経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

訪日外国人が殺到 わずか1年で伸び率91.6%――富士山静岡空港

素通りから旅の起点に

リーマンショックの翌年、2009年に開港したことが物語るように富士山静岡空港は開港後もなかなか思い描いた成長線を描くことができなかった。

ところが昨年、大きな転機を迎える。堅調な国内線はさておき、驚くべきは国際線旅客数の伸びである。14年の利用者は20万4千人、それが、1年後の15年には39万人にまで増えたのだ。伸び率なんと91・6%。驚くほかない。法務省がまとめた昨年の出入国管理統計でも、中部国際、新千歳空港に次いで8位に入っている。そして、その多くを占めるのが中国人観光客。空港を利用する39万人の63・2%、24万6千人にも上る。

富士山静岡空港から臨む富士山(写真提供:フジドリームエアラインズ)

富士山静岡空港から臨む富士山(写真提供:フジドリームエアラインズ)

富士山静岡空港の国際線は、昨年1月まで、中国線は上海路線のみで、あとは台北、ソウル線の3路線、11往復だけであった。それが、今年2月初めの段階では、10路線、週32往復の運航便数がある。新たに就航したのは天津、寧波、武漢・南寧、温州、杭州、南京、塩城・海口と、日本では馴染みのない地名もちらほら見かけることができる。現在は運休中だが夏にはほかに4路線もあったという。

そもそも、なぜ静岡に中国人旅行者が大挙して降り立つようになったのか。その要因を静岡県の担当者に尋ねたところ、もともと外国人観光客が通るルート上に静岡があったこと、そしてスルーされていた静岡を富士山の存在が呼び止めてくれたことを理由に挙げる。中国人にとっても富士山というのは、魅力的に映るようで、ある調査によれば、ピラミッド、エッフェル塔にならぶほどの人気だという。

とはいえ、それだけでここまで多くの航空会社が路線を飛ばすというのも考えにくい。どのようにインバウンド、特に中国人旅行者を県に招き入れたのか、その中心を担った静岡県文化・観光部で、空港を担当する林正尚理事に話を聞いた。

静岡に引き寄せる富士山の魅力

―― 空港活性化の一番の要因は何ですか。

 複合的な要因が組み合わさったものなので、これというのをひとつ挙げるのは難しいのですが、やはり、定番である「東京―富士山―京都・奈良―大阪」のゴールデンルート上にあるということと、外国人旅行者、特に中国人旅行者に人気のある富士山といった地の利でしょうね。また、中国で言えば、静岡県は30年以上浙江省と友好関係を結んでおり、中国との関係が冷え込んだ時にも交流を続けていました。省都・杭州にも念願の路線が開設され、北京首都航空と中国東方航空の2つの航空会社が乗り入れています。もちろん、県として支援も行いました。

―― 具体的にはどんな支援を。

 県の空港ですから条例で、空港着陸料を初年度は免除、2年目以降も、3分の2を減免する取り組みを行っています。航空会社にとって新規就航はコストがかさみますから、これを軽減する支援策です。条例は3カ年ですが、議会の承認が得られれば延長したいと思っています。また観光の分野でも、静岡県内の宿泊施設に1泊していただければ旅行会社やバス会社にキャッシュバックする支援を行っています。県内には伊豆や浜名湖周辺に優良の観光地がありますから、支援以上に地域の魅力を発信できていますね。

―― 羽田も拡張するなど空港間競争も厳しいですが。

林 正尚・静岡県文化・観光部理事

林 正尚・静岡県文化・観光部理事

 羽田空港の拡張程度では、需要に追い付けないと思っています。実は、まだ静岡空港に乗り入れたいとか、増便したいという希望を頂いているのですが、開港時の想定で国際線がこんなに混むとは思っていなかったものですから、施設も小さく1時間に1本しかさばけません。ターミナルを増築して、18年には、今の3倍の受け入れ態勢になる予定です。

―― 中国路線の偏り、イベントリスクへの対応は。

 中国経済の懸念なども聞きますから、各所にヒアリングを行っていますが、当面はまだ需要は下がらないと考えています。

ただ、おっしゃるとおりバランスは考えなければならないと思っています。しかし、いいダイヤは限られていますから、その時間帯に枠を増やさなければ便の設定も難しい。ですから、拡張後を見越して東南アジアなど他の地域へ話をしていきたいと思っています。

―― 空港の将来像については。

 望ましいのは国内、国際の良いバランスです。今は海外から多くのお客さんが一方通行で来られている状況ですが、これからは静岡県に住む370万人のみなさんにもアウトバウンドで海外に出掛けていただきたい。それが、基盤を太くしていくことで底堅い体制をつくる第一歩ですから。まずは県民の方にもっと利用してほしい。何といっても、県営空港ですからね。

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