約束を反故にしようと必死の自民党議員
民主党政権が行き詰まり、安倍晋三新総裁を選出した自民党が勢いを増し、解散、そして政権奪取も間近に迫っていたころだ。2012年11月。当時の野田佳彦首相と、安倍総裁の党首討論は解散を引き合いにヒートアップした。
この場で野田首相は「解散してもいい。その代わり来年の通常国会で定数削減をやると約束できるか」と迫った。これに対して安倍総裁は「やりましょう」と応じて場内は与野党から歓声や拍手が起こり騒然とした。
あれから3年たつ。あの時の約束はどうしたのか。
年明けの1月14日、衆議院議長の諮問機関である「選挙制度に関する調査会」が、衆議院の定数削減案を答申した。中身はいわゆる「1票の格差」を是正するために、今ある295の小選挙区を7つ増やし13減らすなど調整し、比例と合わせて現在の定数475から10減の465にするというものだった。答申を受けた大島理森議長は、1カ月をめどに各党が党内議論を行って見解をまとめるよう指示した。
これにあからさまに反発しているのが与党自民党だ。理由は実に簡単明瞭、そしてがっかりだ。議員にとって死活問題だからだという。答申の中で減らされる対象となっている選挙区の自民党の現職の中堅議員が言う。
「13減の対象になっている地域は人口が減り1票の格差が出てきたところだが、こうした地域は年齢層も高くて保守層が多い。今選出されている議員はほぼ全部が自民党議員。つまり、答申案だと自民党の現職が選挙区と地位を失ってしまう」
また、別の対象選挙区の現職は「今回のような答申案は絶対阻止するしかない」と、もはや怒りに近い言葉を吐いた。
しかし、「ちょっと待て」と言いたい。それと、この定数削減の問題を一緒にしてあれこれ議論されては困る。あの時の党首討論で、野田・安倍両トップや議員たちが、「定数削減」を声高に主張していたのは、民自公三党で進めていた「社会保障と税の一体改革」を進める上で、国民へ消費増税など負担が増えるのに対して、議員自らも身を切る姿勢を示さなければというものだった。民自公は、あくまでも消費増税を通すために「国民に痛みを求める以上、議員自身が率先して身を削り模範を示す」と言ったのだ。それを信じて、国民は消費増税法案を呑んだのが「定数削減」の出発点だ。
国民への税負担はその後3年間着々と増加している。消費税率は8%にまで上がり、17年には10%にまで上がる予定だ。痛みは税だけではない。財政改革から社会保障は新年度予算案でも3千9百億円削られている。
にもかかわらず定数削減は超スロースピードだ。おまけにようやく出た答申案にも目の色を変え、「いまさら自分の身を守るための反対」をしているとはもはや開いた口が塞がらない。
「定数削減」の本質は政治の信頼回復
それでも自民党幹部は、厚顔でこう言っている。
「わが党に最も影響が出る以上答申をそのまま受け入れるわけにはいかない。いろんな案を考える。ひとつは小選挙区の定数はそのままにしておいて区割りのほうをうまく変えて1票の格差を是正する方法。この場合定数削減は比例だけでいい。もうひとつは議論自体をもう少し先送りする方法。この2月には国勢調査も出るので、その人口分布を見て1票の格差を再チェックし向こう1年ぐらいかけて議論し直すのもありだ」
ただ一方で、自民党内にも良識的な声もあるのを紹介しておく。あるベテラン議員が言う。
「今の自民党政権が本当にいいのかどうか。そもそも単独で300議席近くも取ると緩みが出たり、中にはどうしようもない連中も紛れ込んでしまう。持論だが、自民単独で270議席ぐらいがちょうどいい。国会の委員長ポストなどは全部取れるし謙虚にもなる。長く続く与党の形はそれぐらいの所帯がいい。だとすれば、自民党だけで現状から20や30ぐらい定数が減ったって構わない。身を切る姿勢を見せるためにも、政治を引き締めるためにも、答申案の10減じゃ足りないんじゃないかと思う」
この「定数削減」問題は、議員の数を減らすことで歳出を減らす単なる財政政策ではない。また「1票の格差」という憲法違反を是正することよりも重要な目的があると思う。それは、「政治の信頼」ではないのか。
自分の身一つ切れない議員に政治を任せることができるのか。「定数削減」をやれるかどうかは、現政権の合否を判断するテーマと言っても過言ではない。安倍首相が決断しトップダウンで実現できるか、自民党議員が与党の責任として矜持を示せるか。「定数削減」は「政治の覚悟」を見極めるリトマス試験紙として、厳しく見て行きたい。
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