政治・経済

 「素材産業は日本のリーディング・インダストリー」と位置づけた経済産業省は、組織改正を行い、素材産業の育成・発展に本腰を入れ始めた。最先端素材における日本の技術力は誰もが認めるところだが、これを維持し、世界に先んじるための取り組みが始まった。

 

経産省が素材産業を支援する背景

 

 素材産業が日本の製造業の未来を担っていることは、経産省の対応からもうかがえる。

 2016年6月、経産省は組織改正を行い、製造産業局を再編、新たに素材産業課を新設した。

 これまで繊維課に属していた炭素繊維を素材産業課に組み込むなど、先端素材をひとつにまとめることで、複合材などの先端素材を一括して支援できる体制に整えた。

 これまで戦後の日本の産業は、繊維から始まり、造船、自動車、電機産業が牽引役となり成長を続けてきたが、それを支えてきたのが鉄鋼や化学などの素材産業だった。

 例えば一時、半導体や液晶パネルなどで日本が世界で圧倒的ポジションを得た背景には、機能性化学製品があったからこそ可能だった。

 しかし進展するデジタル革命により、企業の経営環境は大きく変化しており、顧客のニーズはますます多様化している。

 最近の顧客ニーズは、単なる機能ではなく、ソリューションを求めるなど、新たな取り組みが必要となっている。経産省としてもそれに対応しようということだ。

経産省

素材産業に力を入れる経産省

 

素材産業は日本のリーディング産業

 

 その素材産業課は、昨年、「素材産業におけるイノベーションの役割と期待」というレポートを発表している。

 ここでは素材産業を「我が国のリーディング・インダストリー」と位置づけている。中でも機能性化学品は、世界市場は約50兆円あり、リチウムイオン電池や液晶ディスプレーの素材に用いられる電子材料などで日本企業は高いシェアを有している。

 例えば液晶ディスプレーに使う偏光フィルムでは、日本メーカーが世界シェアの10割を占める。またガラス基板では5割、偏光板では6割、ブラックレジストで7割、カラーレジスト7割など、いずれも高い占有率を誇る。

 液晶ディスプレーそのものでは、日本企業の凋落は激しい。10年ほど前まではシャープを筆頭に高いシェアを維持していたが、現在ではサムスン以下、中韓メーカーの後塵を拝している。

 起死回生策として、日立、東芝、ソニーの液晶部門を統合し「日の丸連合」としてスタートしたジャパンディスプレイ(JDI)も、経営不振から抜け出せず、先日、台湾の電子部品メーカーなどで構成される台中連合の傘下に入ることが決まったばかりだ。

 しかしその液晶ディスプレーを構成する部品は、前述のようにメードインジャパンで占められている。

 その一方で、「ユーザー側の製品サイクルの短期化や、市場規模の拡大に伴う新興国メーカーの参入と積極的な投資など、機能性素材を巡る環境変化が起きており、それにより日系企業のポジションが変化している」とも記している。

 一例を挙げれば、2008年には8割ほどあったリチウムイオン電池に占める日系企業比率が、最近では5割を切っている。この傾向は、他の機能性素材についても当てはまる。

 では今後も優位性を保つにはどうするか。経産省は「ユーザー産業ニーズへの迅速な対応やそれらを先取りした開発提案を可能とするイノベーションの質とスピードの高度化」「増大する研究開発費用や設備投資に対応できる企業体力の確保」の2点が必要だと指摘する。

 

経産省が進める素材大国への道

 

 そのうえで「素材イノベーションの高度化のためには素材開発の質とスピードを上げるオープンイノベーションの取り組みや素材側から社会変革をもたらす新素材の創出・提案力の強化が必要」として、具体的には(1)ユーザーとの垂直統合による新素材開発の加速化(2)Society5.0につながるコネクテッド・インダストリー(3)素材イノベーションエコシステムの確立――への取り組みを呼び掛けている。

 「ユーザーとの垂直統合」とは、素材開発段階から、ユーザーと連携し、一体となって開発するということだ。自動車産業などでは、部品メーカーは組み立てメーカーと一体になって開発・製造を行う。それが日本の自動車産業の強さにつながっていた。素材においてもこうした取り組みが必要だというのだ。またこうした取り組みに対しては、経産省としても積極的に予算を投じている。

 その一例が次世代車載用蓄電池の開発事業で、現行のリチウムイオン電池の性能を大幅に上回る電池を開発するため、素材メーカー、電池メーカー、自動車メーカーが連携して取り組んでいるが、これに対しては47億円の予算がついた。また、自動車の軽量化につながる新素材の開発にも約40億円の予算を割り当てている。

 「Society5.0につながるコネクテッド・インダストリー」は説明が必要だ。

 まず「Society5.0」は、政府や経団連が唱える日本の成長戦略の根幹で、IoTやAI、ビッグデータやロボットなど、最先端のデジタル技術を駆使することで、生活や社会の課題を解決し、効率的に生産性を高めていこうというものだ。一方、「コネクテッド・インダストリー」とは、ヒト(人材)・カネ(資金)・モノ(技術)に加えて、データや情報が新たな経営資源になる時代における産業像だ。

 一見、素材産業と関係ないようにも思えるが、これからはさまざまな業種、企業、人、データ、機械などがつながって新たな付加価値や製品・サービスを創出する時代となる。

 日本はこれまでの技術の蓄積というリアルデータが膨大にある。これを共有・活用することで、開発スピードを加速できるとともに、素材側からの価値提案力の強化も可能となる。

 経産省の取り組みとしては、超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクトが動いており、有機機能性材料メーカーと計算機科学エキスパートの本格的コラボレーションを行い、材料設計、プロセス、解析技術にスパコンやAIを駆使することで、開発期間・試作回数を従来の20分の1に短縮することを目指す。

 素材の研究から商品化までには10年前後の長い時間が必要だが、それを大幅に短縮できる可能性がある。このプロジェクトには先端素材メーカー18社が参加していることからも、注目度の高さが分かる。

 3番目の「エコシステムの確立」とは、オープンイノベーションによって産官学の広い範囲からアイデアを集め、事業化するとともに、ベンチャーの育成を支援しようというものだ。産業革新機構のスピンアウトファンドとして創設された「ユニバーサル マテリアルズ インキュベーター」が、シーズ企業に出資、サポートを行っていく。

 以上見てきたように、高機能素材を開発する環境は整ってきた。では、日本の強みをどう引き出していくのか次の課題だ。

 

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