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問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

ビジネスモデルを見直すコンビニ業界

24時間営業の見直しが進むコンビニエンスストア。誕生から半世紀近くが過ぎ、ビジネスモデルが変わろうとしている。一方、躍進が続くのがドラッグストア業界。10年後にはコンビニとドラッグの市場規模が肩を並べる可能性もある。小売りの盟主の座は逆転するのか。文=ジャーナリスト/下田健司(『経済界』2020年1月号より転載

ビジネスモデルを見直すコンビニ業界

コンビニとドラッグストア

消費者にとって最も身近にある小売業、コンビニエンスストアとドラッグストア。両者は国内小売業界の中で成長を続ける代表的な業態だ。市場規模はコンビニが11兆円、ドラッグが7兆円強。いずれも右肩上がりで市場を拡大している。

大手スーパーなどが加盟する日本チェーンストア協会会員企業の全店売上高はこの10年間、13兆円前後で横ばいを続けている。百貨店にいたっては3年連続で6兆円割れ(日本百貨店協会)。市場規模は1991年のピーク時から4割縮小した。

これに対して、コンビニの2018年度の市場規模は前年度比2.6%増の10兆9646億円(日本フランチャイズチェーン協会)。10年間で3兆円強を上乗せした。ドラッグの18年度の市場規模は6.2%増の7兆2744億円(日本チェーンドラッグストア協会)で、この10年間で2兆円増えた。

コンビニは、セブン-イレブン・ジャパンが「近くて便利」を謳うように、文字通り利便性の提供が最大の特性だ。弁当や総菜などのいわゆる中食の需要を取り込むとともに、大量出店による店舗数の拡大で売り上げを伸ばしてきた。

ドラッグも医薬品や化粧品、食品、日用品など生活に必要な商品を一度にまとめて買える利便性を提供する。健康志向という追い風もあって売り上げを伸ばしてきた。

とくに近年は食品の取り扱いを増やし、低価格で販売することによって、スーパーやコンビニなどから客を奪っている。高粗利の医薬品や化粧品で利益を確保するから、食品を薄利で販売できる。ドラッグはスーパーやコンビニにとっては脅威となってきた。

大手3社が市場の9割超を占めるコンビニ

成長を続けるコンビニとドラッグだが、その市場構造は異なる。

コンビニの市場成長を牽引してきたのが、セブン、ファミリーマート、ローソンの大手3社である。大手3社の18年度の全店売上高は合計で10兆円強。コンビニ市場のじつに9割超を占める。

コンビニは市場としては成長しているものの、各社の18年度業績には変調が表れている。

業界最大手のセブンは、全店売上高が4.7%増の4兆8988億円。1389店舗を出店し、773店舗を閉店。既存店売上高が1.3%伸びたものの、営業利益はほぼ横ばいの0.4%増にとどまった。フライヤー商品やDVDなど低粗利商品が伸びたことから粗利益率を改善できなかったことに加え、店舗数増や人件費増による279億円の販管費増、17年9月から実施するチャージ1%減額などが響いた。

2位のファミマは、全店売上高が1.1%減の2兆9828億円。492店舗を出店したものの、2317店舗を閉店したことで減収となったものの、不採算店舗の減少で3割近い営業増益を確保している。

3位のローソンは、全店売上高が6.0%増の2兆2361億円。既存店は0.5%の減収だったが、1030店舗を出店し、閉店を378店舗にとどめたことで増収となった。ただ、加盟店支援や自動釣銭機付きPOSレジの全店導入などで販管費がかさみ営業減益に終わった。

ちなみに、大手3社以外をみると、ミニストップ、ポプラ、スリーエフはいずれも営業赤字に陥っている。

変化するコンビニのビジネスモデル

セブンの営業微増益、ファミマの減収、ローソンの営業減益。こうした業績の変調もさることながら、深刻なのはビジネスモデルそのものの見直しを迫られたことだ。24時間営業問題である。

セブンでは今年2月、人手不足から大阪の加盟店が時短営業を実施するなど本部と対立。24時間営業問題が表面化した。今年4月には社長が交代。10月には、加盟店支援のために本部に支払うチャージにおけるインセンティブを20年3月から見直すことを発表した。

現在、既に実施しているインセンティブは、24時間営業店へのチャージ率2%引き下げと、1%の特別減額だ。

見直しでは、24時間営業店で1カ月の売上総利益額が550万円超の場合は、現行インセンティブに月額3万5千円のチャージ減額が追加され、550万円以下の場合は月額20万円のチャージ減額のみ。一方、非24時間営業店で1カ月の売上総利益額が550万円超の場合は1%特別減額に月額1万5千円チャージ減額が追加され、550万円以下の場合は月額7万円チャージ減額される。

セブン本部はこの見直しによって、本部利益は100億円のマイナスの影響を受けるが、加盟店1店当たりの利益が年間で50万円改善すると見込んでいる。

加盟店支援のためにインセンティブ・チャージの見直しという手を打ったセブンだが、加盟店が時短営業を強行しなければ、ここまで対応策を講じることはなかっただろう。ファミマやローソンへの影響も必至だが、コンビニはビジネスモデルそのものも社会環境の変化に先手を打って対応する時代に入った。

相次ぐM&Aで変わるドラッグストアの業界地図

一方、ドラッグは業界再編の只中にある。

今年4月、業界5位のマツモトキヨシホールディングスと7位のココカラファインが資本業務提携の検討を開始。すると6月、今度は6位のスギホールディングスがココカラと経営統合協議を始めた。ココカラはマツキヨとスギからの提案を検討した結果、8月になってマツキヨと組むことを決定。ココカラをめぐるマツキヨとスギによる争奪戦は、マツキヨに軍配が上がった。

18年度の売上高はココカラが4005億円、マツキヨが5759億円。ココカラとマツキヨは経営統合が実現すると、単純合算で9764億円となり、1位のウエルシアホールディングス(7791億円)を抜き、トップの座につく。

マツキヨはかつての業界最大手。イオン系のウエルシアやツルハホールディングス、そしてサンドラッグ、コスモス薬品などにも抜かれ、順位を後退させていた。それが、ココカラとの経営統合によって一気に1位に返り咲くことになる。

ドラッグの歴史は再編の歴史でもある。大手はほとんどがM&A(合併・買収)によって売上規模を拡大させてきている。マツキヨとココカラの経営統合で売上高1兆円規模の企業が誕生すれば、ライバルへの影響は必至だ。大手を中心に1兆円を目指したM&Aに火が付く可能性が高い。

再編の1つの軸となるのがイオンだ。イオンは、ウエルシアに50%超、ツルハに13%超を出資するほか、中堅ドラッグにも出資している。イオン系のドラッグストア連合「ハピコム」を組織し、ドラッグ業界の一大勢力を形成している。

スギの巻き返しにも注目だ。00年にイオンと資本・業務提携を結んだが、06年に提携を解消している。ココカラを逃したあと、どこと組むのか。

サンドラッグは過去にディスカウントストアのダイレックスを買収したことがあるし、他社との提携にも積極的だ。19年度業績は営業減益と振るわなかっただけに、次の一手を模索する。

大手10社のシェアは7割強を占めるが、アメリカのドラッグ業界をみてみると、ウォルグリーンとCVSヘルスの2社に集約されている。これが日本にそのままあてはまるわけではないにしても、まだまだ再編の余地があるのは間違いない。

10年後にはドラッグストアの市場規模がコンビニと並ぶ

コンビニ、ドラッグは成長を持続できるのか。

コンビニは19年度、大手3社がそろって出店抑制に舵を切った。

セブンの新規出店は850店舗とほぼ半減した。純増は100店舗にとどまる。ファミマは新規出店285店舗で純増100店舗。ローソンは新規出店660店舗で純減20店舗。大手の出店抑制で全店売上高の伸びにもブレーキがかかるため、これまでのような市場成長率を維持することはできないだろう。

コンビニの総店舗数は約5万6千店舗になる。大手3社の出店で毎年増加してきたが、こうした出店抑制が続けば、店舗数が減少する時代が来てもおかしくない。コンビニはかねてより飽和説が指摘されてきたが、社会構造や需要の変化に対応した商品やサービスを開発し、成長に結びつけてきた。しかし、店舗数が頭打ちになれば、いよいよコンビニ飽和説が現実のものとなる。

一方、ドラッグにはまだまだ成長の余地がある。

1店舗当たりの売上高が3年連続で伸長し、18年度には過去最高の約3億6千万円となった。その要因の1つが大型店の増加だ。売場面積150坪以上の大型店比率は上昇傾向にあり、18年度は6割を超えた。大型化するのは、食品を中心に取扱商品を増やすことで売り上げ拡大を図れるからだ。

ドラッグ市場を牽引する大手の19年度の出店はほぼ前年並み。出店を絞る動きはなく、当面、巡航速度を保ちそうだ。中小型店の多い都市部での出店余地が狭まるなか、大型店を郊外で増やす動きが続けば、ドラッグの全店売上高は伸び続けていくだろう。

さらに、伸びしろがあるのがPB(プライベートブランド)だ。ココカラがマツキヨを選んだ理由の1つもマツキヨのPBだ。ドラッグのPB開発は小売業界で後発だが、PBは好採算のため大手は開発を強化しており、今後の拡大が見込まれる。

ドラッグの市場成長率は3年連続で5%を超えている。仮に5%成長が10年続けば、市場規模は12兆円に達する計算になる。

一方、コンビニの市場成長率は鈍化傾向にある。2%成長を続けるとして10年で市場規模は13兆円となる。出店抑制が続き成長率が下振れすれば、ドラッグがコンビニを追い抜く可能性もある。小売業界の勢力図も塗り替わることになるだろう。

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