最大震度7を記録した北海道胆振東部地震。全道で長時間にわたって停電が続いたこともあり、交通機関は全面ストップした。それでもコンビニなどの対応は見事なもので、都市インフラとしての役割を果たしたことで市民は比較的落ち着いていた。しかし一方で、新たな非常時の課題も見えてきた。文=関 慎夫
北海道胆振東部地震の影響
地震による全道停電によって失われた都市機能
9月6日未明に起きた北海道胆振東部地震により起きた大規模停電は、北海道の都市機能の多くを奪うことになった。
停電の原因は、震源近くの道内最大の火力発電所である苫東厚真発電所が停止したことだ。地震発生時、同発電所は道内使用電力の約半分を供給していたが、これがストップしたことで需給のバランスが崩れ、他の発電所も次々とストップした。日本国内で、電力会社の管理地域すべてが停電する「ブラックアウト」が起きたのはこれが初めてのことだった。
震源地の厚真町では土砂崩れが起き道内で40人以上の尊い命が失われた。そこから60キロメートル離れた札幌市は震度6弱の揺れを観測したが一部で液状化が起きたものの、揺れによる被害は極めて限定的だった。
筆者はたまたま当日、札幌市内に滞在していたが、建物の倒壊や地面の亀裂、道路の陥没等の被害は一切目にしなかった。翌日、クルマで札幌市内から新千歳空港へと移動したが、その車窓からも地震の傷跡を目にすることはできなかった。
そのため街の風景は前日とほとんど変わらない。ただし信号が消え、クルマが徐行しながら走っている。停電だけが、唯一地震があったことを証明していた。
この停電によって北海道の交通機関は全面的にストップした。JRをはじめすべての鉄道が運休。新千歳空港は閉鎖された。
さらには路線バスや高速バスも運行を取りやめたため、移動はタクシーか自家用車に限られた。札幌駅には行き場を失った人たちが集まっていたが、再開のめどは全く立っておらず、途方に暮れるばかり。
駅周辺の商業施設や飲食店も例外なく営業を中止したため、時間をつぶす場所もない。そのため駅構内には多くの人が床に直接寝転んだり座り込んだりして、営業再開を待ち続けた。
地震情報の入手が困難に
とりわけ一番困ったのが情報の少なさで、テレビも見ることができないため、頼るのはスマホのみ。しかしスマホを使っていれば当然のことながら電池がなくなる。そのため万が一の連絡に備えて使用をセーブせざるを得ず、情報入手も思うようにはいかない。インターネット上ではスマホの電池の節約方法が流れていたが、それを見るにも電池が必要という状況だった。
実際、札幌市内は携帯充電難民であふれかえった。市役所や携帯ショップなどで充電できるとの情報が流れると人が殺到、場所によっては「1人5分」「1人10分」と充電時間を制限することでより多くの人に充電の機会を与えようとしていたが、それでも行列は長くなるばかりで、行列が解消するには深夜を待たなければならなかった。
北海道胆振東部地震で見えた課題①―各所で対応力の差はなぜ出たのか
地震への対応力が増したコンビニチェーン
行列といえば、食料と水の確保のためにも長い行列ができていた。地震直後からコンビニエンスストアには人が集まりだし、飲み物と食べ物の棚はすぐに空になった。コンビニの多くは、商品が届くと店を開け、なくなると閉店を繰り返していた。また地場のセイコーマートは、自動車のバッテリーから電源を引き、停電下でも営業を続けたことで称賛を浴びていた。
札幌市内の停電がほぼ解消されたのが地震翌日の7日午前中。それに合わせるようにして鉄道の一部が動き始め、新千歳空港の国内線発着も始まった。その後は時間が進むにつれて平常を取り戻し、8日には札幌駅前の百貨店も営業を再開した。
地震国・日本では、平成に入ってからだけでも1994年の「三陸はるか沖地震」、95年の「阪神・淡路大震災」、2004年の「新潟県中越地震」、11年の「東日本大震災」、16年の「熊本地震」の5度の地震が激甚災害に指定されている。今度の胆振東部地震も指定される見込みで、5年に1度、日本は大きな地震に襲われていることになる。
そのため、企業の対応力も以前に比べ大きく向上した。前述のコンビニの対応などまさにそうで、ローソンでは本州から商品を搬入、セブン-イレブンはANAと結んだ「緊急時物資輸送支援に関する協定」を活用し、商品の空輸を行った。これらはいずれも過去の教訓が生かされたケースだ。
地震への対応が中途半端だった市役所
ただその一方で明らかになったのは、現場の対応いかんによっては、せっかくの支援がむしろマイナスの効果しか残さないことがあるということだ。
例えば、携帯電話の充電サービスでは、札幌市役所はいち早く対応した。そのため市役所は多くの市民が充電待ちの列をつくり、夕方以降も聞きつけた市民が続々と集まっていた。ところが市役所では午後6時前後に「本日の充電受付は終了した」と、それ以降に訪れた市民を拒絶した。
一方、北海道庁に近い札幌三井JPビルでは、「困っている人がいるかぎりやめない」とロビーでの充電サービスを終夜にわたって行った。地震発生から24時間がたった頃には、充電のために訪れる人はほとんどいなくなっていたが、それでもロビーを開放して対応を続けた。ほぼ同時刻の札幌市役所は、上層階には自家発電によるライトが煌々とついているものの、ロビーは真っ暗で、鍵がかけられている。どちらを市民が頼りにしたかは言うまでもない。
結局、これは「覚悟」の問題なのだろう。人々が今何に困っていて、どうすれば解決できるのか。その解決策をどうやって提供するか。その覚悟がなければ、いくら制度上、あるいは機能上、対応策を取ったとしても、すぐに底が割れてしまうということだ。
北海道胆振東部地震で見えた課題②―観光客向けの情報提供をどうするか
もうひとつ、課題を残したのが外国人への情報提供の在り方だ。地震発生からしばらくは、日本人でも情報収集に苦労した。筆者の場合、東京の知人がこまめに連絡をよこし、「鉄道、空港は終日閉鎖」「世耕経産相が会見で、『電力復旧には1週間ほどかかる』と語っていた」といった情報を伝えてくれた。
ところが外国人観光客の場合、こうした手段を持っていない。筆者の泊まったホテルには、チェックアウトはしたものの一切の交通手段を奪われ、身動きの取れなくなった多くの外国人観光客がいた。ツアーガイドが状況説明をしても、ツアーガイド自身が情報を持っていないため、口論になることも度々あった。
携帯電話の充電場所についても、日本語では案内があったが、外国語対応していないケースが大半で、電池の切れたスマホを手に困惑する外国人に何度も遭遇した。
日本政府は2020年インバウンド4千万人の目標を掲げている。昨年は約2400万人、今年は8月15日までの時点で2千万人を突破し、このままいけば3千万人に到達する。しかし今回の胆振東部地震で、観光客誘致の落とし穴が明らかになった。地震だけではなく、最近の日本では天変地異が日常的風景になりつつある。そこでの対応次第で、外国人の日本人気は大きく左右される。
北海道で地震の恐怖を味わい、その後は情報から遮断された外国人観光客は、果たしてもう一度日本に来たいと思うだろうか。
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