文化・ライフ

睡眠不足だと、理性が鈍る!

イラスト/坂木浩子

イラスト/坂木浩子

 記録的な猛暑が続いた夏がようやく過ぎ去り、ホッとしている人も多いのではないだろうか。夏の間、寝苦しさのせいでずっと睡眠不足気味だった人は、快適な睡眠を取れているだろうか?

 さて、多くの人が猛暑による寝苦しさや睡眠不足で悩まされた今年8月、タイムリーなことに、睡眠不足と肥満の結び付きを裏付ける新たな研究論文が英科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に発表された。

 研究を行ったのは、先進諸国での肥満の急増と睡眠時間の減少に相関関係があることを以前から指摘してきた、米カリフォルニア大学の研究チームだ。

 研究チームは睡眠不足だと太りやすくなるメカニズムを探るため、被験者23人を対象に、MRI(磁気共鳴画像装置)を使って睡眠時間の違いが脳の働きにどう影響するかを調べてみた。

 頭部のMRI検査が行われたのは2回。1回は十分な睡眠を取った後で、もう1回は十分に睡眠を取らなかった後だ。しかも、MRIの最中、被験者はカロリーの異なる80種類の食べ物の写真を見せられ、食べたいものを選ぶように指示する。睡眠不足時とそうでないときで脳の状態がどう変化するか比べようというわけだ。

 その結果、睡眠不足のときは理性や複雑な意志決定を司る前頭葉の活動が低下し、食べる意欲を司る領域の活動が高まることが分かった。

 しかも睡眠不足だと、野菜や果物といった健康的な食べものより、ドーナツやピザといった高カロリーな食べ物に、より強い欲求を感じることが分かったのだ。

 今までにも、睡眠不足だと満足感をもたらすホルモンであるレプチンの分泌が抑えられ、食欲を刺激するホルモン・グレリンの分泌が活発になることは分かっていたが、脳の状態の変化が明らかにされたのは初めてだ。

 人の脳は、思考や推理、記憶などを司る大脳皮質が非常に高度に発達している。その中でも人が人であるゆえんとも言える理性や判断力を司っているのが、前頭葉だ。睡眠不足だと理性が鈍り、いつもは抑えている高カロリーな食べ物への欲求が解放されてしまうというわけだろう。

 逆に言えば、睡眠を十分に取っていれば、食欲を理性でコントロールすることができ、肥満を防ぐことができるということになる。

睡眠不足による不規則な時間の食事に注意

 また、体内時計と肥満の関係を示す、こんな面白い実験もある。

 夜行性のマウスを夜の時間帯の8時間だけに限り、高脂肪食を摂取できるような環境に置いてみたところ、このマウスは高脂肪食を1日中いつでも摂取できる環境に置かれたマウスと同程度のカロリーを摂取していたにもかかわらず、体内時計の乱れが改善され、肥満や抗インスリン血症、脂肪肝なども、通常食を食べたマウスと同程度に緩和された。その上、運動能力まで向上したという。

 つまり、食事の時間を制限するだけで体内時計の乱れが改善され、高カロリー・高脂肪食を食べていてもメタボリックシンドロームが改善されて、運動能力も上がるということだ。実際、実験後のマウスの写真を見てみると、1日中自由に高脂肪食を食べていたマウスはまるまると太っているのに、夜だけ高脂肪食を食べていたマウスはとてもスマートなままと、両者の見た目は明らかに違う。

 マウスと違って僕たち人間は昼行性だから、食事は昼間だけにして、夜はできるだけ早い時間に食事をすませるようにすれば、たとえ高カロリー・高脂肪食を食べても、健康を維持できる可能性が高いと言えるだろう。

 もちろん、僕は昼間でも高カロリー・高脂肪食を食べようなんて思わない。しかし、もしも睡眠不足が続けば、理性が鈍って夜となく昼となく高カロリーなものを食べたくなってしまう可能性は十分ある。だからこそ、太らないためにはしっかり良質な睡眠を取ることが大切なのだ。

 ちなみに、米国の大規模調査によれば、毎日6・5~7・5時間の睡眠を取っている人の死亡率がもっとも低く、それ以上でもそれ以下でも寿命が短くなることが分かっている。日本でも全く同様の調査結果が報告されているから、だいたい7時間くらいの睡眠がもっとも健康にいいと言えるだろう。

「食欲の秋」「秋の夜長」ともいわれるが、睡眠不足には十分注意しよう!

★今月のテイクホームメッセージ★

 睡眠不足だと理性が鈍って食欲が高まる。十分な睡眠を取って肥満を防ごう。

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