参院選対策の「おいしい政策」
4月の衆議院北海道5区補欠選挙が、実は結果以上に見せつけたものがある。それは、安倍政権の「地殻変動」だ。
この3年半、安倍首相と自民党は国政選挙で、常に「経済」「景気」を前面に戦ってきた。有権者も「経済」「景気」に期待を寄せ、安倍自民を勝たせてきた。ところが、その争点に微妙に「ズレ」が出てきたのだ。
「北海道5区の地元ブロック紙の北海道新聞が、投開票日の2週間前に世論調査をしたんですが、補選で重視する政策の第1位が経済ではなく『年金介護などの社会保障』が36%と断トツでトップになったのです」(民進党幹部)
安倍首相が看板にしてきた「景気・雇用」が2番目になってしまい19%だったほか、「教育・子育て」が15%と3番目に急浮上した。2月以降、「保育園落ちた! 日本死ね」ブログ問題で、「女性の怒り」が広がってきているという背景がある。また、いくら待てども、地方や庶民にアベノミクスの成果とやらの果実は落ちてこない。
このように、「社会保障」や「女性政策」、「子育て」が政策テーマの主流になってきたことで、今夏の参院選の争点もこのままの流れが続く可能性は大きい。
安倍首相もアベノミクスがもはや票にはならないと十分分かっていると、首相側近は話す。
「1億総活躍社会のグランドデザインを5月に打ち上げますが、大半は女性政策や子育て政策、社会保障、介護、若者の格差や奨学金の対応などを押し出すことになると思います」
しかし、こうした社会保障政策については、2013年12月に、社会保障プログラム法(俗称)が成立し、それに基づいて安倍政権は、今後医療や介護、年金、教育など社会保障分野は縮小して国の支出を減らし、国民の負担を増やすかたわら、地方自治体や各家庭にシフトして行く方針を決めている。
もし、社会保障を改善するなら、プログラム法はそのままにする一方で一時的に保育所の増設だの、介護施設の充実だの、年金低所得者への給付だのをやっても完全な矛盾だし政策の一貫性を欠く。プログラム法と方針を見直し、第三者なども含めた社会保障の在り方の再検討をして初めて、安倍政権が本気だという証明になるのだ。でなければ、5月に打ち出す、「おいしい政策」はやっぱり参院選対策にすぎないということになる。
高くなる安倍政権の勝敗ライン
さて、その参院選だが、勝敗を分けるとされる全国32の1人区で、野党4党(民進党・社民党・生活の党・共産党)は統一候補を擁立する調整を続けている。
「既に青森、宮城、山形、栃木、新潟、山梨、長野、徳島・高知、熊本、宮崎、沖縄など16の選挙区で候補者一本化が決まった。残りのうち岩手、大分など10はほぼ決まることになりそうだ。最後の6つはもう少し時間をかけて直前までやるかもしれないが、最後はうまくいくという空気。するとなんと32全部だ。これまでに決まった16は、民進党の公認が一番多いが、利害がぶつかったところは『無所属』候補にして市民グループや各党が推す形にした」(野党選対幹部)
実は、調整がうまくいっているのは、野党4党の幹事長や書記局長の信頼感が醸成されているからだという。
「3月に、5人(民進党結党前で5野党)で食事をしたが、その時、政局に関して注文も文句も一切なかった。ギリギリと厳しい交渉や大仕事をやっていることが信頼感につながっている」と参加した幹事長の一人は話し、「(民進党の)枝野幸男幹事長は共産党とは安易に組まないというイメージばかりが報じられているが、水面下の候補者調整は極めて現実的な判断をしている」(別の幹事長)という。
現在、野党統一候補が固まった26選挙区すべてで野党の勝利がないにしても、過去の参院選の得票の野党票を単純に加えた計算では、このうち7つで野党が上回ることになるが、たった7つでも大きいのだという。
「今度の参院選の大きな特徴は、安倍政権にとっての勝敗ラインが高いということです」
そう解説するのは自民党選対幹部だ。
「普通なら過半数とれば勝ちですが、安倍首相は憲法改正に政治生命をかけている。そして改憲の発議に必要なのは3分の2。例えば7つ落としただけでも改憲は遠のいてしまうということになるんです」
安倍首相は、「参院選へ何でもアリ」(首相周辺)。過度であろうが矛盾であろうが社会保障政策も掲げる。また消費増税凍結も世論眺めだが参院選に有利と判断すればやるだろう。ダブル選挙も然り。しかし、「地殻変動」に対し奏功するか――。先行きは不透明になってきた。
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