テクノロジー

宇宙ビジネスの領域にスタートアップ企業や宇宙を本業としていない大企業などの参入が増えてきた。本記事では、そんな宇宙ビジネスの最新動向と注目のスタートアップ企業について紹介する。(文=唐島明子)(『経済界』2019年10月号より転載) 

 

民間の力が増す宇宙ビジネス

 

 梅雨寒の2019年7月9日、東京・港区にある虎ノ門ヒルズフォーラムでは、宇宙ビジネスのカンファレンス「SPACETIDE 2019」(主催・一般社団法人スペースタイド)が開催されていた。宇宙スタートアップ、大企業、投資家、行政、研究機関、大学、法律家など、約700人の宇宙ビジネス関係者が集まり、立ち見のセッションがでるほどの賑わいだった。

 「世界の宇宙業界では『宇宙ビジネス革命』が起きています」――。スペースタイドの石田真康CEOはオープニングの冒頭でこう述べた。

 宇宙開発といえば、従来は国が予算を付け、JAXAや三菱重工業、IHI、川崎重工業など、一部の研究開発機関や大企業が担っていた。

 しかし最近では、デジタル技術やAI、ロボティクスなどが宇宙開発の分野にも流入しており、これを商機ととらえたスタートアップ、そして宇宙を本業としていない大企業などが新たに宇宙ビジネスに参入。さらに民間VCも宇宙スタートアップに投資するなど、宇宙ビジネスでは民間の力が大きくなってきている。

 

約40のスタートアップが参入し20年にはエグジット企業も

 

 日ごろから宇宙との接点がないビジネスマンにとっては、“宇宙ビジネス”と聞いても具体的にどのようなビジネスが展開されるのか想像しがたいかもしれない。石田氏によれば、宇宙ビジネスには左ページの図表にあるように6つの事業領域があり、日本では05年以降、約40社のスタートアップが立ち上がっている。

 「20年にはIPOする日本の宇宙スタートアップも出てきます。楽しみにしていてください」。VCの投資家からはこんな話題も出ている。

 未来のテクノロジーという印象が強い宇宙ビジネスだが、いよいよ現実のものとなりはじめてきた。その具体的なイメージをつかむためにも、ここから注目の宇宙スタートアップを紹介しよう。

 

注目の宇宙ビジネス4社

 

[シンスペクティブ]夜や悪天候でも地表撮影 3年後にはアジアを毎日観測

新井元行・シンスペクティブCEO

新井元行・シンスペクティブCEO

 衛星データの解析やSAR衛星の開発・運用を行うシンスペクティブは、6つの事業領域の中では「宇宙データ・技術利活用」にあてはまる。今年7月26日にシリーズAとして、VCのエースタートやジャフコ、清水建設などから合計86.7億円の資金調達を行い、18年2月に創業してからの資金調達額は累計109億円を超えた。

 これまで宇宙スタートアップの資金調達といえば、INCJ(旧産業革新機構)など政府系ファンドが主導してきたが、今回の調達は民間VCや大企業が中心となっており、民間主導の流れが強まってきたことが見て取れる。

 同社が開発しているSAR衛星のSARとは、合成開口レーダーを意味するSynthetic Aperture Radarの略称。SARは地球に電波を照射し、そこから戻ってくる電波を分析して地表の形状等を測定する。光学式のカメラとは異なり曇りの日や夜間でも地上を撮影できるのが強みだ。

 シンスペクティブは、20年前半にプロトタイプのSAR衛星を打ち上げ、22年までに6基体制、将来的には25基体制にする計画を立てている。新井元行CEOは「22年にはアジアの大都市を毎日観測できるようにしたい」と語る。

 観測した衛星画像データからは、地球上の人工物の状況などを確認できることから、インフラ開発や災害状況のモニタリングなどでの活用が見込まれている。

[アストロスケール]スペースデブリ除去で持続可能な宇宙開発を

岡田光信・アストロスケールCEO

岡田光信・アストロスケールCEO

 雑誌『フォーブスジャパン』の日本起業家ランキング2019で1位に選ばれた岡田光信氏は、13年5月、スペースデブリ(宇宙ゴミ)除去サービスの開発に取り組むアストロスケールを起業した。今年4月にはシリーズDとして、約33億円を追加調達したと発表。合計調達額は累計で約146億円に達する。

 同社のビジネスは、「軌道上サービス」になる。宇宙の軌道上には、壊れたり使い終わった人工衛星、そしてロケットから剥がれ落ちた塗装などのスペースデブリが存在している。そのデブリの状況について、岡田氏は「大きいものだけでも3万4千個以上あります。本当に飛んでいる人工衛星は約2千基ですので、宇宙にある物体の95%以上がデブリです」と説明する。これらのデブリが人工衛星と衝突すれば、大事故につながる危険性が高い。

 アストロスケールのビジネスを実現するには、デブリ除去衛星の開発から始まり、ビジネスモデルの構築、法規制など、大きな壁を乗り越えなければならない。同社は20年前半にはデブリ除去衛星実証機を打ち上げる予定で、現在は「最終テストを行っている段階」(岡田氏)だという。

[GITAI]宇宙で働くロボットの作業コストを10分の1に

中ノ瀬翔・GITAI CEO

中ノ瀬翔・GITAI CEO

 「ロボット技術を使って、宇宙の作業コストを10分の1に下げることにチャレンジしています」。16年7月に起業したGITAIについてこう説明するのは、同社の中ノ瀬翔CEOだ。GITAIのビジネスは、「探査・資源開発」の事業領域に含まれる。

 中ノ瀬氏によれば、宇宙飛行士にかかるコストは1時間あたり5万ドル(約540万円)と非常に高い。その理由は宇宙までの交通費がかさむためで、1回の打ち上げコストが高いのはもちろん、人間は3カ月程度で地球へ戻ってこなければならず、打ち上げ回数も必要になる。そこで国際宇宙ステーションなどで人間が行う作業をロボットで代替できれば、宇宙での作業コストを抑えられる。

 同社は18年12月、宇宙飛行士の作業をGITAIが開発しているロボットで代替できるか、JAXAの宇宙ステーションの模擬環境で実験した。ステーション内はロボットのことを全く考慮していないインターフェイスのため、人間には簡単な操作でもロボットにとっては非常に難しい。だが、GITAIのロボットは、スイッチ操作や細かい工具を扱う操作など、18項目中13項目(72%)の作業に成功した。

 同社は今年に入り、JAXAと今年度内の共同研究契約を締結し、スカパーJSATと業務提携の検討を開始した。中ノ瀬氏は「宇宙飛行士がやっているような仕事をできるロボットはまだ存在しませんが、私たちが実現します」と意気込む。

[インターステラテクノロジズ]MOMO打ち上げ成功の次は衛星の軌道投入サービスへ

稲川貴大・インターステラテクノロジズCEO

稲川貴大・インターステラテクノロジズCEO

 「輸送」領域の宇宙スタートアップには、ホリエモンロケットでも有名なインターステラテクノロジズがある。同社は高頻度で宇宙へ荷物を運ぶことを目的に、小型ロケットの開発・製造を行っている。

 開発しているのは観測ロケット「MOMO」と軌道投入ロケット「ZERO」だ。重力などを測定する実験機器を搭載したMOMOは、高度100キロの宇宙空間まで行き、実験機器はパラシュートで落下させる。ZEROは人工衛星を搭載し、それを地球周回軌道に投入するロケットで、商用サービス展開を目指して開発を進めている。

 今年7月27日に行われたMOMO4号機の打ち上げは失敗したが、その前の5月4日に打ち上げられたMOMO3号機は、民間単独で開発・製造したロケットとして日本で初めて宇宙空間への到達に成功した。「観測ロケットの技術実証ができたというのが現在のステータス。今後の目標は打ち上げの商業化で、これからビジネスが回り始める見込みです」と、インターステラテクノロジズの稲川貴大CEOは説明する。

 小型衛星の打ち上げ需要は高まっている。例えば前述のシンスペクティブは、将来的には25基の小型衛星の打ち上げをしようと計画している。またソフトバンクが投資していることでも知られているOneWebは、衛星通信でブロードバンドを提供することを目的に、約650基もの小型衛星を打ち上げようとしている。インターステラテクノロジズは、MOMO3号機の成功を足がかりにZEROの開発を進め、23年には小型衛星の商用打ち上げサービスへ参入したい考えだ。

 

【インタビュー】石田真康・スペースタイドCEOに聞く「リアリティ増す宇宙ビジネス」

 

石田真康・スペースタイドCEO

いしだ・まさやす A・T・カーニーのプリンシパルとして宇宙業界やハイテク・IT業界などを担当。日本発の民間宇宙ビジネスカンファレンスの運営を手掛けるスペースタイドを立ち上げた。

―― スペースタイドを立ち上げた理由を教えてください。

石田 スペースタイドを立ち上げたのは2015年です。当時から日本にも宇宙スタートアップはいましたが、それぞれが頑張っているけれど横のつながりがなかったり、なかなか注目を集められずにいました。

 米国ではニュースペース・カンファレンスというのが毎年西海岸で開催されており、そこには大手の宇宙企業から新しい宇宙スタートアップ、投資家、法律の専門家など、宇宙関係者が全員集まります。そういう“結集軸”のようなものを日本に作れば、そこが起点となり、個々の活動が企業を超えて産業や社会的なものになるのではと思いました。

 今年で4回目となるスペースタイドのカンファレンスには、政府や研究機関だけではなく、起業家、投資家、大手企業のマーケティング、大学、法律家など、さまざまな分野の方が来てくれています。

―― 日本の宇宙スタートアップの強みはどこにありますか。

石田 日本の宇宙スタートアップは約40社で、米国は約1千社だといわれています。数はまだ少ないですが、あらゆる宇宙ビジネスの事業分野に分散しています。

 宇宙に重くて大きいものを打ち上げるのは輸送費がかかりますので、小型化や精密さなど、日本のモノづくりの強みが活きる分野です。月面探査車や小型衛星などがその例です。

 また、「大型ロケットを作ります」とか、「数千基の衛星を打ち上げます」とか、パワーゲームは米国や中国、欧州が強いです。しかし、例えば宇宙ゴミ除去のアストロスケールのように、日本はニッチな領域で尖った考え方とビジョンを打ち出してやっていると思います。

―― これからの日本の宇宙ビジネスに求められることは何ですか。

石田 宇宙ビジネスはリアリティが増していて、少しずつビジネスになってきています。これから大事なのは事業開発です。需要をどう作っていくか。そこがうまく回れば売り上げが立ち、次のステージが見えます。

 日本の宇宙ビジネスの特徴として、これまで宇宙に関係のなかった商社や自動車メーカー、デバイスメーカー、航空会社など、幅広い企業が宇宙に投資していることが挙げられます。それらの企業がユーザーになる可能性があります。

 また真空や熱、放射能などの物理特性がある宇宙空間でのノウハウは、JAXAや航空宇宙産業に携わってきた大企業しか持っていません。IT業界では「スタートアップ頑張れ、レガシーを倒せ」という雰囲気があるかもしれませんが、宇宙ではレガシーとスタートアップが一緒になって、新しいビジネスを育てていく必要があります。

 

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