ州観光局長としての仕事とは

ハワイと日本の顧客ニーズをバランスよくサポート

イゲット:エリックさんのお仕事内容を教えてください。

エリック:チームのメンバーはハワイオフィスに自分を入れて5人、東京オフィスは9人いてパートが1人います。オフィスのコストや従業員の給料、マーケティングまで予算内で全部コーディネートするのが自分の仕事です。

イゲット:ハワイオフィスと日本オフィスで、どの様に業務を分担していますか?

エリック:ハワイオフィスの仕事は、マーケティング戦略やセールス戦略を立ててステークホルダー(ホテル、アトラクション、航空会社等)とコミュニケーションを図りながらディレクションを出して行きます。日本オフィスは日本でイニシアチブのもとにプロジェクトを遂行しています。

イゲット:具体的には?

エリック:例えば、旅行会社の場合、支店がハワイ、本社が日本にあるのですが、企画や予算などについては本社のニーズが日本オフィスにリクエストとして上がってくるのですが、同会社でもハワイ支店のニーズは違ったりするのです。観光局として上手く双方のニーズを理解し、バランスを取りつつ、サポートする事が必要になります。

イゲット:仲介役ですね。胃が痛くなりそうですね。

エリック:双方の意見を理解し、どちらかの言い分に偏ってもいけない。このバランスを取るのが観光局の大きな1つの仕事なので、自分みたいにハワイと日本の両方を分かっている人間でないと、多分無理なんです。

ハワイ州観光局が分析する観光客のトレンド

イゲット:旅行者の傾向も変わってきているのでしょうか?

エリック:日本人観光客は、結構アメリカナイズされてきていますね。パッケージツアーでの利用よりもFITという個人旅行をアレンジされる日本人観光客が増加しています。

イゲット:昔のパッケージの人達と違って、自分達で直接ブッキングする場合、金額に差はありますか?

エリック:差はあまりなくなってきつつあります。なぜなら、航空会社、ホテルはウェブサイトなどを強化し、直接のブッキングができる環境を整えたことも要因にあります。

イゲット:ハワイに観光にこられる方たちの年齢層は?

エリック: 30代半ばから50代が1番多い年齢層です。

イゲット:若い人が少ないんですね。物価が高いのも関係していますか?

エリック:旅行先として、他の競合方面と比較した場合、パッケージでいくとハワイが1番高い傾向にあります。あとは若い人たちの間では「ハワイ旅行は今じゃなくても良いのでは?」という風潮があり、結婚する際にとか、家族ができてからとか後回しになっている感はあると思います。そのため、若年層を誘致する案として、エンターテイメント性のあるものを大きな施策の1つとしています。例えば2014年に男性アイドルグループを呼びました。一度ハワイにくるきっかけを作って、その後リピーターになってもらう策です。

イゲット:今年は来ないのですか?

エリック:2018年は残念ながらないのですが、面白い企画はどんどん取り上げていくつもりです。前回は旅行会社もがっつり絡み、HIS、JALパック、JTBの3社の旅行会社が、メインでオペレーションしていただきました。

若年層はハワイで何を体験できるか、何を経験できるかを重要視しています。ハイキング、グランピング(ホテル並みの設備やサービスを利用して自然の中で快適に過ごすキャンプ)、トレイルラン(不整地を走るランニングスポーツ)、トレッキング(山歩き)等に興味を持っているのが若年層の1つのトレンドです。旅行先で自分達が体験したことを、SNSを使って拡散しているようです。なので、若年層にアピールできるような経験を様々な所とコラボレーションし、「こういう体験ができますよ」というアピールを、SNSでシェアしもらえるように呼びかけています。

イゲット:なるほど。有名なマーケッターと絡んだ方が反響がありそうですね。

エリック高畑氏とハワイの観光業について語るイゲット千恵子氏(右)

ハワイの観光産業全体の課題と改善点 

現地住民と観光客のバランスをどうとるか

イゲット:今後ハワイの観光産業全体で、何か改善するべき点はありますか?

エリック:インターネットの環境を良くすることでしょうかね。あとは、これから出てくる問題なのですが、現地住民と観光客のバランスです。現地住民は観光客に対して「来なくても良い」というような考えを持つ人も一部で存在します。島なので観光客がたくさんきて凄く混み合ってしまい迷惑になると思っている人々もいます。

現地の人たちから見ると、観光客は自分たち大切なハワイを壊して帰っていくだけ。観光客が来てくれるのは良いけど、施設・サービスの改善ため投資・開発が行われ、自然や緑がどんどん減るんじゃないかと心配する声もあります。

イゲット:私も教育ビジネスを日本でやっていて、アメリカの新しいことを取り入れていますが、エコで自然を守るという教育のベースは少ない気がします。そこをもう少し増やして、環境に良いビジネスを開発するとか、美しいハワイをキープするための教育とか、意識を持たせる教育が必要ではないかと思います。

エリック:それはもちろん理想なのですが、先日アンケートを取ったら、観光客の方から「ハワイに行くときは完全にリラックスしたいのに、なぜ勉強しなくちゃいけないのか」 という意見がありました。その辺のバランスをどうとるのか、またどのようなメッセージングを送るのかが今後の課題です。

教育旅行のニーズ増加に期待

イゲット:でも、若い人は伸びるじゃないですか。そこに教育授業を持ってくれば。

エリック:おっしゃる通りです。親からしたら「ハワイに行ったら、アラモアナセンター行ってお土産買って、ビーチで遊ぶのでしょう」というイメージがあります。「ハワイは勉強をする所ですよ」というアピールも弊局から旅行会社と手を組んでマーケティングして、教育旅行の1つの方法として考案しています。

子供の頃にハワイに来ると、自然に触れ会えたりできる良い場所というのが分かると思います。エンターテインメントでも教育旅行でも、何でも良いから来てもらって、将来彼らにはハワイのリピーターになってもらいたいですね。

エリック高畑氏とハワイ州観光局の今後の取り組み

リピーター、新規顧客開拓のためのさまざまなイベントを開催

イゲット:VRを使用したイベントも行っていますね。

エリック:VRは今さまざまな所で使われていますが、技術、テクノロジーをたくさん使って、ハワイの良さをイベントなどで宣伝していきたいです。

イゲット:日本でのハワイイベントは年間どれくらいでしょうか?

エリック:ハワイ州観光局が主催するイベントが年間で4、5件くらい。また、日本で開催されるハワイイベントを200件以上後援しています。

イゲット:すごい数ですね。

エリック:あとは、ハワイエキスポというイベントを毎年日本で開催しています。2018年は札幌で開催し、かなりの反響をいただきました。

イゲット:新規顧客開拓みたいな形でしょうか。

エリック:その通りです。

イゲット:ハワイエキスポでは何をやるのですか?

エリック:3日間のエキスポなので、ハワイからのパートナーブースや、飲食、物販、旅行会社等も参加いただき、一緒にハワイを一般コンシューマーにプロモーションさせていただいています。まだ未定ですが2019年初夏を予定しています。

2019年以降に力を入れることとは

イゲット: 2019年以降、取り組みたいことは?

エリック:団体旅行、グループは特に注力して行きたいですね。

イゲット:今は団体旅行が減っているからですか? 企業のインセンティブ旅行とかは増えていないですか。

エリック:増えているところもあるんですけど、全体的には落ちています。団体関連で動きが活発なのがインセンティブ旅行や学会、あとはマルチレベルマーケティングの団体とかです。あとは大学、病院、会社の慰安旅行などです。

イゲット:個人だとウエディングも多いですか?

エリック:ロマンスも可能性のある分野だと思っています。少子化もあり挙式を行うカップルが減少傾向にある中、ハワイは海外挙式の68%を占めていて、同行者も多く、今後のプロモーション次第で伸びる可能性のあるものだと思っています。あとは若年層に来てもらってリピーターになってほしいです。VRやソーシャルメディアなど、テクノロジーを利用し誘致を図ります。

イゲット:これからも新しいことを提案し続けていくのでしょうかね。これからが楽しみなお仕事ですね!

エリック:好きでやっているので本当に楽しいです。どんどん提案していきます。

イゲット千恵子(いげっと・ちえこ)(Beauti Therapy LLC社長)。大学卒業後、外資系企業勤務を経てネイルサロンを開業。14年前にハワイに移住し、5年前に起業。敏感肌専門のエステサロン、化粧品会社、美容スクール、通販サイト経営、セミナー、講演活動、教育移住コンサルタントなどをしながら世界を周り、バイリンガルの子供を国際ビジネスマンに育成中。2017年4月『経営者を育てハワイの親 労働者を育てる日本の親』(経済界)を上梓。

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